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■ each otherC

「お疲れ様です、京楽隊長。」
「うん。お疲れ様。」
「浮竹隊長まで!?」
「ははは。お疲れ。少し邪魔させてもらうぞ。白哉は隊主室か?」
「はい。先ほど戻られたので、まだいらっしゃるかと。」


隊舎に入るや否や、あちこちから挨拶が飛んできて、目を丸くする。
六番隊の隊士のほとんどが、二人の顔を知っているようだった。
隊長ともなれば有名人なのかもしれないが、他隊でもこれだけ認知度が高いとは驚きだ。
一隊士にも良くしてくださる、というルキアの言葉も本当らしい。


『・・・隊長さんって、凄いのね。それに、こんなにたくさんの死神を見たのは初めて。』
そんな呟きを漏らせば、今気が付いたというように、隊士たちの視線がこちらに向けられた。


「こちらの方は?」
「あぁ、この子は、朽木隊長のこ・・・。」
『京楽様!待ってください!』
婚約者、と続けられそうになった言葉を、慌てて遮る。


「うん?どうしたの?」
不思議そうに見つめられて、口籠った。
『・・・あの、その、私は、客人の前に出ることも、お許しを頂いて、おりません。だから、あまり、私のことは・・・。』
言わないでほしい、と見上げれば、京楽様は複雑そうな顔をする。
ちらりと見た浮竹様も同じような顔をしていた。
その理由が解らなくて首を傾げる。


「・・・そっか。それじゃあ、僕らが勝手に紹介するのはまずいね。」
「そう言うことらしいので、然る貴族の姫、とだけ言っておく。」
笑みを浮かべた二人に首を傾げながらも、事情があるのだろうと考えたのか、隊士たちは深入りするのはやめたらしい。


「じゃ、また。朽木隊長に逃げられると困るからね。」
「はは。そうだな。」
『あ、あの、ま、また・・・?会えるかは、解らないのですが・・・。』
「なるほど。深窓の姫君というわけですか。では、また会える機会をお待ちしております。」
『は、はい・・・。』


勝手知ったるというような足取りで連れて来られたのは、隊長の私室である隊主室の前。
しん、と静まり返っていて、霊圧も感じられないが、誰かが中に居ることが解る。
白哉様の気配は、いつも静かで、その静かさが、近寄ることを躊躇わせる。
しかし、両隣に居る隊長たちはそんなこともないらしく、適当に声を掛けて勝手に扉を開けてしまった。


「・・・何だ。」
かたり、と何かを倒す音がしてから、白哉様がゆっくりと振り返る。
文机のうえにあるのは、恐らく写真立て。
その写真立てに収められている写真が緋真様のものであることは、容易に想像できた。
別に隠す必要なんてないのに。
内心で呟いて、白哉様を見る。


「咲夜ちゃんがお礼を言いたいんだってさ。お礼を言う前に居なくなってしまったから、僕らで追いかけて来たってわけ。」
『あ、あの、先ほどは、ありがとうございました。』
礼を言って頭を下げれば、構わぬ、とそっけない声が返ってきた。


それから暫しの沈黙。
『・・・・・・あの、では、私は、これで。お仕事中、失礼いたしました。』
「あぁ。」
そのまま出て行こうとすると、両側からがしりと腕を掴まれる。
「「ちょっと待った。」」


『どうかなさいましたか・・・?』
驚きに視線を上にあげれば、お二人は呆れた視線を白哉様に向けている。
その視線を辿って白哉様を見れば、軽く首を傾げているようだった。
白哉様も二人の行動の意図を図りかねているらしい。


「・・・一応聞くが、それだけか?」
浮竹様の問いに、白哉様は小さく眉を顰める。
「何がだ?」
短く帰ってきた言葉に、浮竹様は額に手を当てて、小さな溜め息を吐いた。


「・・・こっちも一応聞くけど、咲夜ちゃんもそれだけ?」
『え?何がですか?』
首を傾げれば、京楽様も額に手を当てて、溜め息を吐く。
お二人とも、何かに呆れているらしい。
心当たりがなくて白哉様をちらりと見るも、彼も首を傾げている。


「・・・浮竹。」
「なんだ、京楽。」
「朽木隊長にだけ問題があるのかと思っていたけれど、そうじゃないみたいだね。」
「そのようだな・・・。今日一緒に出掛けてみて、普通の女の子だと思ったんだが。」
「うん。ちょっと温度が低い感じもあるけれど、普通だと思ったんだけど・・・。」


「「思った以上に温度が低い・・・。」」
何やら衝撃を受けているらしい。
それも私に関する何かに対して。
・・・私、何か粗相をしたかしら?
そう思って不安げに見上げれば、そんな顔をするなとばかりに浮竹様に頭を撫でられる。


「なるほどな。白哉が婚約したというから、どんな相手か見に来て見れば。」
「こういう子だから、選んだわけ?」
京楽様の問いに、白哉様は沈黙を返す。
「あまり僕らが口を出すことじゃないかもしれないけれど、君たち、夫婦になるんじゃないの?」


呆れた声。
再びの沈黙の肯定。
その肯定を受け取った京楽様の瞳の奥にちらりと灯る怒りのような感情。
それから、もどかしさや、息苦しさ。
様々な感情が静かにその場に渦巻いている。


「・・・兄らが口を挟んでいいことではない。」
漸く口を開いた白哉様の声は鋭い。
彼の言葉に、京楽様の雰囲気に剣呑さが加わる。
あぁ、嫌だ、と思った。
この先のこの人たちの会話を聞きたくはない。


「婚約を申し込んだのは君の方だと聞いたのだけれど。」
「頷いたのは漣家だ。」
「朽木家から婚約を申し込まれて、漣家が断れるとでも?」
「・・・。」


「どんな理由があろうと、彼女を選んだのは君だろう。もう少し考えるべきだと思うね、僕は。彼女が何も言わないからといって、このままでいいはずがないよ。」
「まぁまぁ、京楽。気に入らないのは解るが、その辺にしておけ。」


「女性を大切にしない男が嫌いなだけさ。・・・浮竹。悪いけど、僕はここで帰るよ。」
京楽様はそう言うや否やくるりと踵を返して去っていく。
その後ろ姿は、しん、とした気配を纏っていた。


「・・・悪いな、咲夜。彼奴はああやって、時折へそを曲げるんだ。」
困ったように眉を下げて、浮竹様はこちらを見る。
『いえ・・・。あの、私、怒らせてしまいましたか・・・?』
「お前のせいじゃない。ただ、もどかしいんだろうさ。」
『もどかしい?』


「いや、なんでもない。・・・白哉。彼女は俺が邸まで送り届ける。まぁ、お前も京楽の言いたいことは十分すぎるほど理解しているだろうが、もう少し、考えてみるといい。彼女のことだけじゃなく、朽木のことも。一応言っておくが、朽木と彼女は良い友人のようだぞ。じゃあな、白哉。」
『あ、あの、失礼いたしました。』



2016.10.25
京楽さんは政略結婚が好きではない気がします。
Dに続きます。


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