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■ 陽だまりの人B

店を出て、夜道を歩く。
隊長の髪と羽織の白が月の光を反射して、隊長を暗闇から浮かび上がらせる。
その姿に、どんな暗闇に居ても隊長の姿だけは見失わないのだろうな、と、そんなことを思った。


「・・・なぁ、漣。」
店を出てから暫く沈黙していた隊長が私の名前を呼ぶ。
『はい?』
返事をすれば、振り向いた隊長が隣に来いと視線で合図をする。
恐縮しながらも、隊長の隣に並んだ。


「副隊長に、ならないか。」
『・・・・・・え?』
頭上から零れ落ちてきた言葉に、耳を疑う。
目を瞬かせながら隣の隊長を見上げれば、ちらりと視線が向けられた。


『ふく、たいちょう・・・と、言いますと?』
「海燕の後釜・・・と、言いたいところだが、六番隊の。」
『六番隊・・・?』
「あぁ。」


『・・・・・・隊長、先ほどの私の話を聞いておられましたよね?』
「聞いた。」
『それなのに、私に六番隊に行けとおっしゃるのですか?』
「・・・まぁ、な。」
自分が無茶苦茶なことを言っている自覚はあるらしい。
気まずげな返事が返ってきた。


『そんなに、朽木隊長が、心配ですか。』
「彼奴は今、副隊長を探している。」
『他人の心配をしている場合ですか。今、私が抜ければ、隊長の負担がさらに増えます。副隊長が抜けただけでも、隊長の負担は増えているでしょう。』


「俺には、他に適任者が思いつかない。」
嫌だ、と思った。
私は、入隊してからずっと、十三番隊に居るのだ。
今までも、これからも、ずっと、十三番隊がいい。


『・・・私は、他に適任者がいると思います。』
「いや、居ないさ。」
『居ます!私などより、六番隊の副隊長に相応しい人が!』
「・・・そこまで言うならば、名前を挙げてみろ。」


隊長の声音が、変わった。
その厳しい声に、動揺する。
隊長は、本気で、私を六番隊に行かせようとしている。
私を、遠ざけようとしている。


・・・考えろ。
あの、朽木白哉に相応しい適任者を、私は、知っているはずだ。
他隊の席官、いや、平の隊士でもいい。
彼と背中合わせで戦える人。


考えろ。
考えろ。
考えろ、私。
そして私の思考は、ある人物を導き出した。


『・・・十一番隊、阿散井恋次。』
「何・・・?」
『朽木の、同期で、幼馴染です。朽木隊長とは、生まれも、性格も、戦い方も、全部が真逆の男でしょう。でも、たった一つ、共通点があります。』
隊長を見上げれば、視線が返される。


『朽木ルキアという共通点が。』
これほど真っ直ぐに隊長の瞳を見たことがこれまであっただろうか。
というより、こんな答えで、隊長の心を動かすことが出来るのだろうか。
でも、頭の中で朽木隊長と恋次を並べると、意外と違和感はなかった。


『恋次は、院生時代に、朽木の腕を離したことを、後悔しています。だから、いつか絶対朽木隊長を超えてみせる、と。そして、朽木という名前を背負っている朽木の隣に、もう一度立ってみせるのだ、と。多少がさつではありますが、信頼できる男です。朽木隊長に必要なのは、ただ背中を守るだけの副隊長ではありません。あの人に必要なのは、あの人に正面からぶつかっていくことの出来る人ではないかと、そう思います。』


正直、賭けだった。
きっと、隊長にとっては、意外すぎる名前だ。
朽木隊長の傍に、彼と正反対な男を置くなど、考えもしなかっただろう。
彼の支えになる者。
それしか考えていなかっただろう。


ただ、第六感とも言うべき何かが、彼が適任だと私に訴えかける。
それが、十三番隊に居たい、と願う私の逃避かもしれないとは思うのだが。
でも、この賭けに負けたくはなかった。
だから、私は隊長の瞳を真っ直ぐに見つめる。
目を逸らせば、隊長はきっと、私の言葉を信じないから。


