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■ 牡丹の花

「白哉様、ご機嫌麗しゅう。」
「今日も凛々しいお姿にございますね。」
「白哉様のご活躍は常々伺っております。」
「今度、白哉様からお話をお聞きしたいですなぁ。」


そんな言葉を掛けながら己に群がってくる者たちを見て、内心でため息を吐く。
貴族の会議に出席して、その後の宴への参加には断りを入れていたはずなのだが、強制的に宴に参加させられているのだった。
面倒なことこの上ない。
早々に立ち去りたいところだが・・・。


白哉はげんなりしながら周りに視線を奔らせた。
・・・残念なことに、抜け出せそうもない。
周りに居る者はすべて朽木家との繋がりを得ようと私に媚び諂った笑みを浮かべている。
その他の者は私を遠巻きに見つめて何やらこそこそと話しているようだった。


これでは誰も助けてはくれまい。
内心で呟いた時、見覚えのある顔を見つける。
あれは、漣咲夜ではないか。
彼女は私の周りに群がる者たちの間を、邪魔そうな顔をしながら通り抜けて行く。
これ幸いと、彼女に声を掛けることにしたのだった。


「漣咲夜。」
名を呼べば、彼女はあたりを見回して、私を見つけたようだった。
囲まれているのが私だと気付いていなかったらしい。
『朽木隊長!?』
私の名を呼んで、彼女は慌てたように駆け寄ってくる。


「非番のところ悪いのだが、頼みたい仕事がある。任せてもよいか?」
『それは、構いませんが・・・。』
いいながら彼女は不思議そうにして私を見つめてきた。
大方、何か急ぎの仕事があっただろうか、と、思考を巡らせているのだろう。


「そうか。済まぬな。」
謝りながら周りにげんなりとした視線を奔らせれば、彼女は私の意図に気が付いたようだった。
『・・・いえ。仕事のお話ならば、隊舎に移動しましょう。その方が都合がよろしいでしょうから。』


話を合わせてくれるとは有り難い。
その上さり気なくこの場から離れるに都合のいい理由を付けてくれている。
周りの者たちを見れば、仕事の話ならば口を挟むべきではないと解っているのだろう。
先ほどよりも大人しくなったようだった。


「あぁ。だが、その前に邸に寄ってもよいだろうか。この格好では隊士たちも驚いてしまうだろう。」
少し困ったように言えば、彼女は笑った。
『あはは。それもそうですね。では、私も死覇装に着替えてから隊舎に参ります。』


「あぁ、頼む。・・・では、私は仕事がある故、これで失礼する。行くぞ、漣。」
『はい、朽木隊長。』
その返事を聞いて歩き出せば、私の周りに群がっていた者たちは残念そうにしながらも道を開けたのだった。


『・・・・・・ふ、ふふ・・・ふ、あはは!』
暫く歩いて、周りに人気がなくなったところで、三歩ほど後ろを歩く彼女が笑い出した。
「何を笑っている。」
『ふふ・・・。いえ、申し訳ありません。ちょっと、おかしくて。』
「おかしい?」


『だって、隊長、見ました?隊長を囲んでいた方々の残念そうな顔。あの方々には悪いと思いますが、面白うございました。』
「私は、そなたが面倒そうにあれらの間をすり抜けようとしていることの方が面白かったぞ。」
『あらら。見られていましたか。』


「囲まれているのが私だということにも気が付いていなかったようだな。」
『あはは・・・。何やら人が多かったので、この隙に帰ろうと・・・。せっかくの非番をこのような集まりで潰されたくはありませんから・・・。』
苦笑しながら言った彼女の言葉に内心で同意する。


「だが、助かった。礼を言う。」
『いえ。私の方こそ助かりました。父の付き添いで来たのですが、ああいう席は苦手でして。』
「私もだ。」
『ふふ。朽木隊長って、実は結構面倒くさがりですよね。』
「そうか?・・・いや、そうかもしれぬ。」


『でも、意地っ張りだから、それを見せませんけど。隊長印を押すときなんて、特に。』
楽しげに言われて、思わず足を止めて彼女を振り返る。
「何故・・・。」
そう問えば、彼女は楽しげに口を開く。


『朽木隊長の隊長印は、いつも真っ直ぐに押されていて、まるで印刷でもしたみたいです。それも、忙しければ忙しいほど真っ直ぐで、それが、私は忙しくなどないぞ、とでも主張しているようで、私はいつも笑いそうになってしまいます。やけくそなんだろうなぁ、って。』


