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■ 網に絡まるA

『・・・・・・う、く、びゃ、くや。』
泣いているのだろう。
彼女は顔を私の胸元に押し付けて、小さく震えていた。
「どうした、咲夜。」


『・・・手が、いたい。治して。』
涙声で言われて、内心苦笑する。
彼女の掌を取り鬼道で治療を始める。
『白哉のばか。ずるい。』
「そうか。」


『もう、隊長も、死神も、嫌だ・・・。ずっと、辛かった・・・。でも、私は、家に帰ることも、出来なかったから、辞めることが、出来なくて。兄上に嫌われているのも、嫌だ。私は、兄上が、好きだったのに、どうして、嫌われてしまったのだろう。私が死神になって、力をつけたのは、兄上のためだったのに。兄上を害するつもりなんか、なかったのに。』


「あぁ。私はそれを知っている。」
だが、私が何度彼女の兄にそれを訴えても、聞き入れては貰えなかった。
『私の力が、大きいせいだ。兄上も、四十六室も、力があるというだけで、私を遠ざける。私は、私でしかないのに。何を言っても、私の言葉は届かなかった。』


「私には、届いているぞ。お前の言葉は、ちゃんと私に届いている。誰が何といおうと、お前は、お前だ。私は、いつだって、お前の声を聞いているのだ、咲夜。」
『うん・・・。そうだった。白哉は、私の言葉を聞いてくれた。私は、君が、白哉だけが、頼りだったのだ。この髪紐は、君の、代わりで、君が居るから、私は帰ってくることが出来たのだ。生きて帰ろうと、思うことが出来たのだ。』


「朽木家に来い、咲夜。私の元に来るのだ。我が妻となれ。我が妻となることで、お前は縛られるだろう。だが、それ以上にお前を自由にしてやる。私がお前を解き放ってやる。笑いたいときは笑い、泣きたいときは泣けばよい。私がお前を受け止めてやる。お前の傷も私が癒そう。何度でも。」


傷が塞がった左手に指を絡ませる。
その左手が私の手を握りしめてきて、私も握り返す。
『・・・すき、だ。私は、ずっと、白哉が、好きだった。』
「私は愛している。」


『そ、そういうことを、言うな!わ、私は、これでも、精一杯なのだ!』
耳が赤くなっている彼女に、小さく笑う。
「いくらでも言ってやる。・・・愛している。」
『だから!解った!解ったから、もう、やめてくれ・・・。』
懇願するように顔を上げた彼女の顔は真っ赤で、涙が零れている。


「顔を赤くするのか、泣くのか、どちらかにしろ。可愛いではないか。」
『かわ!?』
意地悪く言えば、彼女は目を見開いた。
「その顔、私以外に見せるなど許さぬ。」
『・・・お、横暴だ。』


「死神など辞めてしまえ。私が貰ってやる。」
『・・・うん。』
「私の隣がお前の居場所だ。忘れるな。」
『うん。』


「お前の言葉を聞いてやる。口を閉じたりするな。何かあればすぐに言え。」
『解った。』
「それから、私の妻となれ。返事は肯定しか受け取らぬ。」
『・・・。』
「何か不満か?」


『・・・いや。私でいいのならば、くれてやる。』
「その言葉、忘れるなよ。覚悟しておけ。」
『うん。解った。』
彼女の頷きを見て、彼女の涙を拭う。
くすぐったそうにする彼女に軽く口付ければ、ぽかんとして、それから赤くなった。



2016.04.13
Bに続きます。


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