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■ 隊長と副隊長B

『・・・あぁ、もう。海燕の馬鹿!なんで私があいつにあんな暴言を吐かれなければならないんだ。何でも分かっているみたいに、腹立たしい!あの腐れ縁!!』
雨乾堂を出た咲夜は、文句を並べながら書類を捌いていた。
その様子を隊士たちが遠巻きに見守っているが、彼女は気にしない。
『よし!終わった!今日はもう帰ろう!あの隊長を引きずって帰るぞ、私は・・・。今日こそ、朽木家に帰るのだ!』


「・・・ほう。よい心構えだな。」
後ろから突然声が聞こえてきて、咲夜は飛び上がる。
『な、びゃ、隊長!隊主会では!?』
「終わった。」
『それはお疲れ様でした!隊長はこの後暇ですよね?暇なら帰りましょう。』


「・・・私はまだ仕事がある。」
『そんなの知りません!隊主会の前に終わらせないのが悪い!隊長なら簡単に終わるでしょう、あのくらい!』
「・・・。」
無茶苦茶なことをいうな、という視線を送られるがそれも受け流す。


『だから、一緒に帰ります!・・・駄目、ですか・・・?』
だんだん勢いがなくなっていくのが自分でもわかる。
まだ、白哉の瞳を見るのは怖いのだ。
「・・・では手伝え。定刻までには終わらせる。それが終わったら、聞きたいことも言いたいことも腐るほどある。覚悟しておけ。」
『そんなの、こっちの台詞だ、馬鹿白哉!!!』


叫ぶように言えば、彼は目を丸くした。
ちらりと見えた隊士たちが顔を青褪めさせているのは気にするまい。
く、と小さく喉が鳴る音が聞こえる。
恐る恐る彼の瞳を見れば、その瞳は悪戯に輝いていた。


「普段の冷静さはどうした、咲夜。素が出ておるぞ。」
『五月蠅いなぁ!これでも、一杯一杯なんだ!こんな、風に、勢いでもつけないと、君は、私を見ないだろう!』
「違うな。お前が私を見ることが出来ないのだ。・・・何を泣いている。」


言われて掌で顔を覆う。
『な、泣いてなんか、ない。それに、目を合わせないのは、びゃくや、の方だ。』
「先に逸らしたのは、お前だ。」
『だって・・・だって、蒼純様に似ているんだもの!』
「私は父ではない。父は死んだ。お前を守って。」


指の隙間から見た白哉の表情は、少し寂しげだった。
『ごめん。君から父親を奪ったのは、私だ。ずっと、謝りたかった。』
「・・・貴様、阿呆か。」
心底呆れたように言われて、だけどその声に少しの怒りを感じて、また涙が零れる。


『ごめん、なさい。』
「何の謝罪だ、阿呆。」
『だって、白哉、寂しかったでしょ?蒼純様が居なくなって。』
「人並みにはな。だが、お前に謝られる筋合いはない。お前を守って死んだ父は、弱いから死んだのだ。戦いの中で弱きものはすぐに死んでゆく。それが自然の摂理だろう。」


『違う!蒼純様は強かった!私などよりずっと!』
「だが、死んだ。」
真っ直ぐに言われて、言葉を失う。
「それは父が弱かったからだ。お前を守り、己を守ることが出来るほど、強くはなかったからだ。だが、私は違う。私は、父よりも、祖父よりも強い。・・・畏れるな、咲夜。」


言葉の端々から、彼の強さがにじみ出てくるようだった。
その強さが、私の心に沁みていく。
「失うことばかりを考えるな。お前自身を捨てるなど、許さぬ。」
すう、と、呼吸が軽くなった。


『「命を捨てて振るう刃で護れるものなどないと知れ。」』
重なった声が、執務室に響く。
銀嶺様の、蒼純様の、教え。
そうだった。
私は、何故こんなに大切なことを忘れていたのだろう。


蒼純様が私を守ったのは、命を捨てたからではない。
命を繋ぐためだった。
私は、護られたのだ。
護られたのならば、私も、護れるようにならなければいけなかったのだ。
私は、護られるばかりで、護ろうとはしていなかったのだ。


『・・・ごめん。白哉。ありがとう。』
「解ったのならば、今後、朽木隊長と呼ぶな。」
『はは。何だそれは。』
「お前にそう呼ばれるのは気色悪い。お前の隊長は、爺様だけだろう。」


