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■ 冗談は程々に

『・・・朽木君が、ずっと好きでした。私と、付き合ってください。』
顔を赤らめて、恥ずかしそうに、目の前の女は言った。
「は・・・?」
想い人からの思わぬ告白に、唖然とする。


場所は六番隊舎の廊下。
人通りは少なくない。
故に、こちらをちらちらと見つめる隊士たちが目を丸くしていた。
彼らに気が付いて視線を向ければ、そそくさと逃げていく。


・・・一体、どういうことなのだ?
内心で首を傾げて、彼女を見る。
相変わらず顔は赤い。
こちらを見上げる瞳は熱を帯びているような気もする。


彼女は、漣咲夜。
現在、五番隊で第三席を務めている。
私が護廷隊に入隊した際には六番隊に在籍しており、私の教育係であった。
といっても、彼女から教わることは少なかったのだが。


それでも、彼女は私が朽木家の跡取りだということを抜きにして、正当に私を評価してくれた数少ない人物である。
隊長となっても、彼女は私のことを朽木君と呼ぶ。
他の者にそう呼ばれれば不快でしかないが、彼女にそう呼ばれるのは嫌いではない。
むしろ、嬉しいとさえ感じる。


私が父や緋真を失った時も、ルキアの処刑が決まった時も、彼女は私の傍に控えていた。
藍染が抜けたことにより、混乱状態だった五番隊への異動要請が来た時も、彼女は断るものだと思っていた。
だが、彼女はその要請に頷き、五番隊へと異動したのだった。


彼女の居ない執務室は、未だに慣れない。
自分でも驚くほどに、何かと彼女の名を呼んでいたらしい。
名前を呼ぶたびに、彼女が居ないということを思い知らされる。
何とも言えない複雑な感情が湧いてきて、その正体が彼女への恋心だと気が付いた矢先に、彼女からの告白である。


「・・・今、何と言った?」
自分の耳が信じられなくて、彼女に問う。
『朽木君のことが好きだ、と、言ったが。』
はっきりと答えられて、言葉に詰まる。


これは、夢か・・・?
そう思って、握り拳を作る。
そのまま掌に爪を立てれば、痛みがあった。
・・・ということは、夢ではないらしい。
しかし、彼女が私を好きとは、どういうことだ・・・?


『・・・ふふ・・・。』
考え込んでいると、彼女の笑い声が聞こえた。
彼女を見れば、くすくすと楽しげである。
「何を笑っている?」
そう問えば、彼女は思いきり笑い出した。


『ふ、あはは!もうだめだ!我慢できない。』
彼女はそういって腹を抱える。
「は・・・?」
笑う彼女に、再び唖然とする。


『ふふ・・・。いや、悪いね、朽木君。・・・おーい、乱菊!!出て来い!そこに居るんだろう?』
彼女の声が聞こえたのか、松本乱菊が姿を見せた。
何やら楽しげににやにやとしている。


「流石咲夜ね!面白いものを見せてもらったわ!」
『そう?じゃあ、罰ゲームはこれで終わりだな。』
「そうね。これで許してあげるわよ。まさか、昨日の王様ゲームの命令を本当に実行するとは思わなかったけど。」


・・・罰ゲーム?
王様ゲームの命令?
笑う彼女らの言葉に、騙されたのだ、と、理解する。
先ほどの顔を赤らめた彼女は、演技。
彼女の言葉が真実ではなかったという落胆と共に、怒りが込み上げてくる。


「漣・・・貴様・・・。」
唸るように言えば、彼女はヘラりと笑う。
『ごめんな、朽木君。もしかして、本気で迷ったか?それだったら悪いな。冗談だ。』
悪びれもなくそう言い切った彼女に腹を立てながらも、どこか思考が冷静に働いた。
そこまで言うのならば、本気で彼女を私のものにして見せよう。


「・・・この私を弄ぶとは、いい度胸だな、漣。」
思ったよりも冷たい声が出て、松本乱菊が顔を青くしたのが解る。
目の前の彼女も、顔を引き攣らせた。
『い、いや、悪かった、朽木君。その、昨日、乱菊たちと呑んでいたら、王様ゲームに負けてしまって・・・。』


言い訳を述べる彼女の胸倉を無言で掴めば、流石の彼女も顔を青くした。
『あ、の・・・朽木、君・・・うわ!?』
私の様子を窺がうように見上げてきた彼女の胸倉を引き寄せて、顔を近づける。
『え?朽木、く・・・!?』


唇が重なって、彼女の動きが止まる。
「あらら。」
松本乱菊の意外そうな声が聞こえた。
未だ固まっている彼女に、ざまあみろ、と、内心で笑って、唇を離す。


「この私を弄んだ罪は重いぞ。覚悟しておくことだ。」
不敵に笑って彼女の胸倉を離せば、彼女はそのままへたり込む。
上から見下ろしてやれば、彼女は徐々に顔を赤くした。
「今日はこの位にしておいてやる。」
それだけ言い残して踵を返せば、彼女の叫び声が聞こえた。


『ひ、人の唇を、勝手に、奪うなんて、私は、教えていないぞ!!返せ!!朽木君のくせに生意気だ!!・・・こら!聞いているのか!?先輩である私が話しているのだぞ!?』
騒ぐ彼女の声が聞こえてきて、内心で呟く。
この私を本気にさせたのだ。
責任は取ってもらわねば。


さて、次はどうやって彼女の唇を奪ってやろうか。
・・・公衆の面前で、というのも悪くはないな。
なにせ、松本乱菊が居るのだ。
明日には瀞霊廷中に噂がばらまかれているに違いない。
彼女も私も注目されることだろう。
周りをけん制するのにもちょうどいい。


必ず、私のものにしてやる。
彼女の心を丸ごと捕えてやろう。
私から逃げようなどと考えることすら出来ないほどに。
そう思って、白哉は楽しげに考えを巡らせるのだった。



2016.04.14
冗談のつもりが白哉さんを本気にさせてしまう咲夜さん。
この後、事あるごとに白哉さんに唇を奪われることでしょう。


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