色彩
■ 24.憎しみ

・・・憎いに決まっている。
京楽に見つめられた鬼狼は内心で呟く。
大切な兄は、朽木青藍を守って死んだ。
私の目の前で。
朽木家は、私の生活の援助を申し出たが、援助をうける気にはならなかった。


ただ、憎かった。
兄を奪った朽木青藍が。
あんな、何の苦労も知らない幼子のせいで、兄は、死んだのだ。
憎しみは、尽きることなく、日を追うごとに強くなっていった。
だから、苦しめばいいと思った。
死んだ方がいいと思うほどの苦しみを、与えようと思った。


「・・・当たり前、だろう。兄は、四白は、死神になることも出来た。それなのに、四白は朽木家の護衛になる道を選んだ。当主を守るなら、まだ解る。当主を守って死んだなら、まだ解る。でも・・・兄が守ったのは、何の力もない幼子だった。」
言って鬼狼は奥歯を噛みしめる。


納得いかなかった。
あの強い兄が、あんな無力な子どものために命を落とすなど。
「その上、倒れた兄に駆け寄る者は居なかった。あの場にやって来た、全員が、真っ先に朽木青藍に駆け寄って、慰めの言葉を掛けた。京楽春水、貴方も。」


「否定はしないよ。でも、君の中で四白の優先順位が高いように、僕らは青藍の優先順位が高いんだ。青藍だけじゃない。橙晴に、茶羅も。この子たちはね、僕らにとって、奇跡なんだ。君には、解らないかもしれないけどね。」


「そうだな。八房には、解るまい。私が、ここに来るまでに、どんな道を歩んできたか。その道がどれほど暗かったか。その先に見えた光が、どれ程温かく、眩く、優しかったか。未だに、夢の中に居るのではないかと疑うほどに、青藍が今ここに居ることは、奇跡なのだ。」
咲夜は青藍を一撫ですると、その背中から離れて八房の方へ歩み出す。


「この奇跡を守るためならば、私はこの身を投げ打つ。・・・こうやって、君の首を落とすことだって、躊躇わないだろう。」
とん、といつの間にかすぐそばに居た咲夜に手刀を突きつけられる。
・・・一歩も動けなかった。
目で追うことすら出来ないなんて、次元が違う。
圧倒的な力の差を感じた鬼狼の全身が、近づいてはならないと警告していた。


「四白のことはすまなかった。謝って済むものではないが、謝罪する。だが・・・私は君を許さない。今すぐ君の首を落としたいくらいには。」
ひ、と声にならない悲鳴が上がる。
「安心しろ。首を落としたりはしない。君には、それ相応の刑罰を受けてもらう。己の罪を悔い改めよ。そのために、私は君を生かす。苦しんで生きるがいい。」


「・・・漣。脅しは駄目だぞ。お前の脅しは洒落にならん。」
鬼狼から手刀を離した咲夜に呆れた声が掛かる。
その声と共に影が降りてきた。
「脅しで済むだけ優しかろう。人目がなければこの私が直々に跡形もなくしてやるところだ。」
続いて降りてきた影は、八房の顔など見るのも不快だとばかりに、彼に背を向けて言い放つ。
そしてすぐに青藍の元に向かった。


「白哉・・・。」
そんな白哉に、浮竹は苦笑するしかない。
「・・・睦月。」
「はい。」
白哉に呼ばれて、返事と共に睦月が姿を見せた。
「他の院生たちを教室に戻らせろ。」
「はい。」
「京楽。青藍は連れて帰る。」
「うん。それがいい。」


「・・・朽木隊長まで出て来たね。」
「そうだな・・・。」
「さっき、鬼狼先生は咲夜さんと知り合いみたいな話をしていたけど・・・。」
成り行きを見守っていた京、侑李、キリトはそう言って首を傾げる。


「それより、青藍よ。京楽隊長、わざわざ結界を張って、それでたぶん、青藍の耳を塞いでいたわ。私たちに聞かせたくない話であることはもちろん、青藍にさえ、聞いて欲しくない話をしていたのじゃないかしら。」
雪乃は青藍の方を真っ直ぐに見つめながら、確信を持っていう。


「そうなの?」
「えぇ。青藍と鬼狼先生の間に、何かあったのかもしれない・・・。ここ数日、青藍、何となく変だもの。特に、鬼狼先生が近くに居る時。」
「そうだったかな・・・?」
「そうよ。」


「ご名答です、朝比奈さん。」
聞こえてきた声に、雪乃は、そちらの方を向く。
結界から出て来たらしい睦月が、霊術院での仮面を被ってこちらを見ている。
「ですが、詮索は許しません。・・・皆さん!教室に戻ってください!今日の白打は延期です。教室に戻り、自習をしていてください。」
睦月の言葉に首を傾げながらも、院生たちはぞろぞろと動き出す。


「朝比奈さんたちも、早く戻ってください。それから・・・。」
「それから?」
「・・・気になるだろうが、青藍には、何も聞いてやるな。」
「え?」


「青藍は一週間休ませる。復帰しても、俺がいいと言うまでクラスの奴らを近づけるな。」
睦月は有無を言わさずにそう呟いて、青藍たちの方へ戻っていく。
そんな睦月のどこかピリピリとした様子に首を傾げながらも、雪乃たちは教室に戻ることにしたのだった。
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