色彩
■ 26.親は偉大

「・・・あーあ、睦月君、相当頭にきてるねぇ。」
青藍を抱えて去っていく睦月の背中を見ながら、京楽はのんびりと呟く。
「睦月は、誰よりも青藍のそばに居る時間が長いからな。」
浮竹もまた、のんびりと呟いた。
二人とも、その瞳には悔しさと、若干の殺意が映っているが。


「それでも、感情を抑えて、八房君を手に掛けようとする体を抑えて、青藍を第一に考えて、青藍を邸に連れ帰ることを優先した。・・・並みの男じゃないよねぇ、睦月君。」
「睦月も、あれで俺たちと同じように青藍が大切なんだろう。彼奴も、孤独な奴だったからなぁ。」
「あはは。今は、そうじゃないといいけどねぇ。」


「はは。今はそうじゃないさ。睦月は、孤独なんかじゃない。俺たちも、白哉も、漣も、青藍たちもいる。それに、睦月は、気に入らないところに留まるような性分じゃない。ここに留まっているということは、この場所に居ることが睦月の普通になっているからだと、俺は思う。」
「なるほどね。確かに、そうかもしれないねぇ。」


「・・・兄ら、何をのんびりしておるのだ。仕事をしろ。」
白哉に冷ややかに言われて、二人は苦笑する。
「いや、朽木隊長か咲ちゃんが、一発殴るかなぁ、と思って。」
「そうだな。捕まえてから暴行となると、少々問題だから、待ってみたんだが。」


二人の言葉に、咲夜も白哉も深い溜め息を吐く。
それから、二人に真っ直ぐな視線を向ける。
「「殴る価値もないだろう。」」
声を合わせた二人に、浮竹と京楽は軽く目を見開く。


「八房を殴っても、青藍のトラウマは治ったりしない。」
「青藍の苦しみが終わる訳でもない。」
「本音を言えば、青藍と同じ目に遭わせてやりたいし、殺してやりたい。」
「そうするのは容易かろう。それを隠すことも出来るだろう。」
「だが、これ以上、青藍に命を背負わせたくはない。」
「ましてや、罪人の命など、背負わせるわけがない。」


真っ直ぐにそう言った二人が、浮竹と京楽には眩しかった。
「・・・全く、嫌になるねぇ。」
「そうだな。自分が凄く穢れたように思える。」
「親になるって、凄いことなんだねぇ、浮竹。」
「あぁ。俺たちは、父親もどきにしかなれないらしい。」
浮竹と京楽はそう言って苦笑した。


「当たり前だ。青藍の父は、この私なのだ。」
「そして、母はこの私だ。私は、八房を許すことはしない。だが、私が直接手を下すこともしない。青藍だけではなく、橙晴と茶羅、ルキアのためにも。私たちが私情で穢れを作れば、あの子たちだって、それを責められるのだ。年長者が、若者の未来を狭めてどうする。そうだろう?」
咲夜に問われて、二人は確かにそうだと内心で呟く。


「・・・そうだね。それじゃあ、お仕事を始めようか、浮竹。」
「あぁ。」
京楽も浮竹も、隊長の顔になる。
その顔を見て、咲夜は白哉の手を握った。
握り返された手は、力強くて、湧き上がる感情を何とか抑えているようで、白哉も青藍と同じくらい傷付いたのだ、と咲夜は思う。


そしてきっと、白哉も私に対して同じことを思っているのだろう。
それでも何も言わないのは、この傷を癒すのは、青藍だから。
あの子が笑い、心も体も健やかに成長することが、何よりもいい薬なのだ。


あの日、青藍が攫われて三日後に、白哉が青藍を見つけた日。
助けられた青藍は、嫌いだと言ったことを白哉に謝ってから、白哉に縋り付いて泣いた。
きっと、ずっと、白哉に助けを求めていたのだと思う。
・・・私が、蒼純様に助けを求めていたように。
もちろん、私や浮竹、京楽、ルキア、睦月にも助けを求めていたことだろう。


『助けて、って思っていたら、父上が助けに来てくれたのです。それから、母上たちがやってきて、凄く、凄く安心しました。僕が助けて欲しいと思い浮かべた人たちの顔が、そこに全部あったから。』


青藍の背がルキアぐらいの時になって、青藍はそう言って笑った。
その信頼に応えることが出来て、本当に良かったと思った。
その信頼が、嬉しかった。
その信頼に、応え続けようと誓った。
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