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■ 青の君@

「ねぇ、まだ、白哉様に付きまとっているの?」
「嫌ね。貴方じゃ白哉様に釣り合わないって、どうして解らないのかしら。」
「勘違いしないことよ。白哉様が貴方に目を掛けるのは、実力があるから、という理由以外にはないんだから。」
「そうよ。そんな平凡な顔で、平凡以下の体で、平凡な貴族の出身で、相手にされるなんて思わないで。」


・・・女って、面倒くさい生き物だなぁ。
全く、白哉と関わると面倒事しか起きやしない。
白哉はただの幼馴染なのに。
・・・いや、ただの、ではないか。
一応婚約者だったな。
実際は白哉の女避けだが。


騒ぎ立てる女性陣を前に面倒そうな顔をしているのは、漣咲夜。
六番隊の第三席である。
そして、四大貴族朽木家の現当主であり、六番隊隊長である朽木白哉の婚約者。
といっても、打算的な婚約で、そこに愛だの恋だのといった甘い関係はない。
お互いにそういう年頃で、しかしながら望む相手も居らず、かといって見合いをするのも面倒なので、幼馴染であるということを利用し、二人で結託して婚約者になった。
ただそれだけのこと。


でも、白哉の方が絶対利益を得ている・・・。
無駄に綺麗で、本来ならば関わり合いにはなれないであろう高貴な男の仏頂面を思い浮かべながら、内心で呟く。
あれもあれで私などを婚約者にしたことを何かしら言われているのだろうが、絶対に私の方が損をしている。


下手な貴族に嫁がされて、せっかく上り詰めた三席の座を捨てるのが嫌で、白哉の話に乗ったのが間違いだったか・・・。
今更ながら、あの時の自分に後悔する。
ため息しか出ない。
どうしてくれる、朽木白哉。


「ちょっと、聞いてるの!?」
「何よ、その面倒そうな顔。」
「ふてぶてしいわね!」
「何でこんなのが白哉様の婚約者なのかしら。」
余程面倒そうな顔をしていたらしい。
目の前の彼女たちは苛々したようだった。


『すみませんね。元々こういう顔でして。・・・それで?話というのは、それだけですか、お姫様方。』
声まで面倒そうだな、と、自分で自分の声に内心苦笑する。
「白哉様の婚約者だからって、調子に乗らないことよ。貴方の家を潰すことなんて、簡単なんだから。」
じろりと睨まれて、ため息を吐いた。


『どうぞお好きに。私は、貴族という立場はいらない。私には、六番隊第三席という立派な地位があるんでね。それで十分。』
むしろ、家を潰してくれるなら有難い。
あの糞親父と浪費癖のある母にはほとほと困っているのだ。
そもそも、あの二人のせいで、私は白哉の幼馴染などやっているのだから。


母の浪費に財政難に陥った我が漣家を立て直すために、あの糞親父は私を朽木家に売ったのだ。
いや、売ったというと語弊があるが。
でも、白哉と年の近い遊び相手という名目で実質彼の下僕となる男の子を探していた朽木家に男のふりをさせて送り込むのだから、売られたも同然か。


結局、白哉にはあっさり女だとばれて、危うく家に突き返されそうになったところを、事情を聞いて私を憐れんだ蒼純様が拾ってくださったのだが。
その代わり、間違いが起こらぬようにと、男として、白哉と同じように育った。
お蔭でその辺の男よりは男らしくなってしまった。
朽木家の教育を受けたのだから当然ではあるが。


白哉とは兄弟のように育てられ、軽口を言い合う仲。
私はそのまま兄弟のように白哉の傍に居るものだと思っていた。
しかし、白哉は緋真さんに恋をした。
そして私は、白哉が妻を娶った時に家に帰されたのだ。
緋真さんに私たちの関係を勘違いされては困る、と。


正直、寂しかった。
兄弟であり、親友でもある白哉に距離を置かれるのは。
でも、彼が幸せならば、それでいいと、大人しく家に帰ったのだ。
しかし、だんだんとそんなことを言った白哉に腹が立って、誰も私を女としてなど見ていないだろう、という反論が思い浮かんで、でも、白哉は既に遠い世界の人になっていて。
かといってそれを白哉に言えないのは悔しくて、死神として彼の傍に行ってそう言い放ってやる、と、必死に、それこそ血の滲むような思いをして、六番隊の三席まで上り詰めたのだ。


・・・そのはずなのに、なぜ私は白哉に盛大に巻き込まれているのだろう。
緋真さんが亡くなったから、私と距離を置く必要がなくなったというのもわかる。
三席まで上り詰めた私に、以前と同じように接してくれたことだって、嬉しい。
白哉と呼ぶことも、咲夜と呼ばれることも、隊長である白哉から許されたのだから。


だが、この現状は何だ?
納得がいかない。
そもそも白哉の事情で私を離したくせに、彼奴の事情でいつの間にか白哉の傍に居るのだ。
我が儘も大概にしろと言ってやりたい。
というか、本人に面と向かって言ってやる。
絶対に。


「ほんと、生意気。愛想もない上にふてぶてしくて可愛げどころか情もない貴方が婚約者だなんて、白哉様も大変ね。」
内心で白哉への呪詛を呟いていると、そんな言葉が聞こえてくる。
やっぱ面倒くさいなぁ。
一体仕事はどうしたのやら・・・。


そう思った時、遠くで鐘の音が聞こえた。
しまった。
そろそろ隊主会が終わる。
この状況を白哉が見たりしたら、何が起こるかは明白だ。
白哉に借りは作りたくない。


そう思って、仕方なく口を開いた。
『言いたいことはそれだけか?それじゃあ、こっちも言わせてもらう。・・・こんな風に私に時間を割くのは無意味だ。私じゃ白哉には釣りあわないのだろう?それじゃあ、あんた等は、私を相手にする必要なんかない。私などよりあんたらの方が、白哉に釣り合うのだろう?』
「当たり前じゃない!貴方なんかより、よっぽど釣り合うわよ!」


『・・・じゃあ絡んでくるな。それとも、そんなに私が怖いか?私に負けるのが不安で、私を潰しに来ているのか?お姫様方は、私に負けるとでも思っているのか?・・・よっぽど自信がないんだな。そもそも白哉はお前らのように外見だけ取り繕っている相手を選んだりはしないが。』
こんなことを言えば、私の株は大暴落するのだろうなぁ、と、他人事のように思う。


「な、にを・・・。」
「そんなわけ、ないじゃない・・・。」
「貴方に負けることが怖いですって・・・?」
「・・・少々、口が過ぎるのではなくて?そんなこと、あるわけないじゃない!」
ぎりり、と奥歯を噛み締めて睨んでくる彼女らに、先手を打つ。


『それなら、私なんか相手にする必要はないだろう?』
淡々と言えば、彼女らは黙り込む。
『・・・これ以後、私に関わるな。私を攻撃すればするほど、お姫様方の分が悪くなるということを理解しろ。話しは以上だ。私はこれで仕事に戻る。じゃあな。』
ひらひらと後ろ手を振って、その場を立ち去る。
彼女たちは私を追いかけては来なかった。



2016.06.16
白哉さんが出てこない・・・。
Aからは登場します。たぶん。


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