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■ 目指す者たち

『よう、白哉。』
窓から勝手に隊主室に入ってきた男は、そのまま私の椅子の背もたれに体を預ける。
「何の用だ。」
背中合わせのまま問えば、苦笑が返ってきた。


『用がないと顔を見に来ちゃいけないか?』
「用がなければ、私の顔など見には来ないだろう。」
『そんなことはないぞ?お前の顔は見ていて飽きない。その仏頂面から感情を読み取った時の喜びはお前には解るまい。』
「いい加減、その言葉は聞き飽きた。未だ理解の外だが。」


『はは。ま、いいじゃないの。』
そういって笑う男は、漣咲夜。
中央四十六室の賢者が一、漣家の一人息子であり、次期当主。
私の、幼い頃からの、好敵手。


「・・・忙しくはないのか。」
『忙しいさ。我が父を含め、四十六室は全滅だからな。』
言葉は軽いが、声に少し自嘲が含まれている。
「父君のことは・・・残念だった。」


『気を使うな。お前には、恨まれる覚悟だってある。我が父ながら、不甲斐ない。・・・何が賢者だ。愚か者の間違いだろう。』
吐き捨てるように言った咲夜に、白哉は小さく息を吐く。
「私は、お前を恨んだりはしない。」


『・・・俺が、次の賢者になっても、そう言えるか?』
彼が呟くように言ったその言葉に、動きが止まる。
「・・・決まったのか。」
『あぁ。次の四十六室は、全滅した先代たちの後継者だそうだ。家督を継ぐ者が四十六室の地位を継ぐ、というのも変わらないらしい。・・・俺は、自分の罪深さが恐ろしい。』
彼の声は絶望を含んでいた。


『だって、藍染らの反逆を許したのは、誰だ?四十六室だろうが。四十六室が無能で、簡単に弑されたから、お前も、ルキアも、他の皆だって、傷ついた。あの旅禍の少年たちだって、こっちの掟に振り回された。あの山じいが、片腕を失った。・・・なのに、四十六室は、そのすべての罪を、藍染惣右介に被せようとしている。俺たちに、そんな権限があるか?確かに藍染は悪人だ。だが、罪があるのは、俺たちも同じだろう・・・。』


・・・迷っているのだ。
この男は、自らの無力さを知ってしまった。
そして、この男は、その無力さを許せる男ではないのだ。
そんなことを思いながら、白哉は静かに咲夜の言葉に耳を傾ける。


『無知は、罪だ。罪を認めないこともまた罪だ。他の者たちは、先代が殺されたことで、藍染を恨んでさえいる。だが、俺は、恨めない。父を殺したあの男を、恨むことなど出来ない。もう、四十六室の存在意義が俺には解らないからだ。何故、他の者たちは平然とあの席に座ることが出来る?それが出来ない俺が、おかしいのか・・・?』


咲夜は背凭れに沿ってずるずると座り込んだようだった。
気配が酷く小さくなっている。
これほど弱ったこの男を見るのは、初めてのことだった。
この男は、何でも笑い飛ばすような男だから。


「・・・確かに、おかしいのだろうな。」
『・・・お前まで、そう思うのか?』
泣きそうな声が返ってきて、内心苦笑する。
「他の四十六室の者から見れば、という話だ。・・・これは、死神としての意見だが。」
『何だ?』


「私を含め、ほとんどの隊長格は、四十六室を上にも下にも見ていない。何かと煩わしい相手、という程度の認識だ。それ故、四十六室が全滅したことに驚きはするが、悲しみも、喜びもない。・・・お前の言う通りだ。今回の件で、四十六室の存在意義が解らなくなった。彼らは変わらないのだな。我ら死神は、今回の件で、頭に風穴を開けられた気分だというのに。」


『・・・お前も、そう思うか。』
「あぁ。・・・だからこそ、お前のような者に、四十六室に居て欲しい。」
背後で息を呑んだ気配がした。
「私たちと同じ考えを持つ者に、そして、己の罪を知る者に、あの場所には座って欲しい。そういう者が居なければ、四十六室は変わらない。・・・だが、お前のような者があそこに座るのならば、そしてあの場所に変化をもたらすならば、我ら死神の意識も変わろう。」


『俺に、それが出来ると思うか・・・?』
「解らぬ。」
即答すれば、苦笑を漏らされる。
『そこは、出来ると勇気付けるところじゃないのか?』
「解らぬものは解らぬ。・・・だが、期待はしよう。漣咲夜という男に。」


『・・・そうか。そうだな。お前の言う通りだ。俺が変えればいい。』
「あぁ。解ったのならば、こんな場所で座り込んでいる暇などないのではないか?」
『はいはい。解りましたよ。すぐに戻りましょう。』
笑いながら、立ち上がる気配がした。


『そんじゃ、ちょっと変えてくるわ。何年かかるかねぇ・・・。』
「さぁな。お前の寿命が尽きるまでには終わらせろ。」
『無茶を言う。じゃあ、俺の身に危険が及んだら、匿ってくれよ。』
「お前の働き次第だな。」
『酷い奴。ま、それでいいや。・・・ありがとな、白哉。』


入ってきたときと同様に、男は窓から飛び出していく。
遠ざかる気配は、真っ直ぐで、朗らかで、力強い。
軽い足取りは、何の重圧も感じてはいないようだった。
それが酷く、あの男らしい。


「・・・随分と、無茶を言ったはずなのだがな。」
小さく呟いて、白哉は苦笑する。
その無茶を引き受けてくれた男が誇らしく、眩しい。
だが、負けてはいられぬと、己の刃を手に取った。


強くあらねばならぬのだ。
あの男だけでなく、この私も。
歩む方法は違えど、進んだ先に見える景色は同じ。
共に歩くのではなく、別々に歩くのではなく、互いに荷物になることもなく。
同じ景色を、目指すのだ。
それぞれに出来る方法で。


数日後、回復した元柳斎になくした羽織について叱責を受けながら、白哉は己の好敵手に思いを馳せる。
藍染の罪刑はさぞ重いことだろう。
あの男に踊らされた副官たちの尋問も始まっている。


お前の手腕を見せてもらうぞ、咲夜。
内心で呟いて、一番隊の隊主室から空を見上げる。
気が逸れたことに気付いた元柳斎からさらに怒号が飛んで来るが、どこ吹く風。
変化は、まだ始まったばかりなのだ。



2016.06.24
初の男主。
恋愛要素はありません。
白哉さんにも親友と呼べる人が居るだろうと思ったので。
咲夜さんは何かと四十六室を抜け出して白哉さんの元に息抜きに来るのだろうと思います。
阿万門ナユラと手を組むのは間違いない。


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