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■ 青の君E

「・・・え?もしかして、漣三席ですか?そういう格好もされるのですね。お似合いです。」
「え、漣三席?・・・まじか。俺、結構好みだわ・・・。」
「普段とのギャップにやられそう・・・。」
「よかったら、今度、お食事など如何でしょう?」


四番隊舎を追い出されてふらふらしていると、次々とそんな声がかかる。
白哉と話がしたいが、こんな姿で白哉に見つかっては困るとそんな声を躱してあちらこちらに移動しているのだが、どこに行っても何となく人が集まってしまうのだった。
一体、何が起こっている・・・?
内心首を傾げながら、とりあえずまた移動しようとしたときに、それらはやってきた。


「ねぇ、白哉様?漣三席が死神を辞めるのでしょう?」
「確かに、最近お見かけしませんものね。」
「でも、ご結婚されるわけではありませんでしょう?」
「そのようなことは公表されておりませんものねぇ。」


『朽木、隊長・・・。』
姫に囲まれている彼は、ひどく疲れているようで、しかしそれを表情に出すことなく、姫たちの話に無言を貫いていた。
周りにいる姫たちは皆容姿が整っていて、死覇装を着てはいるが、髪型も、指先も整えられていて、私とは比べるまでもなく美しいと思った。


逃げなければ。
こんな格好では、白哉に会えない。
こんな格好をしていても、あそこには入れない。
やっぱり、白哉の傍にはいられない。
ゆらりと一歩下がると、背中に掌があてられる。
一体誰だと振り向けば、髪も羽織も白く、穏やかに微笑む姿があった。


『浮竹さん・・・。』
「偶然だなぁ、咲夜。綺麗な格好をしているから、一瞬誰だか解らなかった。」
浮竹さんはそう言いながら、宥めるように私の背中を撫でる。
私が逃げようとしていることに気が付いているのだろう。
もう一方の手で腕を掴まれた。


『は、離して、ください。』
「何故だ?」
『嫌、です。こんな姿を、見られるのは、嫌だ・・・。』
「落ち着け、咲夜。大丈夫だ。逃げる必要はない。・・・これ以上、白哉から逃げてやるな。お前が居なくなってから、碌に眠れていないようだ。そのうち倒れるぞ。」


『でも、今は、嫌です!』
「咲夜・・・。」
『いやだ・・・。また、遠くなる。これ以上、遠くになりたくない・・・。』
何とかして逃れようとするも、びくともしない。


「落ち着け。話をすると、決めたのだろう。話を聞くと、決めたのだろう。大丈夫だ、咲夜。白哉はお前の話を聞くし、お前に話してくれる。どんな格好をしていようと、お前と白哉は遠くなったりしない。白哉がそんな奴じゃないことは、お前が一番解っているだろう。」
『でも・・・!!』


「・・・咲夜・・・?」
近くで、聞き慣れた声が、私の名を呼ぶ。
気付かれて、しまった。
見られて、しまった。
視界の端で、彼の手が伸びてくるのが解る。
殴られる、と、思った。


ふわ、り。
予想に反して柔らかさと温かさに包まれる。
「・・・その手を離せ、浮竹。」
酷く低い声は、怒りを含んでいた。
すぐに手が離されて、浮竹さんが苦笑する気配がする。


「そう睨むなよ。お前のために捕まえておいただけだ。後はお前次第だぞ、白哉。残念なことに咲夜はお前の変化に全く気付いていない。そっちの姫たちでさえ気が付いているというのに。」
浮竹さんの言葉に、姫たちの息を呑む声が聞こえた。


「そう怯えるな。別に、お前たちをどうこうしようとは思っていない。お前たちは白哉の気持ちに気付いていたから咲夜に辛く当たったのだろう。何も気づかない咲夜がもどかしくて、羨ましかったんだろう。でもな、この二人には、この二人の事情がある。これ以上の手出しはやめてやれ。これ以上やれば誰も幸せになれない。」


「・・・すまぬ、浮竹。」
「構わん。だが、次はここまでしてやったりしないぞ。」
「肝に銘じる。」
「それじゃ、好きなだけ二人で話してこい。」
「あぁ。」


ぐい、と引き寄せられたかと思えば、軽々と抱え上げられる。
『え・・・?何・・・?』
「大人しくしていろ。」
『へ?ちょ、うわぁ!?』
白哉の袖の隙間から、苦笑した浮竹さんの顔が見えた。


