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■ 心は変化するもの

・・・眠すぎやろ。
院生の授業てこんな緩い授業やったか・・・?
仕事サボれる思て引き受けたんはええけど、これはあんまりや。
めっちゃ暇やん。
内心で呟きながら、真子は淡々と進められていく斬術の授業を眺める。


・・・あかん。
もう眠たくてしゃあないわ・・・。
ちょっとくらい寝ても気付かれへんやろ。
そう思って、これ以上ないくらい重い瞼を眠気に誘われるまま閉じた。


カンカンと鳴り響く木刀の打ち合う音は心地よい子守唄のようで。
テンポの良いその音が眠っていても聞こえているらしい。
うつらうつらとしながら、真子はそんなことを思う。
そのまま深い眠りに引きずり込まれそうになった時、ひゅん、という音がして、何の音や、と瞼を開ければ、目の前に木刀が迫っていた。


スコン、と小気味良い音が響いて、真子は額を押さえる。
「い、ったぁ・・・。」
半分眠っていた頭と体は木刀を避け切ることが出来なかったようだ。
「なんやねん・・・。何で木刀が飛んで来るんや・・・。」
愚痴りながらあたりを見回せば、木刀を持っていない女生徒に教師が足音荒く詰め寄ろうとしていた。


「漣!!いつも木刀はしっかり握れと言っているだろう!!相手の力が強くとも、絶対に手離すなと何度言ったら解る!!」
きつい叱責が彼女に向けられるが、彼女の表情は無表情のままである。
ゆらり、と、教師に気だるげな視線を向けただけだった。
「なんだその目は!お前はいつもそうだ!何故いつも本気を出さない!お前は、本気を出せばもっと上に行くことが出来るんだぞ!!それなのに、どうして最後までちゃんとやらないんだ!」


そないに怒らんでもええやろ・・・。
怒鳴り散らす教師に若干引きながらも、真子はどうしたものかと彼女の様子を見る。
「お前の兄があれだけ優秀なんだ。お前にだって同じことが出来るはずだ!」
教師の言葉に、彼女の体が少し強張った気がした。
それでも彼女は教師をゆらりと見つめたまま、無言を貫く。


「・・・もういい。出て行け。」
彼女の瞳に気圧されたのか、教師は彼女にそう言い放つ。
言われた彼女は教師に一礼して、修練場を出て行った。
他の院生たちを見れば、いつものことだと打ち合いを再開している。


なんや、あれ。
真子は唖然としながら教師を見つめる。
それ気にが付いたのか、教師がこちらにやって来た。
「申し訳ありません、平子隊長。あの者は、いつもあのようにやる気が足りないのです。お見苦しいところをお見せいたしました。お怪我はございませんか?」


なんや、こいつ。
先ほどまでとは打って変わって表情の変わった教師に、真子は再び唖然とする。
こんなんが、今の霊術院の教師なんか?
脳みそまで筋肉で出来てんと違うか・・・?
オレ、こういう奴嫌いやねん。


「・・・ちょっと、医務室行って冷やすもん貰ってきますわ。」
面倒だから逃げ出そう。
そう思って立ち上がれば、目の前の教師は焦ったように頭を下げた。
「本当に、申し訳ありません!後であの女生徒に謝罪に向かわせますので。」


「そんなんいらんわ。・・・追い出すほどのことやないやんけ。」
「え?何か・・・?」
ぼそりと呟いた言葉は聞こえなかったらしい。
聞き返されるが答える気はない。
「何でもあらへん。ほな、ちょっと行ってきますわ。」


『・・・はぁ。』
医務室には行かずに先ほどの彼女の霊圧を探ってそちらに足を向ける。
深いため息が聞こえてきて、そらそうやろなぁ、と、思う。
気配を消して後ろに忍び寄って、彼女に声を掛けた。


「ため息つくと幸せ逃げるで。」
『!?』
彼女はびくりと肩を震わせて、弾かれたようにこちらを見る。
「よう。」
『ひ、らこ、隊長・・・。』


「せや。オレが皆の五番隊隊長、平子真子や。」
『さ、先ほどは、申し訳ありませんでした!!』
目を丸くした彼女は、はっとしたようにそういって頭を下げた。
「謝罪なんかいらん。あんなん痛くも痒くもないわ。」


『でも、私の、木刀が、当たって・・・。』
「お蔭でめっちゃ目ぇ覚めたわ。・・・それより、右手、出し。」
『え・・・?』
「ええから。右手。」
『えと、はい・・・。』


おずおずと出された右手を掴めば、彼女は顔を歪めた。
「やっぱりや。この右手、しばらく痛いやろ。・・・剣の握りすぎや。炎症起こしてるやん。」
『そ、んな、ことは・・・。』
「あるやろ。我慢すなや。医務室行くで。」


