色彩
■ 20.あの日の夢

「・・・ん。せ・・・ん!おい、起きろ、青藍!!」
体を思い切り揺さぶられて、青藍は目を覚ます。
目を開けると、焦ったような睦月が僕の両手を抑えていた。
『む、つき・・・?』
声を出せば、安心したように睦月はため息を吐く。


「起きたか。」
『どう、したの・・・?』
「どうしたのじゃないっつーの!お前、何でそんなに首元引っ掻いてんだよ。血が出てんだろうが!」


『血・・・。』
言われてみれば、首元がひりひりしていた。
頭を動かして自分の手を見れば、爪先に血が付いている指がある。
『本当だ・・・。痛い。』


「そりゃあ痛いだろうな。ったくもう、何やってんだよ。」
睦月はそう言って僕の両手を解放する。
「青い顔してここに来て、そのまま寝たと思ったらこれだ。・・・目立つから治すぞ。」
『うん。』
ゆっくりと触れた睦月の掌は、夢の中の手と違って、温かい。
それに安心して、涙が出て来た。


「・・・どうした?そんなに痛いか?」
『ううん。違う。・・・よかった。睦月、ちゃんとそばに居る・・・。』
「何を言ってんだよ。俺が医務室に居なくてどうする。」
『・・・うん。そうだね。』


「で、何を見た?」
『え?』
「どうせ、碌でもない夢を見ていたんだろう。」
確信を持っていわれて、青藍は苦笑する。
『・・・昔の、夢を見た。・・・あの日の、夢。暫く、見ていなかったのに。』
そう言えば、睦月の眉が顰められる。


「何か、思い出すようなきっかけがあったのか?調子が悪いのはそのせいか?」
『解らない。』
「調子が悪くなったのは、いつだ?」
『・・・新しい、副担任の挨拶の時。』


「新しい副担任?・・・あぁ、鬼狼とかいうやつか。」
『うん。なんだか、変な感じがした。でも、京は別に何も感じていないみたいだった。他の皆も、普通だったし、きっと、そう思ったのは、僕だけ。』
「それ以外に何か思い当たることは?」
『ない、と、思う。ただ僕の調子が悪い、という可能性もあるけれど。』


「・・・そうか。それじゃあ、鬼狼について、後で詳しく調べておく。」
睦月は難しい顔をしている。
『調べる?』
「あぁ。・・・お前が何か感じたなら、何かあるのかもしれないからな。」
『・・・過保護。』


「黙れ、泣き虫。・・・よし。治ったな。今日は授業が終わるまでここに居ろ。一応結界を張るから、この部屋から外に出るな。終わったら今日は邸に連れて帰るぞ。」
『うん。』
「よし。それじゃあ、俺はそろそろ授業に行く。その手、綺麗にしておけよ。」
睦月はそう言って青藍の頭を撫でると、慌ただしく医務室を出て行ったのだった。


『・・・白刃。出てきて。』
青藍が呟くと、すう、と白刃が姿を見せる。
珍しく大人の姿をしているようだ。
「なんですか、青藍。」
『睦月が戻って来るまで、そのままそこに居てくれる?』
「お安いご用です、青藍。」


『あと、鳴神を、呼んで。』
「・・・来なさい、鳴神。」
掌をかざした白刃が呟くと、その手の中に鞘に収まった鳴神が現れる。
青藍はそれを受け取って、抱きしめるようにして布団に潜り込んだ。


「青藍。手を、綺麗にしないと・・・。」
そのまま眠り込んでしまいそうな青藍に、白刃は困ったように言う。
すると、布団の中から片手が出て来た。
無言で見上げられて、白刃は苦笑する。


「仕方ありませんね。では、私が綺麗に致しましょう。」
白刃はそういうと、何処からか取り出した桶に水を入れて、またもやどこからか取り出した手拭いを水に濡らして絞る。
それからそっと青藍の手を取って、青藍の指先を拭い始めた。


『ねぇ、白刃。』
「何ですか?」
『白刃は、あの人のこと、どう思った?』
「そうですねぇ・・・。私も、特には何も感じたりはしませんでした。」


『・・・そっか。』
青藍は頷いて目を伏せる。
「でも、青藍は、あの人が嫌だと思った?」
『うん。あの人に見られるのは、嫌。』
「そうですか。」


『黒刃も、同じかなぁ?』
「それは・・・どうでしょう?私と黒刃は少々違うので。意識を共有しているので、同じということも出来ますが。・・・あぁ、黒刃から伝言が届きました。」
『なんて?』
見上げてきた青藍に、白刃は柔らかく微笑む。


「嫌だと思ったのは青藍だけじゃない、と。それから、どこかで見たような気がする、と。」
『黒刃も?・・・それじゃあ、僕は、たぶん、あの人を、知っている・・・。』
「それも、あの日のことに関係している人物なのですね?」
『・・・解らない。でも、あの人は、嫌。だから、白刃か黒刃がずっとそばに居て。本当は鳴神が良いけど、鳴神だけでは具象化は出来ないから。』
青藍は言いながら鳴神を抱きしめる。


「解りました。咲夜にも、そのように言っておきます。さて、こちらは綺麗になりました。反対の手を出してください。・・・眠ってもいいですよ。」
『うん。それじゃあ、眠る。ありがと、白刃・・・。』
呟くように言って、青藍は眠りに落ちた。
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