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■ 青の君A

『やっと帰ったか、我が儘白哉。遅かったな。』
隊主会を終えて執務室に戻れば、そんな声が飛んで来る。
その声に隊士たちは顔を青くさせているのだが、言った本人は面倒そうに筆を弄んでいた。
彼女の机の上を見れば、既に仕事は終わっているらしい。
書類を私に提出するために残っているだけのようだった。


「・・・態度が悪い。姿勢が悪い。口が悪い。三拍子そろっているのはお前くらいだぞ、咲夜。」
そう言葉にすれば、彼女はじろりと私を睨みつける。
『知らないな。元々だろう。』
どことなく不機嫌そうに言われて、首を傾げる。


「どうした?」
『・・・お前の思い通りになっていることが腹立たしい。私だけが損している気分だ。』
「損?何故?」
『いや、なんでもない。ただの八つ当たりだ。・・・書類の確認を頼む。』
深呼吸をした彼女はそういって書類を手に取ると勝手に隊主室に入って行った。


「・・・恋次。」
「はい?」
「何があった。」
己の副官に問うが、赤髪の副官は首を傾げる。
「さぁ?隊長が隊主会に行ってから、どこかに行ってきたみたいですけど。その後からあの調子で。」


恋次の言葉に、何となく彼女の不機嫌さの理由に思い当たる。
「そうか。・・・暫く人を寄せるな。」
それだけ言って隊主室へと歩き出す。
「へ?あ、はい。解りました・・・。」
それを聞いて、己の部屋へと足を踏み入れたのだった。


『ん。今日の分の書類。恋次の分もある。』
隊主室に入れば、無愛想に書類を押し付けられる。
彼女は役目は終わったとばかりに、どかりとソファに座った。
その横顔が不機嫌で、どこか傷ついている様子で、内心首を傾げる。
しかし、こうなった彼女はしばらく口を開かないことを知っているので、書類の確認をすることにした。


『・・・なぁ、白哉。』
暫くして口を開いた彼女に、書類から目を上げる。
ぼんやりと外を見ている彼女の横顔に、表情はない。
「何だ?」
書類に目を戻しながら、いつものように返事を返す。


『私は、お前と一緒に居るのが楽だ。』
「私もお前と居るのは楽だ。」
『うん。でも、私と白哉は性別が違う。』
「そうだな。」
『でも、そんなの関係ない。・・・そのはずだ。少なくとも、私と白哉の間では。』


「何が言いたい?」
書類から顔を上げて彼女を見る。
『・・・分からないんだ。何故、性別が違うと、一緒にいることに愛やら恋やらが関わって来る?どうしてお前は、緋真さんを妻にした時、私を遠ざけた?』
どこか不安気な声に、こちらまで不安になりそうだ。


「それは・・・。」
何故だっただろうか。
兄弟のように育った彼女に対して、愛だの恋だのといった感情はなかった。
彼女はその辺の男よりも男らしいくらいだから、側から見ても、男女の仲を疑われることなどなかったはず。
それなのに、私は、彼女を遠ざけた。
緋真に勘違いされては困る、と。


『・・・・・・私が、女だからか?』
ぽつりと言われてその言葉に納得した。
「そう、だな。そうかも知れぬ。」
『・・・そうか。白哉は、私を女だと、認識しているのか。性別など関係ないと思っているのは、私だけだったのか。』
彼女はそう呟いて、ソファから立ち上がる。


「咲夜・・・?」
名前を呼ぶが、彼女はこちらを見ようとはしない。
『・・・書類に不備は?』
「それはないが・・・。どうしたのだ、咲夜。何か・・・。」
何か、あったのか?


『では、これで失礼いたします。今日も一日お疲れ様でした、「朽木隊長」。』
彼女はそう言って一礼すると、隊主室を出て行く。
彼女らしくない敬語。
彼女らしくない美しい所作。
それが、意味するものは・・・。


今、私は、彼女に、距離を置かれたのか・・・?
何故・・・。
どうして、私から、距離をとるのだ、咲夜・・・。
突然彼女が遠くなった気がして、彼女がどこかへ行ってしまうような不安を感じるが、それを信じたくなくて、呆然としながら彼女が出て行った扉を見つめることしか出来なかった。



2016.06.16
Bに続きます。


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