「・・・事実、やけくそなのだ。」
『あはは。そうですか。・・・でも、隊長は、どんなに忙しくても、私たち隊士のことをよく見ていてくださいます。だから私は、朽木隊長が私の隊長でよかったなぁ、と、毎日のように思うのですよ。』
彼女はそういって微笑む。
「そうか。」


『それから、隊長を見ているのは面白いです。』
「面白い?」
『はい。古参の隊長たちにからかわれて不満げな隊長や、花や木々を見て小さく口元を緩める隊長、それから、大真面目な顔でワカメ大使を作り出す隊長も。他にもたくさん。』


「・・・なんだそれは。」
『ふふ。隊長が私たちを見ているように、私たちも隊長を見ているということです。ですから隊長、もう少し、力を抜いてくださいね。たまになら、面倒くさがりを存分に発揮していただいても結構です。隊長のためなら、皆が頑張りましょう。』


彼女の言葉は、不思議と抵抗なく受け入れることが出来た。
他の者からも同じようなことを言われるが、それを聞きいれたことなどないのに。
「・・・善処しよう。」
微笑む彼女から視線を逸らして呟くように言えば、彼女は嬉しげに笑う。
その笑顔をもう少し見てみたいと思った。


「・・・この後は、暇か?」
気が付けばそんな言葉が滑り出ている。
『え?えぇと、特に、予定はありませんが・・・。』
「そうか。では、我が邸に来るがよい。」


『へ?』
ぽかんとした彼女は首を傾げる。
「そなたの言葉をもう少し聞きたい。私の話し相手をしてはくれぬか。庭でも歩きながら。」


『・・・私などで、よろしいのですか?』
「あぁ。そなたが良ければ、だが。」
伺うように彼女を見れば、彼女は笑みを見せる。
『では、お付き合いいたしましょう。朽木邸のお庭にも大変興味がございます。』


「そうか。では、案内してやろう。牡丹の花が咲き始めているのだ。」
『隊長に案内していただけるなんて、光栄にございます。』
「私が誘ったのだから、当然のことだ。・・・では、行くか。」
『はい。』


立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。
いつもの死覇装姿とは違い、豪奢な振袖を着ている彼女は、改めて見ればそう形容するに相応しい。
貴族の者たちが残念そうだったのは、私が居なくなるから、という理由だけではなかったのだろうと今更ながらに気が付く。


『・・・わぁ。綺麗!隊長みたいですね、この牡丹。』
邸に着いて、庭を案内してやれば、彼女は嬉しげにそう言った。
「私・・・?そなたではなく?」
不思議そうに問えば、彼女はくすくすと笑う。


『口がお上手なのですね。姫たちが騒ぐのも分かる気がします。でも、牡丹は隊長の花ですよ。牡丹の花言葉は、王者の風格。別名は花神や百花王とも呼ばれるそうです。隊長にこそ、相応しいお花です。私では、牡丹の花に負けてしまいます。』


そうだろうか。
内心で首を傾げながらまじまじと牡丹の花を見つめる。
しかし、見れば見るほど彼女の方がこの牡丹に相応しい。
そもそも、花に例えられても素直に喜べまい。
私は、男なのだから。


「・・・解らぬ。」
そんな呟きが漏れて、彼女に笑われる。
『そんな複雑そうな顔をなさらなくても。』
「牡丹の花は、美人の象徴だろう。」
『隊長は美人ですよ。』


「美人とは、女性に使うものだろう。」
『そうですか?美しい人、と、書くのですから、男性に使っても良いと思いますが。』
「・・・解らぬ。」
『ふふ。美人の上が佳人、佳人の上が麗人というようですから、美人な男性が居てもいいとは思いませんか。』


「悪くはないが、私がそれに当てはまるとは思えぬ。」
『隊長ったら、謙虚ですねぇ。』
「事実だ。」
『それじゃあ、無自覚?それはまた、苦労しそうですねぇ。』
彼女はそう呟いて牡丹の花に見入る。
どういう意味だ、と、内心で首を傾げながらも、白哉もまた花を愛でることにした。


以降、朽木邸の庭の草木を眺めながら、二人で話をする姿が良く見かけられるようになったとか。
それを知るのは朽木家の者と庭の草木たちだけ。
彼らはそんな二人を気長に見守るのだった。



2016.04.10
咲夜さんとお話しをしたくなってしまう白哉さん。
もっとこの人と話したい、と思わせる人ってたまに居ますよね。


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