一瞬で変わった景色に、瞬歩を使っているのだ、とどこか冷静に判断する。
流れていく景色は自分が瞬歩を使っているときよりも数段早く、目が回りそうなくらいだ。
彼はいつもこんな景色を見ているのか、と、どうでもいいことを考えた。


暫くして彼が足を止めると、見慣れた巨大な邸が目の前にある。
私を抱えたまま門を潜れば、慌てた様子で彼を出迎える使用人の姿がある。
白哉は出迎えた使用人に碌に返事もせず、私の草履を脱がせてその辺に投げ捨てると、自分も草履を脱いで邸に上がった。


そのまま廊下を歩く白哉に、さすがにこれはまずいだろうと腕から逃れようとするのだが、しっかりと捕えられていて抜け出せそうにない。
『朽木、隊長。降ろして、ください。』
勇気を出してそう言ってみるも、彼に黙殺された。


白哉の私室に入ったところで、漸く降ろされる。
彼の瞬歩のせいか、畳を捉えた足がふらついてしまう。
すると、ぐい、と腰を支えられて、片腕で簡単に体を支えられた。
自分が酷く非力になったような気がした。


『・・・ありがとう、ございます。』
お礼を言えば、腰を支えていた腕に力が入れられて、引き寄せられる。
彼の胸にぽすりと抱きとめられて、もう一方の腕が背中に回された。
隙間を埋めるように抱きしめられて、息が苦しくなる。


『く、るしい・・・。』
そう訴えれば、少し腕が緩められて、息が楽になった。
「・・・済まぬ。」
小さく声が返ってきて、腕の中から解放された。
彼の顔を見て、目を丸くする。


『何故、そんな、泣きそうな、顔をしているのですか・・・。』
そう問えば、彼の表情が歪む。
『朽木、隊長?』
「そのように、呼ぶな。敬語など、使わないでくれ・・・。」
懇願するように言った白哉は、酷く傷ついているようだった。


「・・・それとも、もう、私の名を呼ぶのも嫌か。死神を辞めてまで、私から離れたいか。」
『違う。そんなわけ、ない。でも、もう、傍には居られない。』
「お前が、女だからか。」
『・・・うん。』


「私が、傍に居て欲しいと言っても、女だからという理由で、離れていくつもりか。」
彼の言葉の意味が解らない。
女の私は、白哉にとって邪魔なだけのはずだ。
白哉には、もっと美人で、賢くて、有益な相手が居る。
私は、あくまで仮の婚約者で、白哉との間に、愛だの恋だのはないはずで・・・。


『だって、私は、邪魔だろう・・・?女の私は、白哉の傍にはいられない。』
俯いて呟けば、彼の気配に怒りが滲む。
「・・・私がいつ、お前を邪魔などと言った?」
『でも、私は、邪魔だろう。私などが、白哉の傍に居ていいはずがない。女の私ならば、尚更傍に居られない。友人でいることすら、出来ない。緋真さんと結婚するとき、私を遠ざけたのは、そういうことだったのだろう・・・?』


白哉は私の言葉に息を呑んだ。
何かを言おうとした唇が動くが、声にはならない。
『そんなの、嫌だ・・・。私は、ずっと、傍に居るものだと思っていたのに、女だからという理由で遠ざけられたのだと知って、悔しくて、寂しくて、悲しかった。そんなことが、またあるのかと思うだけで、辛い。一緒に居てはいけないのなら、最初から一緒に居ない方がいい。』


自分の言葉に、本当にその通りだと納得する。
納得したが、じわりと涙が溢れてきた。
「咲夜・・・。」
『私は、傍に、居たい、けど、一緒に居るのは、辛い・・・。大切な人が出来たら、私は傍に居られない。私はまた、遠ざけられるのだから・・・。』


「違う。そんなことは、もう、しない。する必要が、ない。」
『嘘だ。そんなはずはない。』
「嘘ではない。お前を遠ざけることなど、二度としない。」
『何故そう言い切れる!そんな保証はない!!』
「それは・・・それは、私が、お前を、咲夜を愛しているからだ!」


『え・・・?』
「咲夜が、大切なのだ。お前が大切なのに、どうして、お前を遠ざける必要がある。お前と共にありたいが故に、お前に嘘の提案をしてお前を婚約者にした。この二週間、お前を必死で探した。誰よりも、何よりもお前を欲しているというのに、何故、お前を遠ざけなければならぬのだ!」



2016.06.16
Fに続きます。
もう少しお付き合いください。


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