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■ 彼女の道

『・・・朽木隊長。書類の確認をお願いいたします。』
「あぁ。」
書類を差し出してきたのは、昨年入隊してきた漣咲夜。
平の隊士ではあるが、書類の処理はその辺の席官よりも上。
実践に於いては並みだが、その書類の処理能力の高さは白哉さえ認めている。


渡された書類に目を通せば、誤字脱字は一つもなく。
要点がまとめられた報告書は読みやすく理解しやすい。
まるで、何度も推敲を重ねたようである。


「・・・問題ない。あとは私が引き受けよう。」
『よろしくお願いいたします。』
彼女は安心したような顔をして、私に一礼した。


「それにしても良くできた書類だ。いつも思うが、そなたの論文を読んでいるようだな。」
書類を眺めながら呟けば、彼女は目を丸くした。
『私の、論文、ですか・・・?』


「・・・削り取られた魂魄を再構成した場合における魂魄の総量の変化。そなたは、己の身を使ってそれを研究し、論文を提出しただろう。」
『そんな、ことも、しましたが・・・。でも、あれは、それ以上、研究を続けてはならぬ、と・・・。私の魂魄の再構成の方法は、禁忌であると、言われて・・・。』


「私は、あの論文を読む機会があってな。驚くほどに詳細なデータと、画期的な魂魄再構成術。あの論文が認められなかったのは、その方法を表に出せば、境目がなくなるからだ。・・・崩玉のように。」
『崩玉・・・。』


彼女にどんな意図があろうと、崩玉のようなものが易々と生み出されてしまっては争いの種となる。
そして、それを生み出した彼女が、それをどう扱うか。
その資質を見極めろ、との命令があった。
十二番隊を希望していた彼女が六番隊に入隊させられたのはそのため。


当然のことながら、彼女はそのことを知らない。
私は、この一年、彼女を試し、観察し、彼女の為人を見極めてきた。
見れば見るほど、彼女は優秀であり、六番隊に置いておくには惜しい人材だった。
それ故、彼女が死神としての心を忘れぬよう、彼女を教育してきたのだった。
彼女を彼女のいるべき場所に送り込むことが出来るように。


「・・・そなたの論文を読んで、私は、一つ、考えたことがある。」
『考えたこと、ですか・・・?』
「あぁ。・・・もし、複数の魂魄が混ざった魂魄を、それぞれに切り離すことが出来たら。それが出来れば、お前の魂魄再構成術によって、削り取られた魂魄を元の魂魄の元へ返すことが出来るのではないか、と。」


『・・・例えば、崩玉に与えられた魂魄、とか・・・?』
「その通り。義魂ではなく、本人の魂魄を、元に戻すことが出来るはずだ。・・・簡単なことではないだろうが。」
彼女をちらりと見やれば、何かを考え込んでいるようだった。
それから私を見上げた瞳は、真っ直ぐで、覚悟を決めたようだった。


『朽木隊長。お願いがございます。』
「聞こう。」
『私を、十二番隊に、移隊、させては、いただけないでしょうか。』
力強い瞳に見上げられて、やはり、と、思う。


『・・・私が、六番隊に預けられたのは、私が、死神に相応しいか見るためだったのですね。私が危険分子ではないか、判断するためだったのですね。・・・ありがとうございます、朽木隊長。隊長は、全てを知った上で、私を預かり、死神として教育してくださいました。その上、私の道を指し示してくれた・・・。』


「礼などいらぬ。私はお前を試していたのだからな。」
『いえ。あのような事件があったのですから、私が警戒されるのは当然です。』
「・・・それでも、やってみたいか。」
『はい。』
即答した彼女に、内心苦笑する。


事務処理能力を考えれば、手放すのは惜しい。
だが、彼女のためを思うのならば、十二番隊に行かせるのが一番いい。
技術開発局に在籍していれば、存分に研究が出来るのだから。
涅マユリも彼女を受け入れることだろう。


「・・・解った。涅隊長には私から話を通しておく。」
『ありがとうございます。』
「期待しているぞ、漣。己の為すべきことを為せ。」
『はい、朽木隊長。精進します。六番隊で培った死神としての心得は、ずっと持ち続けると誓いましょう。』
「あぁ。」


一月後、彼女は十二番隊へと移隊していった。
その背中は、凛と背筋が伸ばされていて、彼女ならばやり遂げるだろうと内心で呟く。
そして、己も為すべきことを為そうと、白哉は自分も気を引き締めたのだった。



2016.04.09
優秀な人にも、様々な苦悩があるものです。
そんな時、見守ってくれる誰かがいてくれたら、とても心強い。
白哉さんは、そういう人をさり気なく見守っていそうです。


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