色彩
■ 21.自己暗示

『やぁ、おはよう。』
次の朝、いつも通りに姿を見せた青藍に、侑李たちはほっとしたような顔をする。
「おはよう、青藍。もう平気なの?」
京に問われて、青藍は苦笑した。


『うん。平気。心配かけてごめんね。』
「吃驚したぜ。お見舞いに行こうと思ったら、医務室は立ち入り禁止だっていうし。」
『あはは。ちょっと、ね。静かに眠りたかったから。』
「本当にもう平気?青藍、何処も悪くない?」
キリトに不安げに見上げられて、青藍は笑みを見せる。


『うん。何処も悪くないよ。少し、疲れが出たみたいだ。でも、昨日は邸に帰ったし、父上も母上もルキア姉さまも橙晴も茶羅も居たから、元気になったよ。吃驚するくらい、よく眠れたし。睦月も授業に出ていいって。』
「そっか。それなら、大丈夫だね。」
微笑む青藍に、キリトは漸く笑みを見せた。


『うん。』
・・・大丈夫。
僕は、もう平気。
何かがあっても、白刃と黒刃がついている。
青藍は微笑みながらも、内心で自分に言い聞かせる。


「・・・どう思う?」
「・・・まぁ、多少無理はしているな。」
「そのようだな。」
そんな青藍を影から見守る三人がいた。
睦月、咲夜、浮竹だ。


白刃から事情を聞いた咲夜は、昨日の青藍の様子が変だったことを気にかけて、浮竹と共に霊術院までやって来たのだ。
白哉も心配そうにしていたが、彼は任務のため早朝に出かけたのだった。
「侑李たちには、何か伝えたか?」
「いや。あいつら、見舞いに来たんだけどな。会わせずに帰した。」


「そうか。・・・雪乃が居ないな?」
「あぁ、朝比奈は、護廷隊に居る。彼奴も、鬼狼は好きじゃない、と。」
「雪乃も?」
睦月の言葉に浮竹は首を傾げる。


「はい。何だか、胡散臭い、と。まぁ、昨日一日鬼狼を観察してましたが、俺も同感ですね。隠してはいるが、動きに無駄がない。あの袖の中には暗器がいくつも仕込まれている。」
「暗器が?」


「えぇ。・・・これがその内の一つです。」
睦月はそう言って袖の中から短刀を取り出した。
黒く光るそれは、鋭く尖っている。
「もう接触したのか。流石睦月だな。」
「偶然、ぶつかったもんでな。ついでに盗ってきた。」


「おい、睦月。相手に感付かれたらどうするんだ・・・。」
当然のように言った睦月に、浮竹は呆れたように言う。
「気付くかどうか、試しているんですよ。」
「それで、どうだった?」


「・・・恐らく、気付いている。今朝、俺の顔を見たら、反射的に軽く身構えた。俺の顔も知っていたんだろう。昨日、ぶつかった時、挨拶もしていないのに、俺のことを草薙先生と呼んだ。噂で話を聞いたにしては、俺だと確信しすぎている。」
静かな声で話す睦月の目は、ずっと青藍を追っている。


「そうか。・・・浮竹。」
「あぁ。解っている。鬼狼八房を調べろ、だろ?」
「頼めるか?」
「構わない。お前たちが直接動くよりは安全だろうから、俺が調べるさ。」
浮竹はそう言って軽く笑う。


「・・・いつも、悪い。霊妃に聞けばすぐに解るだろうが、あの方はきっと答えてはくださらない。」
「そうだろうな。・・・睦月。少し触るぞ。」
浮竹はそう言って睦月の額に指を当てる。


「昨日お前が見た鬼狼八房を思い浮かべてくれ。」
言われた睦月は目を閉じて昨日見た鬼狼を思い浮かべる。
「・・・・・・よし。見えた。・・・確かに、胡散臭いな。どこか、違和感がある。雪乃もそれを読み取ったのかもしれないな。」


「そうかもしれません。・・・お前も見るか?」
「いや。私は良い。自分で直接見る。」
咲夜の言葉に二人は首を傾げる。
「睦月。次の白打の実技はいつだ?」
「確か、三日後だが・・・。まさか、お前、乱入する気か・・・?」
「ふふん。私らしいだろう?」


得意げな咲夜に、浮竹と睦月は思わず遠い目をした。
・・・これ、俺は、ご当主に、怒られるんですかね?
・・・俺も八つ当たりを受けるだろうな。
目だけでそんな会話をして、互いに互いを気の毒そうに見やる。
それから盛大な溜め息を吐いて、咲夜を見つめる。
尚も悪戯に笑う咲夜に、二人は頭を抱えたくなるのだった。
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