暫く見つめ合って、ふい、と、視線を逸らしたのは隊長だった。
「・・・敵わんな。降参だ。」
聞こえてきた声は、いつもの穏やかな声だ。
『え?』


「彼の名前が出て来たのは、直感か?」
『え、と、はい・・・。』
「彼とは親しいのか?」
『何回か直接話したことがあるくらいです。斑目三席を通じて、彼の話を聞くことは良くありますが。』


「意外と顔が広いよな、お前・・・。」
『そう、ですかね・・・?』
「だが・・・うん。俺も、悪くない気がしてきた。正反対の方が、上手く嵌まるかもしれないな。」


『私も、そう思います。それに・・・。』
「朽木に心を砕いているのは、二人とも同じ・・・か。」
『はい。朽木の存在が、二人を繋げるのではないかと。』
「そうか・・・。それじゃあ、白哉に彼のことを伝えておこう。」


『それならば、私は十三番隊に居られますね。』
にっこりと微笑めば、隊長はぐ、と息を詰まらせる。
『ね、隊長?もう二度と、他隊に行けだなんて、言いませんよね?』
「・・・すまん。」


『別にいいですよ。隊長が私をどんなに遠ざけたくなっても、私、十三番隊から離れるつもり、ありませんから。』
「いや、その、遠ざけたくなったなんて・・・否定は、しないが。」


『隊長ったら、酷いです。そこは嘘でも否定してください。私が悲しくなります。隊長は、私など必要ないんですね。酷いなぁ。』
思ったよりもショックを受けていたらしい。
自分の声音が酷く拗ねているのが解る。


「違うんだ、漣。お前を、遠ざけたくなったのは・・・その・・・。」
『なんですか?』
「・・・お前が、傍に居ると、頼ってしまいそうになる・・・。つい、弱音を吐いてしまう・・・。そんなの、格好悪いじゃないか・・・。」


何だそれは。
情けなく眉を下げて、困りきった顔。
言われた言葉。
・・・響くって、こういうことか。
今のは、確かに響いた。


『・・・頼ればいいじゃないですか。愚痴を言いたいのならば、聞きます。泣きたいのなら、泣いてください。泣き顔を見られるのが嫌ならば、私が、それを隠しましょう。どんどん頼ってください。寂しいじゃないですか。隊長が誰にも頼れないなんて。この役立たず!って、副隊長が枕元に立って、私を引っ叩きますよ、そんなの。』


「はは・・・。そうか。それなら、少し、頼らせてくれ。」
『もちろん。』
頷きを返せば、隊長との距離が近くなって、肩に感じる温もり。
隊長の額が、私の肩に乗せられているらしい。


『え、た、隊長・・・?』
「何だ?」
隊長の声が、触れた部分から私の体に直接響いて、それが酷くくすぐったい。
『えぇ、と・・・これ、頼ってるんですか・・・?』
「あぁ。少しだけ、このまま・・・。」


『そ、れは、良いんですけど、道端ですよ・・・?』
「誰かに見られたら、困るか?」
『え?いや、困りますよね?隊長、ご自分のお立場を解っておられます?』
「・・・はは。良いじゃないか。たまには。」


『えぇ・・・。さっきまであんなに頼りたくなさそうだったのに・・・。』
「お前が良いと言ったんだろう。」
『いや、そうなんですけど。』
「それなら、問題ない。」


『もしかして、実は酔っていらっしゃる?』
「ははは。」
『何なんですか、その笑い。』
「いや、なんだか楽しくなってきた。」
『私は訳が分かりません。』


何だかよく分からないが、隊長は笑っている。
それなら、まぁ、いいか。
そう思って笑う隊長に暫く肩を貸すことにしたのだった。



2016.11.05
Cに続きます。


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