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■ 青の君D

今日で、二週間だ。
何故、見つからない。
朽木家の情報網をもってしても見つからないとは、どういうことだ。
それとも、彼女は、もう、私の前に姿を見せない気なのか。
重いため息が、隊主室に響いた。


「深いため息だねぇ。」
突然聞こえた声に振り向けば、窓から侵入してきたらしい、女物の着物を羽織った男。
「・・・何の用だ。」
「いや?特には。ただ、咲夜君、見つかったのかなぁって。でも、どうやら見つかってないみたいだね。」
京楽は言いながら勝手にソファに腰を下ろす。


「ねぇ、知ってた?あの子、君の婚約者になってから、ずっと姫様方に絡まれているんだよ。毎日のように、容姿や家柄を詰られているみたいだ。ま、あの子は自分で対処しているけれど。」
世間話でもするように京楽は言う。
そんなことは知っている、と、沈黙を返した。


「昔から、朽木家の皆に女になるなと言われて、男同然に育てられて。君と一緒にいるために女を犠牲にして。彼女は、自分が女である、ということを頭で理解しているが、実感は出来ていない。そんな状態で、今日まで来てしまった。それなのに、隣に立っている君に女だと言われれるのは、どんな気分なのだろうねぇ。」
どこか棘を含んだ言葉に、握った拳に力が入る。


「何が言いたい?」
低く問えば、京楽は小さく笑う。
「いや?君らしくないミスだと思ってね。・・・傍に居るのが当たり前、だなんて、傲慢すぎるよ。何があっても傍に居てくれる、なんて、自惚れだ。」
嘲るように言われて、しかし反論は出来なくて、奥歯を噛み締めた。


「・・・彼女、見た目は普通だけど、強さ、という美しさを持っているから、彼女を狙う人は意外と多いんじゃないかな。朽木家で君と同じ教育を受けているから、礼儀作法は問題ないし、貴族としての価値も彼女の家柄より数段高く評価されている。急がないと、本当に遠くに行ってしまうかもしれないよ。」


京楽はそれだけ言うと立ち上がって、入ってきた窓から出て行った。
見抜かれている己の迂闊さ、傲慢さが身に染みる。
「咲夜・・・。」
これまで何度呼んだか解らない名前を呟く。
返ってくる返事はなく、彼女に会いたいと、切に願った。


一方、その頃咲夜は四番隊の縫製施設で乱菊、七緒、卯ノ花に囲まれていた。
「うーん・・・ピンク、は、甘すぎるわね。黄緑か水色あたりがよさそうね。」
「そうですね。私は、こっちの水色がいいかと。」
「確かに、甘すぎなく辛すぎない感じが咲夜さんにはぴったりですね。涼しげで、凛として見えます。紺色の袴を合わせるのもいいかもしれません。」


「袴ですか。それはいい考えです。咲夜さんも袴なら抵抗が減るのでは?」
「袴でも女性らしさは演出できますからね。」
「それじゃ、袴にしちゃいましょうか。そうしたら・・・簪はこの銀色の簪がいいわ。」
「それならお化粧も落ち着いた色にした方がいいですね。」


あれこれとされるがままになって半刻。
漸く方針が決定したらしい。
・・・いや、違う。
何故私はこんな目に遭っている・・・。
目の前に並べられている色とりどりの着物と、簪やら何やらの眩しさに頭が痛くなりそうだ。


『な、何故、私は、着替えさせられている・・・?』
「ちょっと朽木隊長を焦らせようと思って。」
「そうですね。今頃京楽隊長が朽木隊長を苛めているのでは。」
「あら、それはそれは。朽木隊長は大層焦ることでしょうねぇ。」
楽しげに言われるが、何が何だか全く分からない。


『朽木隊長を、焦らせる・・・?それと私が着物を着るのと、一体どんな繋がりが・・・?』
「まぁ、すぐに解るわよ。全く、結構無自覚なのよねぇ。これじゃあ、離れていくわけがない、なんて自惚れるのも無理ないわ。」
「これで咲夜さんも自分の気持ちに気が付くといいですねぇ。」


「気が付いても尚、死神を辞めたいなどというのであれば、この私が直々に咲夜さんを捕まえますので、覚悟しておいてくださいね。」
・・・それはつまり、私に選択肢がないということか。
にっこりとした微笑みが黒いせいで声を発することすら出来ないのだが。
怒らせるようなことをしただろうか、と思考を巡らせるが、答えは解らない。


