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■ 心の裡 前編

「今日から五番隊の隊長に就任した平子真子や。皆、よろしく頼むで。」
藍染との戦いから数カ月。
任官式を終えて、五番隊の隊士の前で適当に挨拶をしながらざっと全員の顔を見渡せば、百年前と変わらない顔を見つける。
相手もこちらを見つめていて、お互いに目だけで笑いあった。


「平子隊長。こちらが三席の漣咲夜さんです。あたしが療養している間、隊長副隊長が欠けた五番隊を纏めて下さっていた方です。」
桃に紹介されて、互いに破顔する。
『お久しぶりにございます、平子隊長。この度の二度目の隊長への就任、五番隊士として大変喜ばしく思います。よろしくお願い致します。』


「おう。頼むで、咲夜サン。・・・しかしまぁ、この百年、お互いよく生き残ったもんや。」
『そうね。死んだと聞いた時は、驚いたわ。殺しても死なない人だと思っていたから。』
咲夜サンはそう言ってころころと笑う。


「お二人は、面識がおありなのですか?」
親しげな様子に、桃は首を傾げた。
「せや。オレの先輩やねん。百年前も五番隊の三席やってんで。あの頃はまだ新米の三席やったけどな。」
『前任が突然の死を遂げて、平子くんに指名されてしまいました。』
「咲夜さん、そんなに長いんですか!?あたしが入隊する前からだというのは知ってましたけど。」
『ふふ。万年三席ですが。』


「何いうてんねん。三席以上になるの断わっとるだけやろ。」
『平子くんがご指名してくれないからよ。迷わず藍染くんを指名したとき、私、死神辞めようかと思ったんだから。平子くんに引き留められて、辞めるのは止めたけれど。』
彼女は尚もころころと笑う。


「本気で辞めようとはしてへんかったやんけ。ほんま、意地が悪いねん。桃も気ぃ付けや。怖い人やねんで、この人。」
咲夜サンを指差しながら言えば、桃は不満げな顔をする。
「そんなことはありません!咲夜さんは頼れる三席で、仕事も出来て、実力もあって、その上美人で物腰柔らかで皆の憧れの的なんですから!」


「あかんわ、桃。それ、すでに騙されてんで。」
「騙されてなんかいません!咲夜さんはあたしなんかよりもずっと真実が見えていたんですから。藍染隊長のことだって・・・あたしは、藍染隊長が死んだとき、咲夜さんに失礼なことを・・・。」
桃はそう言って俯く。


『構いません。自隊の隊長が死んでも顔色一つ変えない私が悪かったのです。いや、彼の裏の顔を知っていながら副隊長をお止めすることが出来なかった私が未熟でした。顔を上げて下さい、雛森副隊長。』
言われて桃は顔を上げた。


「でも・・・。」
『それ以上謝れば、私は死神を辞めますよ?』
にっこりと微笑んだ咲夜サンに、桃は固まる。
・・・だからこの人は怖いねん。
その様子を見て、真子は内心で呟く。


「・・・あんまし桃のこと苛めんといて貰えますかァ、咲夜先輩。」
『あら、懐かしい呼ばれ方。平子くんのお願いなら、聞いてあげるわよ?』
からかうように言われて、相変わらず敵わへんな、と思う。
「お願いしますわ、先輩。」
『ふふ。分かったわ。可愛い子を苛めるのは止めてあげる。その代わり、今日は付き合ってもらうわよ。言いたいことが腐るほどあるの。』


「覚悟しておきますわ。・・・そんな訳やから、桃。これ以上この人に謝ったりすんなや。死神辞められたらオレが困るねん。この人の怖さも分かったやろ?」
「・・・。」
沈黙を返されて、真子は苦笑する。
本人を前に怖いということも出来ず、かといって否定も出来ない。
それは肯定の沈黙だった。


「分かったなら、この話はもう終わりや。・・・そろそろ時間やな。この後また一番隊行かなあかんねん。後は頼んだで、お二人さん。」
「はい、平子隊長。」
『お任せを。行ってらっしゃいませ。』
そう言って一礼する咲夜サンを一瞥して、彼女らに背を向ける。


「・・・今日のお仕事が終わったら、いつもんとこ行くわ。」
『えぇ。酒と肴の準備は任せて。平子くんの好きなものを用意しておくから。』
「そか。ほな、また後で。」
後ろ手に手を振って、足を進める。
長い夜になることを覚悟して、早く彼女のところに行くために瞬歩を使う。
この百年の話をどう伝えようか考えながら。
彼女と話すのが待ち遠しかった。



2016.09.04
後編に続きます。


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