色彩
■ 騒がしい日々A前編

「やぁ、青藍。」
薬学の授業に出ていた青藍の元に咲夜が姿を現した。
『母上・・・。授業中ですよ。』
青藍は窘めるように言った。
睦月がこっそりとそれに同意するように頷いた。


「あはは。まぁ、少し、匿ってくれ。」
咲夜はそう言って笑う。
そんな咲夜を青藍はじっと見つめた。
「な、なんだ?」
青藍に見つめられて咲夜は目を泳がせる。


『・・・母上、熱がありますね?』
「な!?ないぞ。私は風邪などひいておらぬ。だから、熱など出ていないのだ!」
咲夜は慌てたようにそう言った。
『・・・はぁ。父上にそれがばれそうになってここに逃げてきたのですね?』
「・・・そんなこと、ないぞ。」


『嘘はいけませんよ、母上。ほら、こんなに熱いじゃないですか。』
青藍は咲夜の額に手を当てながらいった。
『睦月、母上に薬を。』
「すぐにご用意いたします。」
睦月はそう言うと薬の調合を始める。


「うわ、睦月、やめてくれ。それを入れたら苦くなる!なんだその量は!?私はそんなもの飲まないぞ!」
睦月が手に取った薬草をみて、咲夜は騒ぐ。
「これがなければ熱は下がりませんので。」
睦月は何やら楽しそうだ。


「君の薬は苦いのだ!」
「良薬は口に苦し、と申しますからね。」
睦月はそう言ってにっこりと微笑む。
それを見た女生徒が顔を赤くした。


「睦月の鬼!悪魔!」
咲夜はそう言って逃げ出そうとする。
『母上。逃げないでください。それに、そんなに騒いだら熱が上がりますよ。』
青藍はそう言って咲夜を捕まえる。


「さぁ、出来ましたよ、咲夜様。お飲みになってください。」
睦月はそう言って薬を差し出した。
表情が生き生きとしているなぁ。
青藍はそんな睦月に内心苦笑する。


「いや、いやだ!青藍!私は嫌だぞ!」
咲夜は青藍を盾にしながらそう言った。
『母上。ちゃんとお飲みにならないと。確かに睦月の薬は苦いですが。』
「う、私の薬はとっても苦いのだぞ!青藍が代わりに飲め!」


『それでは意味がありません。それに、母上の薬を僕が飲んだら元気になるどころか死にかけます。母上にとってはちょうど良くても、僕にとっては致死量です。』
「青藍様の言うとおりにございます。さぁ、咲夜様?早くお飲みにならないと。」
そう言って笑みを深める睦月に咲夜は軽く悲鳴を上げる。
すでに涙目だ。


「・・・見つけたぞ、咲夜。」
その声と共に白哉が姿を現し、教室は騒然とした。
「び、白哉・・・。」
白哉の姿を見て、咲夜はさらに涙目になった。


「風邪を引いているのは解っているのだ。早く薬を飲まぬか。大体、熱があるのにその辺をふらふらするな。」
白哉はため息を吐きつつ咲夜に近付いていく。
「ご当主様、これを。咲夜様が飲みたくないと言い続けているので困っているのです。」
睦月が白哉に薬を差し出すと、白哉は其れを受け取った。


「青藍、水を。」
言われて青藍はどこからか水筒を取り出す。
『どうぞ。』
青藍から水を受け取ると、薬と共に口に含んだ。


「ひっ!白哉、まて。それは・・・!?」
それを見た咲夜は後ずさりしようとするが、青藍がそれを許さない。
白哉は暴れる咲夜の顎を掴み、咲夜に口づけた。
その光景に教室内から悲鳴が上がる。
青藍はそれを見て苦笑した。


「んー!!!!ん!・・・・・・んう、んむ。」
咲夜はジタバタと抵抗していたが、最終的には薬を呑みこんだらしい。
そして力尽きたようにぐったりとした。
それを確認した白哉は漸く唇を放した。


「・・・睦月、いつもより苦くはないか?」
白哉は微かに顔をしかめながら睦月に言う。
「熱が高いようなので。あと二、三回は飲んでいただきますのでご覚悟を。それから、ちゃんとこちらの中和剤を飲んでくださいね。咲夜様のお薬は常人には毒に近いので。ご当主様が常人かどうかはともかくとして。」


「相変わらず失礼な奴だ。・・・薬の苦さを取り除く術はないのか?」
中和剤を飲んだ白哉は睦月に問う。
「さぁて。そんな術があれば僕の楽しみがなくなってしまいます。」
睦月はにこにこと答えた。


「・・・。」
そんな睦月に白哉は呆れたように黙り込む。
『あはは。睦月って鬼だよね・・・。腕は一流なのだけど。』
「お褒め頂き光栄です。・・・咲夜様はどうされますか?」


「私が邸に連れ帰る。咲夜の熱が下がるまで、睦月は邸に居ろ。代わりに弥生をここに置いておけばよかろう。」
白哉は咲夜を抱きかかえながら言った。
「かしこまりました。すぐにお呼び致します。」
睦月はそう言って一礼する。


「青藍。」
『はい?』
「浮竹かルキアに連絡を入れておくように。」
『解りました。恋次さんへの連絡はいかがいたしますか?』
「今日の分の書類は邸に持ってくるよう伝えろ。急ぎの用があれば邸に直接来いとも。」


『では、そのように。』
「頼んだぞ。」
『はい。お任せを。』
頷いた青藍を見て、白哉は咲夜を抱えて教室から出て行った。



2016.07.08
風邪ひき咲夜さんを捕まえる青藍。
後編に続きます。


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