色彩
■ 25.鬼狼の正体

『一体、何が・・・?』
漸く京楽の手が耳から外された青藍は、集まっている面々に首を傾げた。
「青藍は、邸にお帰り。ここから先は、僕ら死神の領分だ。君はまだ院生だからね。青藍のお仕事は、邸に帰ること。ルキアちゃんがもう帰っているはずだよ。ね、浮竹?」


「あぁ。朽木は半日非番だ。今頃、橙晴と茶羅と三人で遊んでいるだろう。お前も遊んで来い、青藍。」
『でも、鬼狼先生は、四白の、関係者、なのでしょう・・・?』
「後で話す。」
白哉に言われて、青藍は首を傾げた。
白哉はそんな青藍の頭を撫でる。


『父上・・・?』
「確かに、四白はそなたを庇って死んだ。だが、それは青藍のせいではないのだ。あの日、青藍の護衛を申し出たのは、四白だった。睦月がそばに居られない時、その代わりとして、四白をそなたの護衛にしたのは、私だ。」
白哉に言われた青藍は、泣きそうになる。


『ど、して、父上は、全部、そうやって、自分の責任に、しようとするのですか。』
「私の責任だからだ。四白を失ったことも、そなたを三日間も一人きりにしたことも。」
『違う!僕が、一人になったのは、僕の、せいです。僕が考えなしに邸を飛び出したから、僕は・・・。』
そこまで言った青藍は、その先の言葉を続けることが出来なかった。
鬼狼の正体に、気付いてしまったからだ。


『・・・あの日、邸を飛び出した僕を、攫った、人・・・?』
青藍の問いに、答える者はない。
沈黙が落ちて、その沈黙が肯定であって、青藍は全身が震えだす。
『そう、なの、ですね・・・。あの日、僕を、鎖に繋いで、ずっと、僕を見ていた・・・。女の、人を、連れてきて、僕の、体に、触れさせて、でも、ぼくは、体が動かなくて。女の人が居ないときは、何度も、ぼくのくびを、しめた・・・。』


呟く青藍の瞳から、輝きが消えていく。
「青藍。私を見ろ、青藍。」
それを見て取った白哉は、青藍の両頬に手を添えて目線を合わせる。
しかし、青藍の焦点は合わない。
『ごめんなさい。ごめんなさい、ちちうえ。たすけて・・・。』


取り乱し始めた青藍の首に手刀が入れられて、青藍の体が崩れ落ちる。
白哉はその体を支えて、手刀を入れた睦月を見た。
「・・・連れて帰ります。ご当主、青藍をこちらに。」
「・・・頼む。」
睦月は白哉から青藍を受け取ると軽々と抱え上げた。


「鬼狼八房。」
名前を呼ぶ睦月の声は、低い。
ひたと見据えられた鬼狼は、軽く一歩後退する。
「・・・幼い子供を攫うだけでも軽蔑するけどな。お前のしたことは、狂気の沙汰だ。恨む相手を間違えるな。お前が本当に憎いと思っているのは、青藍じゃない。お前は、自分ではなく青藍を選んだ兄が憎かったんだ。」


睦月の声は酷く小さかったが、その場によく響いた。
「青藍に危険が及ぶということは、近くに居たお前にも危険があったんだろう。だが、それでも、青藍を選んだ兄が、恨めしいのだろう。兄弟よりも、護衛という仕事を優先して、青藍を守った四白が憎かったんだ。お前は、それを青藍にぶつけていただけだ。」


「違う!私は、兄を憎んでなどいない!私は、兄が大切だった!!」
「それなら、何故お前は青藍を傷付ける。何故、青藍を誘拐しようとした奴に加担した。何故、大切な兄が命懸けで守ったものを壊そうとする。」
睦月に言われて、鬼狼ははっとしたようだった。


「・・・俺だったら、大切な奴が命を懸けて守ったものならば、俺も、命を懸けて守るがな。肉親を失う悲しみは深く、癒えることなどない。恨むなとも言わない。だが、自分が何をしたのか、よく考えろ。四白が命を懸けたものを壊すということは、四白の命を軽く見るということだ。」
睦月に睨みつけるように言われて、鬼狼は動けなくなる。


「お前が傷付けた相手が、青藍だけだと思うなよ。四白が死んで、傷付いたのが、お前だけだと思うな。それでも俺たちが青藍を守るのはな、此奴が、自分のために傷ついたり、失われたりした命を背負おうとしているからだ。その命を無駄にしないために、前を向いて、生きようとしているからだ。お前に、そんな青藍を傷付ける資格はない。」
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