Short
■ 無意識的意識O

『隊長・・・?』
驚いた様子で見上げてくる彼女に、どきりとする。
手のひらに感じる温もりは、彼女のもの。
不意に伸びてきた手を掴んだのは、殆ど無意識だった。


「好きだ・・・。」
息をするように自然と出てきた言葉に、自分で驚いた。
驚いて、思わず彼女の手を離してしまう。
離したその手はおずおずと引っ込められていき、彼女の胸の前に収まった。


『・・・え・・・?』
彼女の口から吐息のような微かな声が聞こえてきて、その顔を見る。
見て、すぐに目を逸らした。
驚きに目を見開いてはいるが、その顔が真っ赤に染まっていたから。


「その、今のは・・・。」
何か言い繕おうとしたが、その先の言葉が出てこない。
自然と出てしまった言葉を、否定することは出来なかった。
先日気付いたばかりの己の気持ちを偽ることもしたくはなかった。


「・・・済まぬ。」
『な、何故、謝るのですか・・・?』
「今のは、私の、本心だ。だが、婚約の話と絡んでいる以上、伝えるつもりは、なかったのだ。これ以上そなたを悩ませるのは、気が引けた故・・・。」


格好のつかないことだ・・・。
この動揺が彼女に伝わっていなければいいのだが。
ちらりと彼女の顔を窺うが、依然、彼女の顔は赤いままだ。
何か言葉を発しようとしているのか、その唇が微かに動いている。


「先に断っておくが、此度の婚約話については、全て家臣が進めようとしていることだ。故に、私は手を出してはいない。だが・・・それが決して、私に都合の悪いことではないことも事実なのだ。だからこそ、そなたに選択して欲しいのだ。私が動けばそなたと婚約することなど造作もないが、そのようなことをしたくはない。」


『・・・な、なぜ、私なのですか?』
漸く言葉を発した彼女の問いに、思わず苦笑を漏らす。
「解らぬ。そなたへの好意に気付いたのは最近だが、そなたが入隊してきたときには、既に意識はしていたように思う。だからこそ、そなたには近づかなかったのだ。」


近づけば、彼女が朽木家に巻き込まれてしまうだろうから。
私に彼女への気持ちがあると知れば、家臣たちは漣家の抵抗を許すことなく話を纏めてしまっただろう。
もっとも、現在の状況がそうではないと言えないのだが。


「・・・私も未熟者だな。自覚すらしていなかったというのに、そなたの父君には私の気持ちが知られていた。」
『では、父は・・・。』
彼女の言わんとすることを察して、首を横に振る。


「先日の言葉の通り、選択をするのはそなただと。父君から見合い話など持ち掛けられたことなどない。この話を断ってもいいというのも本心だろう。」
『そう、なのですか・・・。では、父は本当に私に選択を任せるつもりなのですね・・・。』


「あぁ。私も同じだ。そなたが嫌だというのならばこの見合い話を潰すが、私が自らこの話を潰すことはない。・・・そなたからしてみれば狡いことだろうな。丸投げをしているのと同義なのだから。」
本当にその通りだと、白哉は内心で自嘲する。


『・・・本当に、狡い・・・。私は貴方の遠い背中しか知らなかった。入隊前のあの時の距離の近さなど、言葉を直接交わしたことなど、幻のようで。入隊してからは、貴方の遠い背中ばかり眺めていた・・・。どんなに努力を重ねても、貴方に手が届くことなどないのだと解っていながら、それでもその背に手を伸ばすことを諦められなかった・・・。』


彼女の言葉には一体どういう意味が含まれているのだろう。
何か都合のいい解釈をしてしまいそうな自分に内心苦笑する。
その瞬間、彼女の瞳から涙が零れ落ちて。
頬を伝ったその雫が、ぱた、と彼女の着物の上に落ちた。


「漣・・・?」
『遠くて、遠くて、でもその背中を見失いたくなくて。私はそれを、朽木隊長への尊敬の情だとばかり・・・。』
呟かれた彼女の言葉とその表情に、妙な期待を抱いてしまう。


『でも、今、気付きました・・・。私も、同じだった・・・。今思えば、私は、自分が傷つかないように、噂は噂だと言い聞かせて、貴方への思慕を尊敬の情にすり替えていたのでしょう。でも、駄目ですね・・・。朽木隊長と関わりを持ってしまったら、もう偽れません。貴方の傍は、初めて会った時から心地よかった。私はきっと、貴方に一目惚れをしたのです。』


泣き笑いの表情。
その瞳は、確かに私を捉えていて。
その想いも、確かに私に向けられている。
自然と伸びた手で彼女の頬の涙を拭う。


「・・・好きだ。」
再び想いを告げれば彼女は花が咲いたように微笑みを見せた。
『私もです。ですから、今回のお話を断る理由がございません。これが私の選択です。』
はっきりと伝えられた言葉に、心が喜びに震えて。


「そなたと関わるようになったのは数日前からのはずだというのに、酷く遠回りをした気分だ・・・。」
苦笑しながら言えば、彼女もまた笑って。
お互い様ですね、と恥ずかしげな彼女に、再び想いを告げることになるのだった。



2020.03.26
久しぶりの白哉さん夢、漸く完結です。
短編とは・・・。
もやもや、ぐるぐるとしている白哉さんを書きたかったんです・・・。
お陰で長くなってしまいました。
後日譚も有るような無いような。
期待せずにお待ちいただければ幸いです。


[ prev / next ]
top
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -