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■ 反発 前編

『・・・君、今日は任務に出ないほうがいいぞ。』
朝から姿を見せたかと思えば、すれ違いざまにそれだけ呟いて去って行った咲夜に首を傾げたのが数刻前。
浮竹は斬魄刀を握りしめながら、早くもその忠告を聞かなかったことを後悔していた。


目の前には数体の虚。
指導担当の先輩は早々に虚を押し付けて、背後で高みの見物を決め込んでいる。
普段ならば問題なく相手が出来るだろうが、己の身体は重い。
そのうえ、虚が巻き上げた砂埃を吸い込んでしまったせいか、呼吸器の調子は悪くなる一方で。


このままでは発作が起こってしまうか・・・。
浮竹とて、長年肺の病と付き合っている故、この後自分の身体がどうなるかの予想は出来る。
それでは拙いと、斬魄刀を解放して早く片付けてしまおうとしたのだが。


『・・・そこで大人しくしていろ、十四郎。』
そんな言葉と共に姿を現した咲夜の姿に驚いていれば、あっという間に彼女の斬魄刀が閃いて、虚を始末してしまった。
始解もせずにあっさりと。


やはり、咲夜は本気を出せば俺などよりもずっと能力が高いのではないか。
院生時代から感じていた疑念は、今や確信に近い。
元柳斎先生や卯ノ花隊長は、それを知っているのだろう。
だからこそ、ただの四番隊士にしておくには勿体ないと、彼女を十三番隊に送り込んできたのではないか。


「咲夜・・・何故ここに・・・?」
掠れ始めた声で問えば、涼しい顔をした彼女が近づいてきて。
『君が任務に出かけたと聞いて、慌てて追いかけてきたのだよ。・・・まったく、私は今日は止めておけと、言ったはずだがな。当然、君の指導担当者にも四番隊士としてそのように話を通しておいたんだが。』


「多少調子が悪いとしても、この程度の任務が熟せないようでは死神として役に立たないだろう?」
珍しくも怒りを見せる彼女に背後から嘲るような声が届く。
当初から解っていたことだが、己の指導担当者はこちらを良く思っていないのだ。


『ならば、席官である貴方の調子が悪いとしても、新人隊士の、それも四番隊に属するような私などには、負けないということだな?』
「咲夜・・・敬語くらいは、使ってくれ・・・。」
『君は大人しくこれでも口に入れていろ。』


黙れとばかりに口の中に放り込まれたのは、彼女特製の喉飴である。
口の中に広がるのは、苦み半分、甘み半分。
美味いかどうかと聞かれれば何とも言えないが、発作が起こる前であれば呼吸器の機能を整えてくれる代物である。


「新人隊士が席官である僕にそんな口をきいて、ただで済むと思っているのかい?」
ひやりとした指導担当者の口調に、彼女は皮肉げな笑みを浮かべた。
『実力主義のこの護廷十三隊で、実力のない者がいつまでも席官で居られると思っているのが間違いだな。そのうえ、性格に難ありときている。』


「解りやすい挑発だな。だが、君は僕にその斬魄刀を向けることなど出来ない。もちろん僕も君にそうすることは出来ない。隊士の私闘は禁じられているからね。」
『つまり、私と戦うのが怖いということか。力の底が知れるな、席官殿。』
下がっていく体感温度に、浮竹はその身を震わせる。


「君のほうこそ、同期だからと言って、彼に目を配りすぎなのでは?皆が噂しているよ。君たちは特別な関係なのだとね。」
『特別ねぇ?まぁ、間違いではないな。十四郎と私は、幼馴染だからな。』
「まさか、それだけが理由ではないだろう?総隊長の可愛い教え子だからこそ、彼と京楽春水は特別扱いを受けている。」


『そう思いたいのならばそう思っていても構わないが、私は己の任務を熟しているだけだ。私は四番隊の隊士なのだから、身体の弱い隊士が居ればその者が死神の職務を果たせるように体調管理を行うのは当然のことだろう。体調が悪ければ任務に行くことを止めるのは、他の隊士の安全を守るためでもあるしな。』


「・・・それが、特別扱いだというのだ。何故彼のような男が死神となることが出来たのか、僕には疑問だね。確かに彼の斬拳走鬼は他の隊士と遜色ないが、真に他の隊士の安全を考えているのならば、身体が弱いという時点で、死神となる資格がないと判断するべきだ。」



2020.12.05
後編に続きます。


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