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■ 従順

「・・・お前は・・・何故ここに居るんだ・・・?」
心底不思議そうに首を傾げた目の前の白い男に苦笑を返す。
霊術院を卒業し、目の前の男は十三番隊、彼の親友は八番隊、そして私は四番隊に配属され、晴れて死神となったわけなのだが。


『私も四番隊で仕事をするものだと思っていたのだけれどね・・・。』
入隊式を終えた新人隊士たちは隊長副隊長に呼び出された。
挨拶もそこそこに告げられたのは、各々の持ち場で。
もちろん他の新人たちは救護詰所に行くことになったのだが、何故か私だけ十三番隊に派遣されることになっていたのだった。


十四郎と同じ隊を希望していたが、当然のように違う隊に配属されてどうしたものかと悩んでいたことは確かだが・・・。
それにしたって、強引すぎる気がする。
あの爺さんと卯ノ花烈が共謀したのは明白だが、何やら都合よくこき使われる気がしてならない。


「お前、四番隊で早々に何かしでかしたわけではないよな・・・?」
疑わしい視線を向けてくる十四郎をじろりと睨みつける。
『・・・君は私を誰だと思っているんだ?』
冷やりとした声を出せば、白い男は慌てて謝ってきて、それから考え事をするように腕を組んだ。


「それじゃあ、何故お前は此処に居るんだ・・・?」
『十三番隊の隊士の健康管理と隊舎の衛生管理をしろということらしい。卯ノ花隊長が、漣さんならば問題なく熟すことが出来るでしょう、と軽く言ってくれた。一体、何人の隊士が居ると思っているのやら・・・。』


「なるほどな。お前に関して、元柳斎先生から何か話がなされたのかもしれないな。成績だけを見れば俺や京楽より下だが、お前の全力を見たことはないからな。」
『まさか。私は何時だって全力だよ?特に君たちが相手の時は。』
「そうだな。だが、試験の時の相手は俺たちではないからな。」


・・・全く、この妙な鋭さは一体どこで身に付けたのやら。
ただ優しく穏やかな善人という訳ではないからこの男は厄介なのだ。
幼い頃から彼を観察している身としては、十分な伸び代があることに頭を抱えたくなるような、それに安心するような、何とも言えない気分になる。


『目立つのが嫌いなだけさ。まぁ、君たち二人と一緒に居ると、目立つことは避けられなかったが。』
「ははは。俺たちは元柳斎先生の弟子だからなぁ。」
朗らかに笑う男は、それ以外の理由で注目されることについては無自覚らしい。


『君が居る十三番隊だっただけ良しとしよう。君も私が相手なら気兼ねなく治療を頼めるだろう?』
「あぁ。お前が傍に居るなら凄く助かる。京楽には文句を言われそうだが。」
『文句を言う権利があるのはこちらのほうだろう。散々迷惑を掛けられたのだから。』


「それもそうだな。何度彼奴を教室まで引き摺って行ったことやら・・・。」
果たして、あのサボり常習犯が死神の下っ端である新人隊士としてどれほど働くのか。
下っ端として働く姿は想像できないが、あの男ならば要領良くやってしまうのだろうということが易々と想像できて、それがまた腹立たしい。


『君の所に苦情が来ないことを祈っておこう。』
「ははは・・・。俺もそう祈っておく。もし苦情が来たらお前にも協力してもらうからな。」
『苦情の内容によっては手伝ってあげるさ。』


「お前も何かあればすぐに言えよ?」
急に真面目な顔になった十四郎はそんなことを言う。
『私の心配までしているのか、君は。ご苦労なことだな。』
苦笑を漏らすが、十四郎は真面目な顔のままで。


「四番隊士は他の隊では下に見られることが多いと聞く。お前ならば大丈夫だろうが、用心はしておけよ。」
『・・・まぁ、それは、大丈夫だと思うぞ。』
その辺の隊士に負けることなどないし、例え隊長格が相手であっても、身を守る術などいくらでもあるのだから。


「お前なぁ、自分が女だということを忘れるなよ?」
『ほう?では君は私を異性として見ているといわけか。』
「そういう話をしてるんじゃないぞ、俺は。真面目に聞け。」
窘めるように額を小突かれて、やはり苦笑を漏らす。


『私は、君のその距離感のほうが心配なのだけれどねぇ・・・。』
実力と容姿は勿論、誰にでも優しく温厚なのだ、十四郎は。
その上、少しでも気を許すと易々と距離を縮めてくる。
その距離感が少し近いのは、私の気のせいではあるまい。


「何を言っているんだ、お前は。」
怪訝な表情になった十四郎に笑って、くるりと踵を返す。
『ま、用心するさ。君も気を付けることだよ。いや、まぁ、君の場合は相手が問題だが。』


「おい、咲夜!どういう意味だ!後でちゃんと説明しろよ!」
ひらり、と後ろ手を振って地面を蹴ればそんな声が飛んできたが、追いかけてくる気配はない。
やはり十四郎も気付いていたか・・・。
ちらりと振り返ってみると、先輩に呼ばれたらしい十四郎は慌てた振りをしてそちらに向かっていく。


此処は、霊術院とは違うのだ。
好き勝手に行動するには縛りが多い。
そして、全ての死神が新人を可愛がってくれるとも限らない。
ましてや、自分たちの話に聞き耳を立てている者すらある。


『どうやら、十四郎の指導担当者はあれに良い感情を持っていないようだな。』
先ほど十四郎を呼んだ者が気配を隠して近づいてきたのは少し前のこと。
きっと私たちの話は殆ど聞こえなかっただろう。
だが、十四郎が私を追いかけてきてしまえば、サボりと取られかねない。


『全く、あれの守護者をやるのは、肩が凝る・・・。』
病弱だというのに山本元柳斎に目を掛けられ、親友は京楽家の次男坊。
人望も厚く、容姿も悪くない。
けれど、彼は下級貴族の出身で、その立場は微妙なところにあるのだ。


まぁそれは、私も同じだな・・・。
霊術院では十四郎と京楽に関わることとなり、護廷隊に入隊したと思ったら早々に他隊に派遣されているのだ。
そのうえ成り上がりの一族で、貴族からの評価は低い。


『こちらでの立場だけで考えれば、私のほうが面倒ではあるか・・・。』
呟きを零して、己の仕事を遂行するために隊舎へと足を踏み入れる。
衛生状態を確認していれば、通りがかりの死神に雑用を押し付けられ、内心でため息を吐く。
これからの忙しい日々を想像しつつ、従順な振りをして雑務を熟すことにしたのだった。



2020.08.06
漸く護廷十三隊に入隊した咲夜さん、浮竹さん、京楽さん。
色々な困難が待ち受けていそうですね・・・。
まだ続くと思われます。


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