彼女の案内で医務室に足を運ぶ。
しかし、残念ながら医師は不在のようだった。
「なんやねん。居らんのかいな。まぁ、ええわ。そこ、座り。オレが直々に手当てしたるわ。」
『そんな、私、自分で・・・。』


「アホ。怪我人は大人しくしとくもんやで。早う座りや。」
言いながら薬品棚を物色する。
『はい・・・。』
治療用の椅子に座った彼女をちらりと見て、目当てのものを手に取ると医師が普段座っているであろう椅子に座る。


「手、出し。」
『はい。』
諦めたのか、今度は素直に手を差し出される。
その手を取って、炎症を起こしている部分を見極めると、その場所に湿布を張った。
その冷たさに、彼女の体が小さく跳ねる。


「痛いなら痛いて言いなや。何黙ってあのアホ教師の怒り受け止めてんねん。」
包帯を巻きながら呆れたように言えば、彼女は俯いたようだった。
『・・・痛いと言えば、仮病だと、言われるので。』
「はぁ?なんやそれ。彼奴、何を見てん?アホちゃうか。何であんなんが教師やっとんねん。その辺の隊士が教えた方がなんぼかましやわ。」
彼女の言葉に思わず毒吐く。


『・・・すみません。』
「謝んなや。お前は何も悪くないやろ。一生懸命刀振るって、そのせいで手痛めてんやろ?それをあないに怒鳴り散らす方がおかしいねん。・・・ま、お前もお前や。死神目指しとんのなら、体は大事にせな。怪我して死神出来ん奴が腐るほどおるんやで。」
呆れたように言いながら、俯く彼女の顔を覗きこめば、涙がぽたりと零れ落ちる。


「何泣いとんねん。」
『すみ、ません。そんなこと、言われたの、初めて、で・・・。』
彼女の瞳からは次々と涙が零れ落ちる。
『わた、し、は、一生、懸命、やっているように、見えない、らしくて。いつも、もっと、本気でやれ、って、言われて、しまうんです。だから・・・。』


「そうかァ。そら辛いのう。」
『だから、期待、されている、分は、何とか、その期待に、応えようと、頑張って。・・・でも、兄には、敵わなくて。兄と同じようには、出来なくて。・・・早く、強く、なりたいのに。』


・・・損な子やな。
そう思って彼女の頭に手を乗せる。
「そう焦るなや。人それぞれ自分のペースがあるねん。無茶せなあかん時もあるやろけど、お前のそれはいらん無茶や。もう少し、気ぃ抜きや。疲れるやろ、そういうの。せやから、今は、その手、治し。休憩も大事なことや。」


『はい・・・。』
頷いた彼女の頭を一撫でして、顔を上げさせる。
『平子、隊長?』
「名前は?」
『漣、咲夜です。』


「そか。咲夜いうんか。覚えとくわ。・・・そろそろ、オレは戻らんと。」
『あ、じゃあ、私も・・・。』
椅子から立ち上がれば、彼女も立ち上がろうとする。
真面目な奴や、と内心で苦笑しつつも、彼女を制して椅子に戻らせる。


「アホ。お前は休むんが仕事やろ。医者が戻ってきたら診断書書いてもらい。診断書があればあのアホも仮病とは言わんやろ。」
『お一人で戻れますか・・・?』
「お前はオレを誰やと思てんねん・・・。オレかてここの卒業生やぞ。」


『・・・でも、さっき、医務室の場所解らなかったじゃないですか。』
疑わしげに言われて唇を尖らせる。
「ちょっと忘れただけやんか・・・。」
『・・・ふふ。そんなお顔を、なさるのですね。』
おかしそうに笑う彼女にどきりとする。


・・・そんな、不意打ちで笑うんは、狡いやろ。
しかも笑ったら可愛いやんけ。
さっきのあの無表情は何やったん・・・。
「・・・五月蠅いわ。ほな、俺はもう行くで。ほなな、咲夜。」


『はい、平子隊長!ありがとうございました!』
去り際に向けられた表情は清々しい笑顔で、あぁこれはほんまにあかんやつや、と内心で呟く。
・・・でも、今日、ここに来てよかったわ。
先ほどまではあんなに内心で愚痴っていた自分が今はそんなことを思っていることに気が付いて、おかしくなるのだった。



2016.06.12
なんだか平子隊長っぽくなくなってしまいました。
一生懸命頑張ってもそれが表情や態度に出ない女の子の痛みや苦しみに気付く平子隊長を書きたかったのですが・・・。
文章力が足りませんでした。
頑張ります。


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