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■ 隊長と副隊長A

『朽木隊長、こちらの確認をお願いいたします。それから、午後は隊主会があるそうです。先ほど一番隊から連絡が入りました。定例会は明日の予定でしたが、急きょ、今日に変更になったとか。予定の調整はすでに終わっておりますので、ご心配なく。』
「そうか。」


彼が隊長となって、今日で、半年。
つまり、彼の副官となって、半年が経った。
彼が私を副官に指名した時、私は、小さく絶望した。
また、私は、死神を辞められなくなってしまった。
そう思って、でもそれを何となく予想していたような気がして、自嘲した。


「・・・咲夜。」
『なんでしょうか?』
彼を見れば、視線が交わる。
隊長と副官という立場になって、仕事中は視線が合うようになった。
だが、その瞳を見るたびに、己の罪を思い出す。


白哉は、蒼純様に似ている。
特にこの瞳が。
蒼純様はもっと感情のある瞳だったけれど。
あの方と似ている瞳なのに、その瞳には感情が見えなくて、あの方に無感情に見られているような気がして、息が詰まる。


「この書類を、浮竹のところに持って行け。」
ふい、と視線を逸らしながら、彼は書類を差し出してくる。
それを受け取って、一礼した。
『畏まりました。では、私はこれで失礼いたします。』


・・・助かった。
白哉と二人きりでいるのは、辛い。
彼の無言が、怖い。
無言で、罪を責められているようで、心が潰れそうになる。
『・・・はぁ。早く、辞めたい。』
心からの小さな呟きは、誰に聞かれることもなく消えていく。


『失礼いたします。六番隊漣咲夜です。浮竹隊長はご在室でしょうか。』
「入っていいぞ。」
中から朗らかな声が聞こえてきて、小さく力が抜ける。
少し安心して、中に入った。


「よく来たな。茶でも飲んで行け。おーい、海燕!」
「はいはい。お茶ですね。すぐに用意しますよ。」
浮竹隊長が名前を呼ぶと、外から呆れた声が帰ってきて、気配が遠ざかる。
普段は対等に、それでいて、信頼関係が窺がえる。
そんな二人が、羨ましい。


『今日は調子がよろしいようですね。・・・こちら、六番隊からの書類にございます。』
「あぁ、ありがとう。」
目の前の人はそういって嬉しげに書類を受け取る。
年上なのに子どものようで少し笑った。
『そのように嬉しそうに書類を受け取るのは、浮竹隊長くらいのものです。京楽隊長などは、書類を見ただけで嫌なお顔をされるのに。』


「ははは。京楽はそうだろうなぁ。まぁ、俺は、こうして元気に仕事が出来ることが稀だからな。」
『ふふ。だからと言って、無理はいけませんよ。』
「お前には言われたくないなぁ。白哉のところから逃げ出してきたんだろう?」
穏やかに見抜かれて、内心苦笑する。


『・・・敵いませんね。』
「お前が解りやすいんだよ。白哉のことで落ち込むとすぐにここに来る。」
『ここに書類を届けて来いと言ったのは朽木隊長ですよ。』
そう言えば、彼の表情が複雑なものになる。


「・・・白哉、とは、呼ばないのか。」
『何をおっしゃいますか。隊長を呼び捨てなど、恐れ多いことです。それに、今は仕事中ですし。』
「仕事以外でも、もう、白哉と呼ぶつもりはないのだろう。」
『・・・仕事以外で、顔を合わせることもありません。』


「お前が朽木家に帰らないからだろ。」
後ろから聞こえてきた声に、浮竹隊長は苦笑したようだった。
「・・・あ、隊長、お茶です。失礼します。」
「お前な・・・。順番が滅茶苦茶だろう・・・。」
「いいじゃないすか。俺と隊長の仲でしょう。面倒くさいことはなしにしましょうよ。」


海燕は勝手に入ってきて、お茶を用意すると、自分の湯飲みを持って、縁側に座る。
どうやら彼も休憩するようだった。
「・・・頼むから、他の隊長のところではそんなことするなよ。」
「解ってますって。・・・で、そっちの御嬢さんはまだなんか悩んでんだろ?」
『悩み、というよりは・・・。』


「じゃあ、死にたいだけか?」
すっぱりと言われて、言葉に詰まる。
「おい、海燕・・・。」
「今のその顔、蒼純様に見せられるのか?あの人は、お前を守って死んだ。その事実は変えられない。でも、それならそれで、お前は生かされたんだ。じゃあ、生きろよ。そんな顔してちゃ、蒼純様が命を懸けた意味がない。ただの無駄死にだ。」


『そんなこと、解ってる。』
「解ってんなら、そんな顔はしない。あの生意気な坊ちゃんから逃げてきたりもしない。大体、あの坊ちゃんもあの坊ちゃんなんだよ。わざわざお前に逃げ道作って、甘やかすからいけない。」
海燕はそういって茶を啜る。


「こらこら、海燕。言葉がきついぞ。」
浮竹隊長が窘めるように言うが、海燕は意に介さない。
素知らぬ顔で茶を啜っている。
海燕は、陽だまりのような温かさを持っているが、その実、厳しい人でもあるのだ。


「朽木のことだって、真実を話してあいつに受け止めさせた方がいいと思いますけどね。何の説明もなしに朽木家に迎え入れて、死神にして。席官にするなとか言ってんでしょ?それじゃ、最初から朽木家の邸の中で真綿に包むようにして大切にすればいい。朽木を捕まえておきながら、朽木と自分の逃げ道を作って、何がしたいんだか。」


「そういってやるなよ。白哉も白哉で何か考えがあるんだろう。彼奴は、そこまで考えなしじゃない。」
「じゃあ、こいつを副官にしたのも考えたうえでってことですか?それはそれで性格が悪い。こいつは死神を辞めたいのに、わざわざ副官にして逃げられなくしているんだから。だからこいつは今、ここに来てんでしょ?苦しくて死にたいって顔をしながら。」


『・・・違う。』
「何が違う?」
『朽木、隊長は、私の、せい、なんだ・・・。』
「お前が蒼純様をあの坊ちゃんから奪ったって?だから、ああなったっていうのか?」
『違う!白哉は全部が大切なだけだ!全部、全部大切だけど、白哉は、不器用で、こういう守り方しか出来ない。私も、ルキアも、白哉に守られているんだ!』


「・・・よく解ってんじゃねぇか。それが解ってんなら、あの坊ちゃんの傍に居ろよ。お前は、あいつの副官だろう。隊長が副官を守ってんなら、副官は隊長に命を懸けるんだ。背中合わせで、表裏一体で、影となり光となり、互いに互いを支えるんだよ。命を捨てようとしてんじゃねぇ。もう一度言うぞ。お前は、朽木白哉の副官だ。」


『解っている!私の隊長は、朽木白哉だ。海燕なんかに言われなくても私の隊長は白哉だ!私よりも副官歴が短いくせに偉そうなことを言うな!』
「俺より副官歴の長い奴がうじうじしてんなよ。」
『五月蠅い!海燕の馬鹿!』
「じゃあ、お前は阿呆だな。」
『何だと!?』


「こらこら、お前ら、喧嘩は駄目だぞ。」
『「喧嘩じゃありません!」』
「仲良しで結構。だが、雨乾堂が壊れるから暴れるなよ。」
「暴れませんよ。この腐れ縁と一緒にしないでください。」
『そうです!この腐れ縁と一緒にされるのは心外です!』


大きな声を出し始めた咲夜を見て、浮竹は小さく微笑む。
元気が出たか。
海燕は言葉はきついが、彼女を心配しているのだ。
どうすれば彼女が立ち直るかも、よく解っている。
容赦のない言葉を掛けるのも、彼なりの励ましなのだ。


「五月蠅い奴だな。いい加減、帰れよ。」
『もう帰るよ!私にだって仕事がある!』
「おー。帰れ、帰れ。情けない面なんか見せにくんな。」
『お前に会いに来たわけじゃない!浮竹隊長に書類を届けに来たんだ!・・・もう帰ります!お邪魔しました!』


「・・・ばーか。いい加減気付けってんだ。お前ら二人して他人に迷惑かけてんだぞ。」
足音荒く帰って行った咲夜に、海燕は小さく呟く。
「引き受けるのか、海燕。」
そう問えば、海燕は目だけで笑う。


「まぁ、仕方ないですね。今、あの坊ちゃんを支えてやれるのは、彼奴だけです。それで、あいつを支えられるのは、あの坊ちゃんだけですからね。だから俺は、朽木が潰れないようにしておきます。いつか、朽木も、あの坊ちゃんの不器用さが解る日が来るはずですから。」


「はは。お前は苦労性だなぁ、海燕。」
「面倒事を頼まれる隊長には言われたくないっすね。」
「まぁ、な。だが、白哉が頼みごとをしてくるなんて珍しいからな。」
「珍しいからって面倒事を引き受けんでくださいよ・・・。俺の仕事が増えるんですからね・・・。」


疲れたようにいう海燕に浮竹は笑う。
なんだかんだで付き合ってくれる頼もしい副官なのだ。
だからこそ、俺の副官を任せることが出来る。
そう思って、彼らもそんな関係を築くことが出来たらいいと願うのだった。



2016.03.28
またもや誰夢・・・。
Bに続きます。


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