Short
■ 網に絡まるB

「・・・さて、任務の途中だったな。いい加減、隊士たちも怪しんでいることだろう。」
腕を緩めれば、彼女は慌てたように周りを見回す。
周りを囲むようにして旋回する桃色の花弁を見て、小さく息を吐いた。
『千本桜で周りを囲っていたのか・・・。』


「そろそろ解く。それまでに、その赤い顔を直しておけ。そんな顔をしていては、隊士たちに示しがつかぬ。」
『な!?びゃ、白哉のせいだろう!大体、君だって、任務を放り出しているじゃないか!同罪だ!』


「私は話している間もずっと千本桜を操っていた。お前のように、無意識に結界を解いたりしてはおらぬ。」
言われて彼女は己の張った結界が解かれていることに気が付いたようだった。
『・・・白哉のせいだ。白哉のせいで集中力が切れたのだ。』


「四の五の言わずにその顔をどうにかしろ。それとも、隊士たちに見せつけてやろうか?お前が私のものであるということを。」
『!!!』
「私はどちらでもよいが。」
言いながら手元に千本桜を呼び寄せれば、彼女は焦ったようだ。


『・・・だ、駄目だ!ま、待て、白哉!ゆっくりだ、ゆっくり解け!わ、私は、これでも、隊長なのだ!』
「すぐに辞めることになるのだ。誰に見られようと構うまい。」
『さ、さっきと言っていることが違う!いいから待て!!』


わたわたと慌てた様子でどうにか赤くなった顔を冷やそうとしている彼女を横目に見て、思わず口元が緩む。
予定より早かったが、早い分には大歓迎だ。
総隊長には、既に話をつけてあるのだから。
仮面の軍勢の中から相応の者が隊長の座に就くことだろう。


もちろん、彼女はそれを知らないのだが。
知らせる必要もあるまい。
内心で呟いて、ゆっくりと千本桜を刀に戻していく。
開けてきた視界の先に、訝しげにこちらを眺めている隊士たちの姿が見えてくる。


ちらりと彼女を見れば、若干の赤さは残っているものの、何とかいつもの顔に戻っていた。
隊士たちは互いに応急処置を終えたらしく、姿を見せた私たちに安堵の表情を浮かべる。
「・・・任務は終えた。帰るぞ。」
それだけ言って歩き出せば、六番隊の隊士たちが私の後ろをついてくる。


『皆、命があるようで何よりだ。私たちも帰還しよう。』
歩き出した私に不満げな視線をちらりと送って、彼女は凛とした声で言う。
隊士から返事があって、皆が彼女の後に続いた。
彼女は私に追いついてきて、隣に並ぶ。


ぷつ、り・・・。
そんな小さな音が聞こえて、隣を見れば、結ばれていた彼女の髪が風に靡いた。
突風が吹いて、切れた髪紐が風に攫われていく。
彼女はそれを唖然と見つめた。


『・・・切れた・・・。切れたー!!!ど、どうしよう、白哉!ごめん!切れちゃった!しかも風に持って行かれた!白哉からもらった髪紐なのに!!』
沈黙の後、情けない顔で騒ぎ出した咲夜に、笑いが込み上げてくる。
隊士たちをちらりと見れば、彼らは唖然としているようだった。


『その上、縁起が悪くないか!?これから君の妻になろうというのに、君からもらった髪紐が切れる、なんて・・・結ばれない、みたいじゃないか・・・ん・・・?』
自分が何を口走ったか、気が付いたらしい。
動きを止めて、周りを見る。


「ほう?余程私の妻になりたいと見える。」
『!?』
「安心しろ。新しい髪紐を贈ろう。」
『で、でも、あれは・・・。』


「私の代わりだというのだろう。だが、私本人がお前の前に居るのに、私の代わりが必要か?」
『・・・いや、必要ない、な。でも、私は、あれしか、持っていないのだ。これでは仕事をするときに邪魔だ・・・。』


「案ずるな。お前はひと月後、死神を辞めることになっているのだからな。」
『は・・・?』
ぽかんとした咲夜を一瞥して、歩を進める。
『え?白哉!?なんだそれは!?どういうことだ!?なぁ、白哉!!!!』


「さぁな。すぐに解る。」
追いかけてくる彼女に、そう言って不敵に笑って見せる。
それを見た彼女は、顔を赤くして、口をぱくぱくとさせた。
「金魚の真似事か。似合っているぞ。」


『金魚!?こら、白哉、待て!』
騒ぎながら追いかけてくる彼女をちらりと見やって、小さく笑う。
『何を笑っているのだ!失礼な奴だ!』
「五月蠅い。騒ぐな。・・・帰るぞ、咲夜。」


『白哉の馬鹿!言われなくても帰る!』
彼女は赤い顔のままそう言い捨てて、私を追い抜いて行く。
それに内心で笑って、歩を進めるのだった。


一月後、瀞霊廷にある叫びが響き渡る。
『な、何故、既に後任が決まっている!?それも今日から就任とはどういうことだ!?』
隣の隊舎から彼女の叫びが聞こえてきて、思わず笑う。
それから、ドタバタと足音を立てながら駆け込んでくるであろう咲夜を待つことにしたのだった。



2016.04.13
白哉さんの張った網に見事引っかかる咲夜さんでした。
後日、新しい髪紐が咲夜さんに贈られたことでしょう。


[ prev / next ]
top
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -