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■ 無常

『意地が悪いな。』
懺罪宮から戻ってきた市丸の頭上から、そんな声が落ちてくる。
見れば、塀の上に座り、空を見上げている女が一人。
その瞳は、空を見上げているようで、もっと遠くを見ている気がした。


「咲夜さんやないの。こないな所で何してますの?」
彼女を見上げれば、ちらりと視線が向けられる。
『観察、かな。』
「ふぅん?ボクなんかより、咲夜さんの方が、悪趣味と違います?」
『そんなことはない。』


「ボクがルキアちゃん苛めてるの見てはったくせに。」
『私は今回の件について手出しをしないと決めたからな。今の私は観察者でしかない。』
「それが悪趣味いうんとちゃいますか?咲夜さん、ボクの目的知ってはるやろ?」
『藍染惣右介が何をしようとしているかまで、知っている。』
「ええの?放って置いて。君、”隠密機動”やろ?」
からかうように問えば、呆れた視線を向けられた。


『誰が王になるかなど、私の興味の範疇にない。そもそも、誰が王になろうと、世界は理通りにしか動かない。』
面倒そうに言われて、思わず苦笑する。
「なんや、えらい達観してはりますなぁ。それか、未来が視えているようやね。」
『視えている、と言ったら?』
「どんな未来なん?」


『・・・君は、目的を達することなく命を落とす。』
彼女は再び空を見上げて呟いた。
「そら、えらい未来ですわ。藍染隊長が王にならはるんやから。」
『それも、達せられない。君が監視するふりをしながら成長を願ってきたあの橙色の死神代行が、藍染惣右介をも凌駕する。』


淡々と話す彼女の髪を、風がさらさらと揺らす。
あぁ、ボク、死ぬんや。
他人事のように、そう思った。
彼女は、巫女。
未来を視る者。


彼女が動けば未来が変わる余地があるらしいが、今回、彼女は動かないと言った。
ただの観察者だと。
今、彼女に視えている未来は、変わることがないのだ。
・・・つまり、ボクは、死ぬ。
目的を達することなく。
あの死神代行に思いを託して。
彼女を、残して。


『・・・それでも、行くのか?』
そう問う彼女に、表情はない。
ただ、その透き通った瞳だけが、何かを見据えていた。
いつも通りの彼女に小さく笑って、彼女に背を向ける。


「ボクは、大昔に決めたんや。どんな手を使っても、乱菊の盗られたもん取り返す、て。せやから、これでいいんよ。蛇の道は蛇て、言うやろ?」
『・・・そうか。難儀な奴だな、君も。』
「せやね。ほな、さいなら、二番隊第三席、漣咲夜さん。ボク、君のこと、嫌いやなかったで。」


白い羽織を翻して、銀色の男は去っていく。
『・・・本当に、難儀なことだ。世界とは、無常。いずれ、私も世界に翻弄されるのだろう。彼と同じように。』
そう呟いて、彼女は何かに耐えるように瞳を閉じた。


数か月後、銀色の男の訃報が、彼女の耳に届く。
『逝ったか・・・。私も、君のことは嫌いじゃなかったよ。さようなら、ギン。また会おう。世界は廻転しているのだから。ギン。私は、本当は・・・・・・。』
彼女の呟きは、突風に遮られて、誰にも聞かれることはなかった。



2016.05.15
初市丸夢でした。
暗いですね・・・。
市丸さんの目論見を全て知っていた咲夜さん。
誰もが彼を疑っても、彼女だけは、市丸さんの味方。
そういう人が、市丸さんを陰から見守っていたらいいな、という私の希望でした。
関西弁は難しいです。


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