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■ 間違える

「・・・あ、こら、咲夜!私の白玉を取るな!」
『えへへ。美味しい。・・・あぁ!私のみたらし団子!』
「ふふん。お返しだ。こちらも美味いな。」
『やられたぁ。・・・ふふ。でも、美味しいね。』
「あぁ。」


任務の帰り、大通り沿いの茶屋から聞き慣れた声がした。
霊圧を探れば、ルキアと漣咲夜のものである。
「相変わらず仲良いっすねぇ。・・・そういや、彼奴ら、今日は非番とか言ってたな。」
恋次も彼らの霊圧に気が付いたのか、小さく呟いた。


「あぁ。」
その呟きに頷きを返して、足を緩めることなく歩を進める。
「あれ?声、掛けないんすか?」
恋次は不思議そうに問うてくる。
「あれらは非番だ。ゆっくりするのがいいだろう。・・・お前なら、構わぬだろうが。」


付け足された言葉に、恋次は理解する。
自分が彼らに声を掛ければ、彼らはゆっくりできないと思っているのだ。
・・・まぁ、確かに、非番の日に隊長と遭遇したらビビるよな。
ルキアはともかく、漣は特に。
恋次は内心で呟く。


「お前こそいいのか?同期なのであろう。」
「はは。構いませんよ。わざわざ店に入ってまで挨拶することもないでしょう。仕事中ですし。」
「そうか。・・・総隊長に報告書を提出したら、次は東流魂街三十一地区だ。」
「はい、隊長。」


「・・・恋次?・・・白哉兄様!」
声が聞こえたのか、ルキアが目を丸くしてこちらを見ている。
ルキアの正面に座っていた漣咲夜もこちらを見て目を丸くした。
慌てた様子で口の中に入っていたものを呑みこむ。


「隊舎へお帰りですか?」
ルキアに問われて首を横に振る。
「またすぐに出る。」
「そうなのですか。・・・恋次も行くのか?」
「そうだな。今日はずっと隊長と一緒に行動する。」


「そうか。・・・で、咲夜。私の陰に隠れるなと何度言えばわかるのだ。」
呆れたように言ったルキアに、恋次は苦笑し、白哉は彼女の後ろに隠れている咲夜を一瞥した。
その視線を感じたのか、咲夜の体が小さくビクつく。


『あの、えっと、その、ごめん、なさい・・・。』
何の謝罪なのか解らない謝罪の言葉を呟いて、彼女は俯いてしまう。
彼女は、私が怖いのだろう。
だから声を掛けずにそのまま去ろうとしたのに。
白哉は内心で呟く。


「・・・行くぞ、恋次。」
「そっすね。じゃあな、ルキア、漣。」
「無茶苦茶なことはするなよ、恋次。兄様もお気をつけて!」
「あぁ。」
「解ってるっつーの。」


「こら、咲夜。お前も挨拶せぬか。兄様と恋次はこれから任務なのだぞ。」
『それは、そうなんだけど・・・うひゃ!?』
呟くように言いながら後ろから出てこない咲夜の腕を取って前に出す。
「浮竹隊長を送り出すときと同じことをすればいいのだ。」


「そ、そっか。・・・あ、阿散井君、行ってらっしゃい。」
そういって微笑んだ彼女に、白哉は目を瞠った。
彼女の微笑を見たのは、初めてのことなのである。
いつも彼女は、私の前ではおどおどとして、私の顔を見ることすら稀なのだ。
私に怯えているのだから、仕方がないのかもしれないが。


「おう。・・・よし、漣。その勢いで隊長にも同じことをするといい。」
『へ・・・?』
「そうだな。恋次の言う通りだ。いつまでもこれでは進展がない。」
進展がないとは、どういうことだ・・・?
ルキアの言葉に内心で首を傾げつつ、彼女をちらりと見る。
目が合うとすぐに逸らされた。


「・・・恋次。」
「あ、もう時間すね。そろそろ行かないと。」
「行くぞ。」
「はい、隊長。」


くるりと踵を返しながら彼女を見やれば、何か覚悟を決めたような表情をしていた。
何故そのような顔をするのかと疑問に思ったが、時間が迫っているのでそのまま歩を進める。
恋次も彼女の表情に気が付いているようだったが、そのまま私に付いてきた。


『・・・く、朽木隊長!』
声を掛けられて、足を止める。
「なんだ。」
『そ、その、えっと・・・す、好きです!』
彼女の言葉を理解するのに数秒かかり、動きが止まる。


彼女の言葉に動きを止めたのは私だけではない。
恋次は目を丸くして、慌てて振り返ったようだ。
「・・・ち、違う!いや、違わないが、今言うべきは、それではないだろう、この阿呆!」
ルキアは慌てた様子で、咲夜の肩を掴んでぐらぐらと揺らす。


『・・・あ・・・私、今、何を言ったの・・・?』
揺すられて意識が戻ったかのように、彼女は呟く。
「こんな往来で告白をする奴があるか!見ろ!恋次など目玉が零れ落ちそうではないか!」
ルキアに言われて、彼女は目を丸くする。


『ち、ちが、わた、私・・・ど、どうしよう、ルキア・・・。』
顔を赤くしていく彼女を見て、これまでの私への態度の理由に思い当たる。
彼女が私が怖かったのではない。
怯えていたのでもない。
私に、好意を持っているのか・・・。


すとん、と、心の重荷が落ちて、心が軽くなった気がした。
それと同時に気が付く。
私は、彼女に好かれていないと思うたびに、心が沈んでいたのだ。
それは、つまり、裏を返せば・・・。
そこまで考えて、口元が緩みそうになる。


「・・・漣咲夜。」
『うわ、はい!』
彼女に背中を向けて名前を呼べば、返事が返ってきた。
顔を見なければ、普通に返事をしてくれるらしい。


「・・・次の非番は空けておけ。」
『へ?』
「それから、次は、ちゃんと私を送り出せ。」
『え?それは、どういう・・・。』


混乱している様子の彼女に小さく口角が上がる。
そのまま答えることなく歩を進めた。
私の言葉に唖然としていた恋次はそれに気が付いて慌てて追いかけてくる。
何かを問うような視線を感じたが、沈黙を貫いた。


次、彼女の微笑を見ることが出来たのなら。
彼女の微笑が私に向けられたのならば。
彼女の言葉をもう一度聞こう。
そして、私も・・・。


何やら楽しげな様子の白哉に、恋次は内心で動揺する。
まさか、まさかの事態が起こっているというのか?
あの隊長が、まさか、漣を・・・?
ちらりと後ろを振り向いてルキアを見れば、彼女も動揺しているようだった。


・・・まぁ、本人がいいのなら、いいだろう。
ましてや、漣は隊長を一目見たときからずっと、彼を想っているのだから。
叶うはずがないと解っていながらも、諦めることをしない彼女を恋次はルキアと共に見守ってきたのだ。


その想いが叶うのならば、応援してやりたい。
内心で呟いて、ちらりと己の隊長を見る。
心なしか口角が上がっているような気がして、唖然とする。
あの隊長も笑うのか、と、失礼なことを思った恋次なのであった。



2016.04.26
白哉さんを目の前に動揺して思わず告白をしてしまう咲夜さん。
そしてそれで自覚する白哉さん。
声を掛けずに通り過ぎようとしたのは、咲夜さんへの気遣いと、己の心の平穏のため。
・・・文章からはそんなことわかりませんね。
精進します。


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