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■ 幸せな朝

朝、目が覚めると感じる、重みと温もり。
目の前には乱れた夜着から覗く白い肌。
その肌に、漆黒の髪が流れている。
大きな体は私を包み込むようにして、穏やかな呼吸を繰り返す。


視線を上げれば整った顔。
安心しきったような寝顔が、少し幼く見える。
普段の彼からは想像が出来ないほど警戒が解かれていた。
その寝顔を堪能して、起きあがろうと体を捩じらせる。
起きあがろうとしても動かない体に、小さく笑みを零した。


『白哉様。朝ですよー。』
呟いてみるも、聞こえた様子はない。
『そろそろ起きないと、遅刻してしまいますよー。』
「・・・ん・・・。」
己の体を揺らしながら声を大きくすれば、彼の眉が顰められた。


『白哉さまー?起きましょ?・・・わ!』
彼の腕から抜け出ようとすれば、布団の中に引き戻される。
『もう、白哉様?起きていらっしゃいますね?』
「咲夜・・・。もう少し・・・。」
寝言のように言われて、思わず笑う。


『ふふ。白哉様ったら。毎朝寝坊助さんですねぇ。可愛いですけど、駄目ですよ。今日もお仕事です。白哉様が遅刻されては皆が困りましょう。だからね、白哉様。起きましょう?ほら、今日もいいお天気のようですよ。今日も一日晴れるといいですねぇ。・・・あら?また眠ろうとしていますね?困った方。白哉様。起きてくださいまし。』


「・・・もう少し。」
『駄目です。起きましょう?・・・あぁ、ほら。清家さんの霊圧が近づいて来ていますよ。』
そう言えば、重たげに瞳が開かれる。
『おはようございます、白哉様。』


「・・・。」
無言で見つめられて、首を傾げた。
『白哉様?清家さんがいらっしゃる前に起きなければ、お叱りが飛んできますよ?』
「・・・・・・そうだな。おはよう、咲夜。」
その言葉とともに、当然のように唇が額に降ってくる。


『ふふ。はい。』
それがくすぐったくて、身を捩れば、私を抱きしめる腕が緩められた。
頬に手が添えられて、するりと撫でられる。
その気持ちよさに目を細めれば、彼は小さく笑ったようだった。


「咲夜。」
名を呼ばれて、視線が絡み合う。
先ほどまでは眠そうな瞳だったのに、いつもの瞳になっていて、目が覚めたのだ、と、思う。
流れるように口付られて、小さく声を上げた。


するり。
声を上げた拍子に開いた唇から、舌が入り込んでくる。
『ん・・・。』
何かを確かめるようなゆったりとした口付けにうっとりとしてしまう。
夜のそれとは違う、穏やかな口付け。


『・・・はぁ・・・。』
暫くそうして満足したのか、唇が離される。
名残惜しくて無意識に彼の唇を追いかけた私に、彼は困ったように微笑んだ。
「起きねば、ならぬのだろう?」
『はい・・・。』


「では、起きよう。朝餉の時間がなくなる。」
悪戯に言われて、笑みが零れた。
『ふふ。そうですね。起きましょう。』
二人でくすくすと笑いながら、布団から起きあがる。


「・・・ごほん。お二方、そろそろよろしゅうございますか。」
襖の外から清家さんの声が聞こえてきて、驚きに白哉様を見る。
彼は解っていたようで、平然としていた。
「構わぬ。」
「では、失礼いたします。」
言葉と共に襖が開かれて、清家さんが入ってくる。


「おはようございます、白哉様。咲夜様。朝餉の準備が整っております。」
「そうか。」
「夫婦仲が良いのは喜ばしいことですが、少し、お急ぎになりますよう。」
柔らかく、でも、厳しく言われて、二人で顔を見合わせる。
互いに苦笑を漏らして、布団から抜け出した。


「ルキア様はすでに朝餉を終えておりますよ。お急ぎください。」
「解った。」
『あら、それは大変。お見送りに間に合わなくなってしまいますね。私も急いで身支度を整えてまいります。』
「あぁ。」


『・・・それでは、白哉様。行ってらっしゃいませ。お気をつけて。』
白哉様が朝餉を召し上がっておられる間に身支度を整えて、何とか見送りに間に合わせる。
「あぁ。行ってくる。」
『ルキアも、気を付けて。』
「はい。咲夜姉さま。・・・それでは、参りましょうか、兄様。」


「あぁ。・・・咲夜。」
名前を呼ばれて、首を傾げる。
『何でしょ、う・・・!?』
気が付けば彼の顔が目の前にあって、唇を塞がれていた。
ちゅ、と、ご丁寧に音を立てて唇が離れて行き、唖然としていれば、彼は満足そうな表情をした。


「行くぞ、ルキア。」
「え、あ、は、はい、兄様。」
ぽかんとしていたルキアを促して、白哉様は歩きはじめる。


『・・・不意打ちは狡うございますよ、白哉様。』
その背が見えなくなったころ、漸くそんな呟きが漏れた。
小さく唇を尖らせて、それから微笑んで目を瞑る。
今日も無事にお帰りになりますように。
小さく祈って、邸の中に戻った。


朝、目が覚めて、貴方が居る日は、一日中幸せ。
毎日とは言わないけれど、出来るだけ多く、そんな日があるといい。
出来るだけ長く、そうあることが出来たらいい。
毎日、そう願う。
それが私の、朝の日常。



2016.04.06
白哉さんは朝が弱そうな気がします。
趣味が夜の散歩ということなので、仕方ないのかもしれませんね。
咲夜さんに隙があると、つい口付けを落としたくなってしまう白哉さんでした。


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