Short
■ 美しき人

「・・・意外だな。」
その呟きが聞こえたのか、彼女はこちらを振り向き不思議そうに首を傾げた。
『何がだ?』
「その色を選ぶとは思わなかったのだ。」


『そうか?まぁ、確かに自分では選ばないが。似合っていないか?』
「想像以上に似合っていて驚いた。」
『それは良かった。」
正直に伝えれば、彼女は笑う。


彼女・・・もとい婚約者である漣咲夜が身に纏っているのは、薄紅色の着物である。
その着物姿は美しい。
いや、彼女は死覇装を着ていても美しいのだが、薄紅色の着物が普段以上に彼女を美しく見せている。


「何故その色を?」
『なんとなく、いつもと違う色を着てみようという気分になったんだ。他ならぬ君が選んだのだから、どれを着てもそれなりに見えるだろうと思って。他の着物は同じような色を着たことがあるからな。』


彼女の視線の先にあるのは若草色や浅黄色といったどちらかと言えば寒色系の着物である。
普段の彼女を見ていれば、爽やかで清々しい色が似合う。
しかしながら、呉服屋の並べた反物の中にあった薄紅色を見つけて、その色が彼女に似合う気がして、他の反物と併せて彼女に贈る着物を仕立てさせたのだった。


「・・・私の見立ては間違っていなかったようだな。お前がそれを選ぶかどうかは疑問だったが。」
『ふふん。私の新たな一面を見て落ち着かないか?』
揶揄うような彼女の瞳に苦笑を返す。


それもあるが、私が見立てたならばそれなりに見えるだろうという彼女からの妙な信頼のほうが落ち着かない。
長い付き合いだが、私の知らぬ彼女の姿はまだまだあるらしい。
この先もそんな彼女の一面を見せられて、己の心は落ち着かなくなるのだろう。


「次は、お前が私の着物を選んでくれ。私も新しい発見があるやもしれぬ。」
『それは楽しそうだ。白哉ほどではないかもしれないが、良い物を贈らせてもらおう。』
鼻歌でも歌いだしそうなほどご機嫌な彼女は、やはり美しい。
だが、見せびらかしに行くぞ、と無邪気に私の手を取るその姿が可愛らしくもあって。


「そう急ぐな。転ぶぞ。」
手を引く彼女に言えば、振り向いた彼女は悪戯に瞳を輝かせて。
『白哉なら、私が転ぶ前に簡単に支えてしまうだろう?』
そんな信頼もされていたのかと、思わず笑いが零れる。


『どうした?』
「いや。その通りだ。この私が、咲夜を転ばせはしない。」
『つまり私は、この手を握っている限り安全という訳だ。』
「そうだな。」


『勿論私も、白哉を転ばせる気などないから安心してくれ。これから先、君が転びそうになったり、一人で立てなくなったりしたら、この私が支えになる。安心して、存分に寄りかかってくれていい。そのために、私は白哉の隣に居るのだからな。』
「心強いことだ。」


握りしめた手は、己の手より随分と小さい。
しかしながらその体温に安堵し、その眩しい笑顔に眩暈がするほど。
やはり、彼女は美しい。
何度でもそう思わずにはいられない自分に、内心苦笑するのだった。



2022.04.23
咲夜さんにべた惚れな白哉さん。
この先もずっと、咲夜さんの一挙手一投足に翻弄されるのでしょう。
でもそれすらも幸せに感じてしまうのだろうなぁ。

[ prev / next ]
top
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -