Short
■ HERO@

お、重い・・・。
大量の書類を抱えて、三番隊舎を歩く。
その重さに自分でもふらふらしている自覚はあるが、生憎隊舎は閑散としていて、手伝いを頼めるような人は居ない。
そもそもそれを頼めるほど気安い仲の同僚がいない、という理由もあるのだが。


・・・まぁ、元二番隊じゃあ、こんなもんだよね。
咲夜は内心で呟く。
吉良、阿散井、雛森らと同期の彼女だが、霊術院卒業と同時に配属されたのは、二番隊であった。
正確に言うと、卒業前から二番隊からの打診があったのだが。


その歩法の技術と身軽さから、二番隊で頭角を現し、末席を頂いていたのだが、事情があって、三番隊に移隊してきたのである。
しかし、二番隊、もとい、隠密機動、それも刑軍に所属していたとあっては、彼女との関わりを避ける者が殆どで、三番隊第九席を拝命してから半年が経過した今でも、咲夜は業務連絡以外で隊士たちと関わることはほぼないのだった。


「え、何・・・って、漣君じゃないか。」
『き、吉良君!?』
書類の山の向こうからひょい、と吉良君の顔が出てきたことに驚いて、バランスを崩しそうになる。
吉良君が慌ててそれを支えてくれて、ほっと一息つくと、苦笑した吉良君の顔がすぐそこにある。


「重そうだね。手伝うよ。」
そういうや否や、半分以上の書類が吉良君の手の中に移動した。
『え、あの、吉良君?このくらい大丈夫だから・・・。』
「どうせ、隊長から僕宛ての書類でしょう?全く、女性にこんなに重いものを任せるなんて。それに、僕は君の大丈夫という言葉は信頼しないことにしているんだ。」


『・・・。』
返す言葉もないと黙り込んだ私に、吉良君は小さく笑って歩を進め始める。
つられたように歩き出して、吉良君の二歩後ろを歩く。
その後ろ姿は、院生時代よりも逞しくなっていて、背も伸びているようだった。


『・・・・・・わ!?』
ぼうっと彼の背中を見ながらついていくと、突然吉良君が立ち止まる。
止まりきれずに、吉良君の背中にぶつかった。
その衝撃を受けても、彼の体は少しも揺れなくて、彼ばかりが強くなっているのではないかと、そんなことを思う。


『ご、ごめん、吉良君。でも、なんで止まったの・・・?』
慌てて一歩下がってそう言えば、吉良君はくるりとこちらを向いた。
「君が、僕の後ろを歩くから。」
『え・・・?』
どこか不満げに言われて、首を傾げる。


「敬語を使うわけでもないし、副隊長の僕のことを吉良君と呼ぶくせに、僕の後ろを歩く理由が解らない。」
『え?じゃあ、吉良副隊長って、呼んだ方がいいですか・・・?』
敬語で問えば、目の前で盛大なため息を吐かれた。


「・・・何故そうなるのかな。僕の隣を歩いて欲しいと言っているんだよ。話しづらいだろう。」
呆れたように言われて、目を瞬かせれば、吉良君は焦れたように私の腕を掴んで、自分の横に立たせる。


『き、吉良君・・・?』
「いいから、このまま僕の隣を歩いて。この後この書類の処理があると思うだけで憂鬱なんだ。同期のよしみで少しくらい話し相手をしてくれてもいいだろう?」
よく解らないが、断ると吉良君の機嫌を損ねそうなので、頷きを返せば、彼は満足そうな顔をして再び歩き出す。


「三番隊には、慣れたかい?」
歩きながら問われて、返答に詰まる。
『・・・一応は。』
「ふぅん?」
横目でちらりと視線を送られたのが解って、居心地が悪い。


『仕事は慣れたよ。・・・友達は、居ないけど。』
自分で言っていて、悲しくなる。
「・・・そう。僕は君の友達ではないわけだ。」
少し声のトーンが下がったのが解って、びくりとする。


実は、すごく疲れていたりするのだろうか?
今日の彼はいつもの気弱さをどこかに捨ててきているらしく、少し刺々しい。
でも、さっきは、笑ってたよね・・・?
私、何かしたかな・・・?
思考を巡らせるが、思い当たる節はない。


『いや、吉良君は、友達、というか、その・・・。』
「何?」
『・・・き、吉良君は、私の、ヒーローだから。』
ぽつりと言えば、吉良君は目を丸くした。


「ヒーロー?」
『うん。吉良君は、いつだって私を助けてくれるから。今だって、書類運びは私の仕事なのに、手伝ってくれているし。・・・私なんかを三番隊に呼んでくれるし。』
二番隊時代の出来事を思い出して、思わず目を伏せる。



2016.08.18
Aに続きます。


[ prev / next ]
top
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -