色彩
■ 19.たすけて

「・・・ねぇ、君、一人?」
あたりをきょろきょろしていると、後ろから知らない声がした。
『だ、れ・・・?』
振り向いた先に見えたのは、たぶん、男。
逆光なのか、顔は見えなかった。


「朽木、青藍君だよね?」
声からして、若い男だった。
『ぼくを、しってるの・・・?』
「うん。君を、探していたんだ。」


『だれ・・・?』
「・・・・・・少し、おやすみ。」
男が言うと、青藍の意識は暗闇に落とされた。


「・・・見つけた。・・・私の・・・だ。」
暗闇から浮き上がった青藍の耳に入ってきたのは、さっきとは違う男の声だった。
「美しい・・・。だが・・・だから、あそこに・・・させよう。」
ひたり、と、知らない手が頬に触れたのが解った。


「ですが、もし・・・たら?」
何かを問うたこの声は、先ほどの若い男のもの。
「あそこにいれば、見つけられない。」
「朽木家が、相手でも?」
「あぁ。・・・早く、連れて行きなさい。但し、丁重にな。傷一つつけることは許さない。」


「御意。」
若い男の声とともに、体が浮くのが解る。
目を開けても何も見えないことから、目隠しをされているらしかった。
伝わってくる振動から、移動しているようだ。
その振動が気持ち悪くて、再び目を閉じると、意識が遠のいていく。


「・・・ここか。よくこんな場所を知っているものだ。」
再び意識が浮上すると、男の呟きとともに、ぎぎ、と重い扉が開かれる音がした。
また体が揺れてから、重い音が再び聞こえる。
ガシャ、という音とともに、扉が閉まったらしい。
そこで漸く体を降ろされて、地面に転がされる。


『な、に・・・?』
「目が覚めた?気分はどう?」
『・・・きもち、わるい。』
「そう。まだ薬の効果は切れていないみたいだ。」
じゃらり、という音が聞こえてきて、首元にひやりとした冷たさを感じる。
カチ、という音がして、首元が苦しくなった。


『くる、しい。なに、これ。』
「死ぬことはないから、我慢して。」
『ここ、どこ?むつきは?』
「むつき?あぁ、護衛の。むつきは居ないよ。」
『どうして?』


「さぁね。・・・手、出して。両手。」
言われた通りに手を出せば、手首にひやりとした感覚があって、思わず手を引っ込める。
『それ、いやだ。』
「言うことを聞かないと、誰も君を探しに来てはくれないよ?君の父上も、母上も、姉さまも、睦月も。他の皆も。もう、会えないかもね。首も、ずっと苦しいままだ。」


『くるしいのは、いや。』
「それじゃあ、両手を出して。そうしたら、首は少し楽にしてあげる。」
そういわれて両手を出せば、かしゃん、と手首に何かが嵌められたのだった。
「これでよし。」
若い男の気配が遠ざかる。


『くび、くるしい・・・。』
「あぁ、ごめん。楽にするって言ったの、あれ、嘘。素直に両手を出してくれて助かったよ。」
男の声には笑いが含まれていた。
『うそ・・・?』


「そう。嘘。君がどんなにいい子にしていても、助けは来ない。・・・君は今日からただの玩具だ。この先ずっと、苦しいまま。」
『いや・・・いやだ!!これ、とって!!いやだ・・・!!』
「五月蝿い!!」
いつの間にか男の気配が近くにあって、首に手を掛けられる。


そのひやりとした手に、ぐ、と力が入れられて、息が詰まった。
『く、るしい・・・。』
「苦しい?生きてる証拠さ。君を守って死んだ奴はもう苦しみさえ感じることは出来ない。君のせいで死んだのに、どうして君は生きているのかな。」


冷たい声。
そして、徐々に絞められる首。
『ぐ、あ・・・あ・・・。』
息が出来なくなって、意識が飛びそうになると、首から手が離された。
『・・・う、げほ。けほ、ん、はぁ、はぁ・・・。』
漸く入ってきた酸素に、必死で呼吸をした。


どうして・・・?
ちちうえのこと、きらいって、いったから・・・?
ごめんなさいするから、たすけて、ちちうえ・・・。
泣き始めた僕をそのままにして、男が出て行くのが解った。
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