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■ 小動物

『・・・ぐ、ぬぬ・・・。』
資料室に足を踏み入れた白哉は、悔しげな声が聞こえてきたことに首を傾げる。
気配を辿って棚を回り込めば、そこには小さな人影があった。
その人物は、棚の一番上にある資料に手が届かず、難儀しているようだった。


道理で帰って来ぬわけだ・・・。
内心でため息を吐くが、本人は一生懸命書類に手を伸ばして、ぴょんぴょんと跳ねている。
その小さな彼女は、漣咲夜と言って、現在六番隊で最年少の人物である。
その小ささと、人懐っこい性格によって、隊士たちに可愛がられているのだった。


『・・・なんで、届かないの・・・!こんなに、背伸びしているのに!っていうか、棚が高いんだ!私が小さいわけじゃないもん!!』
そんな独り言を言いながら、なおも跳ねる。
いや、お前が小さいのだ、と、内心で呟くが、それを口にしないのは白哉の優しさである。


台を使えば届くだろうに、それをしないのは彼女のプライドがそれを許さないから。
彼女は妙なところで負けず嫌いを発するのだ。
白哉が彼女の代わりに棚から資料を取り出せば済むことなのだが、本人はこちらに気が付いていないようなので、見守ることにした。
もちろん、彼女のプライドを護るためであって、意地悪をしているわけではない。


『ふぬ・・・。と、届け・・・!!・・・もう!!あと、もうちょっとなのに!!』
全身を伸ばしても、彼女の背では届かない。
『待ってなさい、この棚め!届いて、やるんだから・・・!!あんたなんか私の敵じゃないんだから・・・!!』


足をぷるぷると震わせながら、彼女は目一杯背伸びをする。
『と、届け・・・!!』
彼女の手が漸く目的の資料の背表紙に届いた時、悲劇が起こる。
彼女が触れたその資料が、押されて奥へ引っ込んでしまったのだ。


『な、なんだとー!?・・・仕方がない。こうなっては、踏み台を使うしか・・・え?』
漸く諦めたらしい彼女が不意にこちらを向いて、目を丸くする。
『た、隊長!?い、今の、見て・・・!?』
「・・・あぁ。」
顔を赤くしながら気まずげに問われて笑いそうになりながらも、頷きを返す。


『・・・ひ、酷いです、隊長・・・。居るなら、居ると言ってください・・・。』
彼女は力が抜けたようにしゃがみこんで、先ほどとは打って変わって小さく丸まった。
いや、白哉からしてみれば、彼女が背伸びをしていようと小さいことには変わりないのだが。


「あまりにも一生懸命だったようなのでな。」
『そ、そうですけど、気配を隠して見ているなんて・・・。』
「いつものことだろう。」
『そ、それは、そうなんですけど!・・・あーもう、恥ずかしい・・・。』
顔を隠した彼女に内心で笑って、彼女の元へと歩み寄る。


「漣。」
名前を呼べば彼女は赤い顔のまま顔を上げた。
『はい・・・わぁ!?』
小さくなっていた彼女を抱え上げれば、目線が同じになった。


『た、たた隊長!?ち、近・・・い・・・です・・・。』
さらに赤くなって、何やら混乱しているらしい。
わたわたとした彼女に内心で笑う。
『な、何を・・・。』


「・・・届きそうか。」
『へ・・・?』
「その資料を取りたいのだろう。」
私の言葉に抱え上げられた理由を理解したらしい。
『そういうことですか!届きます!!』


彼女が軽く手を伸ばせば、やすやすと資料が取り出される。
その資料を胸で抱えて、彼女は嬉しそうに笑った。
『ありがとうございます、朽木隊長!』
「構わぬ。これ以上棚と戦われては困るからな。」


『あ、酷いです!暗に私が小さいとおっしゃっておられますね!?』
「小さいのは事実だ。いい加減認めろ。」
『そんなことはありません!!き、今日は、棚が高かったのです!私が小さいせいではありません!』


「そうか?ならば、踏み台を使うことだ。上から資料が落ちてきたら怪我をすることもある。棚が倒れてくるやもしれぬ。気をつけろ、漣。怪我などされては私も困る。」
『う・・・はい・・・。』
シュンとして頷く彼女は可愛らしい。


「解ったのならば、よい。・・・必要な資料が二、三ある。探すのを手伝ってくれるか?」
『はい・・・!!!隊長のために、頑張って探します!』
「高いところは私に任せろ。無理はするな。良いな?」
からかうように言えば、彼女は頬を膨らませた。


『同じ間違いを二度も犯したりしません!』
「そうか。」
『それから、早く降ろしてください!』
「私はこのままでも良いが?」
『私はよくありません!子ども扱いしないでください!』


予想通りの言葉が返ってきて、笑いそうになる。
笑いを堪えながら、彼女を降ろしてやった。
降ろした彼女を見れば、私が笑いを堪えていることに気が付いたのか、頬を膨らませて見上げてくる。


「・・・そんな顔をするな。子栗鼠のようだぞ。」
『子栗鼠!?』
「違うのか?」
『違います!私は、歴とした死神です!!』


ふ、と、笑みを零せば、彼女は目を丸くする。
「そんなことは知っている。」
そう言いながら資料の棚に視線を走らせる。
『それじゃあ、私は子栗鼠などではありません!』


「ただの比喩だ。本当に子栗鼠だと思っているはずはなかろう。・・・いいから資料を探せ。西流魂街十地区、東流魂街九地区、南流魂街十三地区、北流魂街十一地区の虚の記録が欲しい。」
『・・・解りました。すぐに探します。』


納得がいかないと言った様子の顔で資料を探し始めた彼女を見て、内心で笑う。
そして仕事に戻った。
数分後、資料を見つけた咲夜が白哉に助けを求めに来て、思わず笑った白哉の表情を見た彼女は、それ以降、白哉を見ると謎の動悸に襲われることになるのだった。



2016.04.08
六番隊のほのぼの日常。
白哉さんは、小さな子に弱い気がします。


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