『そんなことはないさ。』
「嫌々副官を引き受けた奴に言われても説得力がない。」
『今は違うよ。今の私の隊長は、朽木白哉だ。』
言いながら、顔を隠していた手を外す。
それから真っ直ぐに彼を見つめた。
彼の前に片膝をついて、首を垂れる。


『この漣咲夜、心の底からの忠誠を誓いましょう。副官として、貴方と共に駆け抜けましょう。光となり、影となり、貴方に付き従いましょう。私の隊長は、朽木白哉ただ一人。貴方の手となり足となり、時には盾にも刃にもなって、貴方の背をお守りいたします。命を懸けて。』


「・・・もう一つ、誓え。」
『なんなりと。』
「命を捨てることは許さぬ。それが私のためであってもだ。」
『誓いましょう。何があろうと、命を捨てることはございません。』
「そうか。では、赦す。」


『有難き幸せ。・・・あーあ、白哉に頭を下げることになるとは、屈辱だ。』
「自分から下げたくせに何を言う。」
『自分から下げたから屈辱なのだ。あの生意気少年が無駄に成長したせいだ!』
「お前の成長が遅いのだ。」
『五月蠅い!そんなに生意気を言っていると、後ろから刺すからな。』


「出来るものならやってみろ。」
『・・・白哉だって、大概素が出ているじゃないか。』
「私はいいのだ。」
『じゃあ、ルキアにもその姿を見せればいいだろう、この不器用!』
「・・・それとこれとは話が別だ。」


『別じゃない!不器用!仏頂面!そのくせ浮竹隊長にあれこれ注文していることを知らぬ私ではない!』
「黙れ。」
『黙らない!うだうだしていると、海燕にばっかり懐くんだからな!白哉なんかに懐かないぞ!私もついでに懐かせてやる!』


「あれを犬猫のように言うな。」
『犬猫を拾うように拾ったくせに!拾うだけ拾って自分で世話をしないなんて最低だ!』
「喧しい。」
『お蔭で海燕から文句を言われた!でも、海燕はルキアを育ててくれるってさ!後でちゃんとお礼をしておくんだな!』


「・・・それは、解った。」
『あと、私を適当に扱うな、この生意気!』
「それは私の台詞だろう。私は隊長で、お前は副隊長だ。」
『隊長だからって私が従うと思うなよ。』
「嫌と言いながらも従うことになる。諦めろ。」
『横暴だ!』


「・・・五月蠅い。黙れ。静かにしろ。」
静かな瞳で言われて、思わず黙る。
それを見て、白哉の瞳が笑った。
「ほらな。」
勝ち誇ったように言われて、我に返る。


『ち、ちがう、ぞ!わ、私、は・・・。』
「忠犬も顔負けだな。」
『う、うるしゃい!』
し、しまった。
噛んだ。


「・・・まぁいい。とりあえず、他の話は邸に帰ってからだ。今噛んだことも追及するのはやめておく。これ以上お前の阿呆を晒すわけにもいくまい。来い、咲夜。」
『誰が阿呆だ!』
「自覚がないとは憐れなことだ。その辺も話し合いが必要だな。」
『ぐぬぬ・・・。』


「抗うな。朽木家に帰るのだろう。今日は、爺様もいる。」
『・・・・・・じゃあ、いく。』
「相変わらずの爺様好きだな。」
『五月蠅い!銀嶺様は、私を救ってくださったのだから、当然だ!・・・いいから行くぞ!さっさと仕事を終わらせて帰るのだ!』


足音荒く勝手に隊主室に入っていく彼女を見送って小さく笑う。
それから、いつもの顔に戻って、唖然とこちらを見ていた隊士たちを見回した。
「仕事に戻れ。」
それだけ言って隊主室に足を向ける。


その背を見送った隊士たちは、我に返ったように仕事を始めた。
実は仲良しなのだ、と、己の隊長副隊長の関係を気にしながら。
その後、二人の言い合いは日常の一部となる。
二人の息の合ったやり合い、それから連携に、隊士たちは尊敬の意を向けるのだった。



2016.03.28
結局誰夢・・・。
自分でもよく解りません。
咲夜さんは、周りから冷静にみられるだけで、実は冷静ではありません。
でも白哉さんの前では色々とダダ漏れになってしまうようです。
白哉さんを通して蒼純様を見ていた咲夜さんですが、次第に白哉さんを見るようになるのだと思います。


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