色彩
■ 28.傷はいつか治る

「・・・私は、そなたを傷付けた鬼狼が憎い。だが、鬼狼があのようなことをした原因は、私にもあるのだ。四白を朽木家の護衛にしたのも、青藍の護衛にしたのも、私なのだ。そして、あの日、そなたが一人で邸を飛び出す原因を作ったのは、間違いなく私なのだ。」
そう言った父上の気配は、酷く静かだった。


「済まぬ、青藍。」
父からの謝罪に、青藍は気付く。
きっと、あの件で一番心を痛めたのは、父上なのだ。
だからずっと、自分を責めている。
僕を守るために打った手が、結果として、僕を傷付けたと、思っているのだ。


『・・・父上。僕は、あの時、一つ、解ったことがあります。』
「解ったこと?」
『はい。・・・父上は、どんなに忙しくても、僕と遊ぶ暇がなくても、僕のことを考えてくれている、ということです。』


きっと、父上には解らないだろう。
鎖に繋がれ、監禁されていた僕の所に、父上が現れたときの、眩しさは。
息を切らせて、僕を思い切り抱きしめた父上からは、汗のにおいがした。
必死に僕を探してくれていたことが、幼いながらに理解できた。
感動、とでもいうのか、胸が一杯になって、たくさん泣いたのを覚えている。


『僕はあの日、父上に嫌いと言ったくせに、最初に助けを求めたのは、父上でした。それが出来るくらいには、父上を信じていました。それは、父上が、僕を愛してくれているからです。僕は、無意識に、それをちゃんと解っていたのです。父上が迎えに来てくれた時、僕は、それが父の愛だと、理解しました。僕は、ちゃんと大切にされているのだと。』


「青藍・・・。」
『父上の顔を見て、皆の顔も見て、僕は、凄く、凄く、安心しました。・・・強くなりたいと思いました。自分の身を守るために。そして、父上のように、多くを守ることが出来るように。』
そこまで言って、青藍は小さく笑う。


『僕は、あの時、父上の背中を追うと決めたのでしょう。僕の信頼に応えてくれた父上が、僕に、信じるということを教えてくれました。・・・ありがとうございます、父上。辛い思いもしたし、僕はまだ、あの日のことを思い出すだけで体が言うことを聞かなくなるけれど、でも、僕は、あの日があるから、今の僕があるのだと、思えるのです。』
青藍は布団から片手を出して白哉の方に伸ばすが、その手は届かない。


『こんな風に、まだまだ、父上には届きません。でも僕は、この手を握り返してくれる手があることを、知っています。そうでしょう、父上?』
問われた白哉は、青藍の傍に寄って、その手を握る。
青藍は満足そうにその手を握り返した。
『それで十分。あれが、僕に課せられた試練ならば、乗り越えて見せます。乗り越えて、強くなって、誰かを守れるようになります。』


「・・・あぁ。」
『きっと、あの人のことは、一生許せないし、忘れることも出来ないけれど、あの人から、四白を奪ったのは、僕にだって原因があります。だから、一緒に、傷を、癒していきましょう。ね、父上?』
笑みを向けられて、全てを見抜かれているのだと、白哉は内心で呟く。


「・・・馬鹿者。そなたが心配することなど、何もない。」
『ふふ。そうですね。』
素直になれない言葉に笑みを返されて、心が軽くなる。
「だが、傷はいつか治ると、そう信じよう。青藍が私を信じると言うのならば、いくらでもその信頼に応えてやる。」
『はい、父上。』


それから一週間。
『やぁ、皆。何だか、久しぶりだね。』
「「「「青藍!?」」」」
教室に姿を見せた青藍に、侑李たちはすぐさま駆け寄った。
睦月に他のクラスの面々との接触をさせるなと言われていることもあるが、この一週間、ずっと青藍を心配していたのだった。


「もういいの?」
「平気?」
「心配したぜ。」
「草薙先生が、良いと言ったのよね?勝手にここに来た訳じゃないわよね?」
『あはは。うん。睦月の許可はちゃんとあるよ。』


睦月にあれこれと世話を焼かれ、次々とお見舞いと称して現れる死神たちに驚きながらも、
それに安心したのか、青藍は一人でも熟睡できるようになった。
元々体には異常がなかったため、精神的に安定したという睦月の言葉により、漸く霊術院に復帰したのだ。


「・・・そう。卯ノ花隊長に聞いたら、もう少し時間がかかりそうだと言われたから。」
笑う青藍を見て、雪乃は安心したように息を吐く。
『皆、心配性なのさ。それで、えぇと、鬼狼先生の、こと、なんだけど・・・。その・・・僕と、鬼狼先生、は・・・。』


「・・・無理に話さなくてもいいわ。」
「そうそう。青藍が話せるようになったらでいいよ。ずっと話せないならそれでいいし。」
「何かあったことだけは、お前や隊長たちの様子から解ったからな。」
「うん。でも、無理はしちゃ駄目だからね?解った?」


何か、気付いていることだろうに。
本当は、聞きたいことがたくさんあるだろうに。
それでもそう言ってくれる四人に、青藍は感謝した。
僕のために、そう言ってくれていることが解って、その優しさが、胸に沁みる。


『・・・うん。ありがとう。心配かけてごめんね。見ての通り、僕と、鬼狼先生の間には、色々とあって、まだ、僕は心の整理がついていなくて、それで、話せないのだけれど、いつか、話せるようになったら、話すから。きっと、一生話せないことも、あるのだけれど。』


「それでもいいよ。」
「まぁ、話したくなったら、聞いてやるぜ。」
「うん。とりあえず、青藍、まだ霊術院に来られるみたいで、良かった。」
「そうね。霊術院なんか辞めて、すぐに死神になってしまうかもしれないって、話していたのよ。」
『それはないよ。だって、僕、皆と一緒に卒業したいもの。』
そう言って笑った青藍に、皆が笑みを見せたのだった。
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