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■ 紅A

隠密機動からの要請を受けて向かった邸の中は、血の色で染まっていて。
その血溜まりの中心に居たのは、一人の女。
刑軍装束を纏う彼女を一目見て、目の前の女が近頃話題になっている女だと確信する。


残酷無慈悲の血染めの姫。
刑軍に所属するというその女の標的となった者は、必ず血溜まりの中で絶命しており、辺りには血の雨でも降ったように血が飛び散っているという。
嗅覚を刺激する血の匂いが、酷く濃かった。


地獄絵図、と言えるほどに血が満ちた室内に佇む彼女は返り血を浴びているらしい。
刑軍装束が彼女の動きに合わせて重たげに揺れている。
鮮烈な生の紅色と、死の匂い。
彼女ほど紅色が似合う女は居ないだろう。
そんな不謹慎なことを考えた。


『・・・誰だ。』
こちらの気配に気付いたらしい彼女は、警戒心を隠そうともせずに鋭い声を発する。
その声に答えずに部屋に足を踏み入れれば、私が何者であるか悟ったのか、反射的に構えたであろう身体から力を抜いた。


「すべて、そなた一人の仕事か。」
『はい。』
短く答えた声は、静かな室内に良く響く。
こちらを見たその瞳には、何の感情も映ってはいない。


「そうか。・・・退け。後始末はこちらで引き受ける。」
そう言えば、彼女の周りに結界が張られて、姿が見えなくなる。
すぐさま彼女の気配が遠退いて、思わず彼女を追いかけそうになった。
伸ばしかけた手を、慌てて制止する。


初対面ではないのか・・・?
内から湧き上がる何かが、彼女を知っている、と私に訴えかける。
あの女は、誰だ。
霊圧を探ろうにも、彼女の霊圧は既に追えないほど遠く。
しかし、思い浮かべた先ほどの彼女の後ろ姿が、彼女が誰であるかを思い出させた。


・・・何度か見かけた、夜一が好んで傍に置いていた女だ。
突然、見舞いに行くぞ、と、夜一に連れ出され、向かった先の貴族の邸の奥で、臥せっていた女だ。
あれは確か、漣家。
あの漣家の姫は、刑軍に所属していたのか・・・。


「この血溜りは、噂の血染めの姫ですかね。・・・朽木隊長?」
考え込んでいたらしい。
後から到着した部下が不思議そうにこちらを見ていることに気付いて、返事を返す。


「・・・そうやもしれぬ。」
「相変わらず惨い現場ですね・・・。まるで見せしめのようだ・・・。」
「罪人への同情か?」
「いや、そういうつもりでは。ただ、同じ死神としては、胸が痛むと言いますか・・・。こんな仕事をするに至った経緯を推し量ってしまうと言いますか・・・。」


「なるほど。確かにそうだな。・・・すぐに罪人を移送しろ。亡骸の取り扱いは四十六室の採決を待つ。」
「畏まりました。」
一礼して去っていく部下は、血痕を踏まないように気を付けて部屋から出て行く。


彼女はこの血の海の中心で、何を思っていたのだろう。
今頃どこかで血を洗い流しているのだろうか。
・・・あの時のように、臥せっているのだろうか。
そんな自分の思考に、内心苦笑する。


私が心配したところで、あれは刑軍だ。
こちらに心を開くことはもちろん、心を傾けることなどないだろう。
内心で呟いて、踵を返す。
ただ、あの時のように臥せっていることがなければいいと、小さく願った。



2016.04.01
Bに続きます


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