「・・・これでよし!完璧ね!あたしったら、天才!」
「えぇ。女性らしく、且つ、咲夜さんらしい姿ですね。」
「本当に。ご自分で見てみるといいですよ。」
そういって鏡の前に立たされる。
鏡に映った自分は、自分ではない気がした。


『これでは、女みたいだ・・・。』
「そうですよ、咲夜さん。貴方は女性です。男性ではありません。男性と女性では、違う部分も出てきますから、ずっと傍に居ることは難しいでしょう。ですが、世界は男性と女性で成り立っています。つまり、性別が違っても傍に居ることは出来る、ということです。それを忘れてはいけませんよ。」


諭すように言われて、改めて自分の姿を見る。
白哉が焦る云々はよく解らないが、私にこの格好をさせた彼女らの意図は理解した。
私に、私が女であることを分からせたいのだ。
そして恐らく、女で居ていいと言ってくれているのだ。
でも・・・。


『・・・でも、これじゃあ、やっぱり、朽木隊長の傍には居られない。』
自嘲するように呟けば、三人に盛大なため息を吐かれる。
「あのね、咲夜。それを決めるのは、あんたじゃないわ。」
『え?』


「あんた、朽木隊長の傍に居たいんでしょ?」
『違う。私は、もう、朽木隊長の傍には居られない。』
「あたしが聞いているのはそんなことじゃないわ。あんたがどうしたいかを聞いているの。周りがどうとかじゃなくて、あんたはどう思っているの?朽木隊長の傍に居たいんじゃないの?三席にまで上り詰めたのは、朽木隊長の傍に居るためでしょ?」


三席まで上り詰めた理由は、白哉の傍に行くためだ。
では何故、私は白哉の傍に行きたかったのだろう。
緋真さんが居るからと遠ざけられて、悔しかったから?
寂しかったから?
白哉に文句を言いたかったから?


・・・どれも、一番の理由ではない気がした。
私は、ただ、白哉の傍に居たかったのだ。
周りがどうとか、容姿とか、家柄とか抜きにして、ただ白哉の傍に居たかったのだ。
彼の傍に居たかったから、遠ざけられれば悔しくて寂しいし、文句も言いたくなるのだ。
女だから彼から離れなければならないという現実に涙が流れるのも、私が、白哉の傍に居たいからなのだ。


『・・・・・・そばに、居たい。』
自然と口から零れた言葉は、酷く弱々しかった。
「咲夜さん。朽木隊長は、自分の傍に居る人を、自分で決める方です。貴方が傍には居られないと言って離れて行っても、必要とすれば貴方を傍に置きます。貴方自身が朽木隊長の傍に居たいと思っているのならば尚更。」


『でも、女の私は、朽木隊長の、邪魔に、なる・・・。邪魔者は、必要ありません。』
「邪魔かどうかを決めるのは、朽木隊長です。咲夜さんが自分でそう決めつけて、自己完結していいものではないのです。二人でよく話し合うことです。言葉を交わすことです。人と人との繋がりは、言葉なしには出来得ません。」


『言葉にする・・・。』
「貴方は、朽木隊長の傍に居たいと言っていいのです。言って、どうなるかはわかりませんが、怖くても言葉にすることが、第一歩なのですよ。」
「言葉にして初めて自分の本当の気持ちに気付くこともありますからね。」
「そうね。あんたも朽木隊長も、お互い言葉が足りないのよ。それだけ繋がりが強いともいえるけど、言葉にしなければならないこともあるのよ。」


「解りましたか、咲夜さん。」
『はい。卯ノ花隊長。』
頷けば卯ノ花隊長は柔らかく微笑んだ。
「ここでは理事長とお呼びなさい。」
『す、すみません、理事長・・・。』


「それでは、その姿のまま、瀞霊廷を歩いて来てください。せっかく綺麗に着付けたのですから、着崩すようなことはしないでくださいね。何かあれば、霊圧を上げることです。そうしたら、助けに行きますから。では、行ってらっしゃい。」
『え・・・?』
卯ノ花隊長の言葉を理解する間もなく、乱菊と七緒に隊舎からひっぱり出されたのだった。



2016.06.16
Eに続きます。
思いのほか長くなってしまい、自分でも驚きです。


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