色彩
■ 14.消えた温度

斬魄刀が交わって、キン、と木刀とは違う音が鳴り響く。
やはり、木刀と斬魄刀とでは感じが全く違う。
最後の一人であるため、青藍は適当に相手に合わせつつ、見ごたえのある戦いにしようとする。
それに気が付いているのかいないのか、加賀美が青藍に話しかけてきた。


「・・・お前、朽木青藍なんだろ?」
その言葉に青藍は目を見開く。
『・・・まさか。僕は立花青藍だよ。』
「嘘を吐くな。立花青藍という名の貴族は居ない。そもそも、貴族に立花という姓はなかった。」


・・・調べられていたのか。
『・・・。』
「そして、あの朽木咲夜という死神は、昔、立花という名で護廷隊に居たそうだな。・・・これはただの偶然か?」
静かに言う加賀美に青藍は相手がどこまで調べたのかと、考えを巡らせる。


『さぁね。僕は立花青藍だから。そもそも、僕は僕が貴族だなんて言ったことはないはずだよ。』
とりあえず、しらばっくれてみよう。
「俺に貴族について説教を垂れた奴がそれを言うか。」
加賀美は青藍をぎろりと睨みつける。
『やだなぁ、あれは一般論さ。』


「それに・・・その実力。俺だって上流貴族として教育を受けてきたんだ。お前ほどの力を手に入れるためにどれ程の教育が必要か知らないわけではない。そして、そんなことが出来るのは、四大貴族ぐらいだ。その容姿からすると、それは朽木家である可能性が高い。さらには、その朽木家の長男は、青藍という名だ。」
キン!
再び金属音が響いた。


『ふふ。で?そうだとして君はどうする気なの?僕が朽木家の者だとしたら、君の持論でいけば、君は僕に逆らえないということになるけど。』
青藍はにっこりと微笑む。
そんな青藍から浮竹と京楽は何となく目を背けた。


・・・微笑んでいるのに怖い。
と、同じことを思いながら。
ちなみに咲夜は事の成り行きを楽しげに見ているだけである。
院生たちは加賀美が言い出したことに混乱しているようだ。
侑李、京、キリト、雪乃を除いて。


「・・・なぜ、加賀美家を潰さなかった?」
加賀美は絞り出すように言った。
『さぁね。そんなこと、僕が知るはずがないでしょう。』
青藍はあくまでも隠し通すつもりだ。
「何が狙いだ。」
しかし、加賀美の中では青藍は朽木青藍だと確定しているらしい。


『さて?何だろうね?』
その答えに加賀美は苛立ったようになるが、青藍はそれを見ても笑みを深めるだけだ。
「・・・そうか。いつまでそうやって知らぬ存ぜぬを繰り返せるだろうな?」


そう言って加賀美は片手を柄から放し、その腕を真っ直ぐに横に伸ばす。
そしてそのまま、掌を外側に向けると、
「破道の三十三、蒼火墜!!!」
鬼道を放ったのだった。


『!!!!』
その先に居たのは、ルキア。
青藍は瞬歩でルキアのもとに移動すると、庇うようにルキアを抱きしめる。
そして、加賀美の放った鬼道を斬魄刀で弾いた。
『・・・今、何をした?』
青藍の声から温度がなくなる。


俯いているため、その表情は見えないが、その場の温度が急速に冷えていく。
その様子に、隊長格たちは背筋が寒くなる。
未だに抱きしめられているルキアを除いて。
といってもルキアは突然起こった出来事に混乱していただけなのだが。
加賀美もまた、この前よりも冷たい声をする青藍に小さく震えたようだった。


『・・・何をしたと聞いている。答えろ、加賀美。』
再び、青藍が静かに言った。
「やはり、お前は、朽木青藍。それを庇ったのが、その証拠だ。」
そんな青藍に怯えながらも加賀美は言った。


『この方は、朽木家当主の妹。そんな方に手を出して、ただで済むと思っているのか。』
青藍は加賀美を睨みつける。
「そんなことどうでもいい。お前の秘密をを暴けるならな。俺は、お前が、朽木青藍が気に入らない。」
『そう。』
青藍は短くそう言うと、漸くルキアを腕の中から解放した。


『・・・お怪我はありませんか?』
加賀美に対する声とは反対に、ルキアには心配そうに、優しく声を掛ける。
「あ、あぁ。ない。」
『そうですか。それは良かった。』
青藍はそう言ってくるりとルキアに背を向けた。
「青藍・・・?」


『阿散井副隊長。』
「な、なんだ?」
突然名を呼ばれた恋次はびくり、としながら声を上げる。
『朽木副隊長の目と耳を塞いでいてください。僕が良いというまで。・・・いいですね?』
「・・・あぁ。」
青藍の気迫に気圧されるように恋次は頷いて、ルキアを抱きしめ、耳を塞ぐ。


「恋次?何をする・・・。」
そんな恋次にルキアは声を上げるが、恋次はルキアを放さなかった。
いや、放せなかったのだ。
青藍と自らの隊長である白哉の姿が重なって見えたために。


「・・・僕ら、なんだかこれからとても怖いものを見るのかな。」
イヅルがポツリと呟いた。
「吉良、それを言うな・・・。」
「あ、あはは・・・。あたし、帰ろうかしら・・・。」
「あの青藍君を怒らせるなんて、命がいくつあっても足りないのでは・・・。」


「それも相当怒っているよね、浮竹・・・。」
「あぁ。漣、お前、あれを止められるのか?」
「あはは・・・。自信はないな。ルキアに手を出したことは私も怒っているからな。」
「この状況でお前まで暴走したら、俺たちは死んでしまうぞ・・・。」
咲夜の様子と浮竹の言葉に、その場にいた者たちは自分の運命を呪いそうになった。
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