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■ 無意識的意識N

あと二日で退院か・・・。
病室への廊下を歩きながら、咲夜は内心で呟く。
ずっと寝ていては身体が鈍ってしまうと四番隊の隊士へ訴えれば散歩の許可が下りたので、気分転換も兼ねて四番隊舎内の中庭に行ってきたのだった。


けれど、すれ違う隊士からは妙な視線を送られ、ひそひそと何かを囁く様子が見て取れた。
それとなく聞き耳を立てれば、やはりと言うべきか、朽木隊長との縁談の噂話である。
他隊との接触が多い四番隊に噂が広まっているとなると、護廷十三隊全てに噂が行き渡っていると思っていたほうが良いだろう。


復帰後のことを考えて気が重くなりながら病室の前までやってくると、何者かの気配がその中にあった。
誰か来ているのかしら・・・。
そう思ってそっと病室を覗けば、見えたのは己の隊長の後ろ姿で。


何だか、急に距離が近くなった気分だわ・・・。
いつも見ていた後ろ姿は、遠い屋根の上にあった。
それが自分と朽木隊長の距離なのだと思っていたから、この距離感で隊長の後ろ姿を見ているということが不思議だ。


「・・・いつまでそうしているのだ?」
隊長の後ろ姿を眺めていたら、そんな声が聞こえてきてどきりとする。
ゆっくりとこちらを振り向いた朽木隊長と目が合って、おずおずと病室に足を踏み入れた。


『お疲れ様です、朽木隊長・・・。』
とりあえず挨拶をすれば、あぁ、と短い返事が返ってきた。
私から視線を外した隊長は、窓枠に凭れかかるようにして外を眺める。
それをぼんやりと見つめていれば、座れと命じられた。


『あの、本日は、何故、お越しに・・・?』
暫くの沈黙の後に恐る恐る問えば、隊長は漸く此方に視線を戻す。
「・・・そなたに話がある。」
ひたと向けられた視線に、心臓が跳ね上がった。


「そう硬くなるな。そなたの答えの催促に来たわけではない。」
『そう、でしたか・・・。では一体、どのようなご用件で?復帰後の話ならば、昨日阿散井副隊長が来られて、書庫の整理を頼むかもしれない、と・・・。』
「それについては私も了承済みだ。一月は事務仕事に回ってもらう。」


『畏まりました。』
復帰後の話はついでだろう。
となれば、やはり、今後の身の振り方というか、婚約の話なのでは・・・?
ただ雑談に来ることが出来るほど、隊長は暇ではないはずだ。


「話というのは、噂のことだ。知っているやもしれぬが、噂が広まっている。その真偽を確かめるために、わざわざ六番隊に押しかけてくる輩まで居るらしい。」
『それはまた・・・随分と大事に・・・。』
他の隊士にも迷惑が掛かっていることが想像に易くて、やはり気分が重くなる。


「それ故、復帰する前にお互いがどう動くかを話し合っておかねばなるまい。二人とも雲隠れする、という手もなくはないが。」
『朽木隊長が雲隠れするというのは、現実的ではないのでは・・・。』
隊長が居なくては、六番隊の業務が滞ってしまう。


「朽木家で仕事をすればいい話だ。恋次にでも仕事を運ばせれば良い。」
『そして私は書庫に籠っていれば良いという訳ですね・・・。』
「あぁ。自宅で療養するという名目で休暇を取っても良いが。」
『流石にそれは遠慮いたします。他の隊士にこれ以上迷惑を掛けるわけには参りません。』


「ならばそなたのほうは決まりだな。最初に言ったとおり、書庫の整理を頼もう。では、私はどうするべきか・・・。」
眉根を寄せながら、顎に手を当てて考えるその姿に、何だか笑いが込み上げてくる。
朽木隊長も、このように悩むことがあるのだわ・・・。


「・・・何を笑っている?」
不思議そうなその表情もまた、一隊士では中々見ることのできないものだろう。
『いえ、その・・・悩むお姿が、珍しくて・・・。』
「私とて、頭を悩ませることくらいある。」


少し拗ねたように視線を逸らすその姿もまた貴重で。
遠くから見る姿と、近くで見る姿は、やはり違う。
入隊してからずっと遠いところにあった姿が、こんなにも近くにあるなんて。
今なら、手を伸ばせば届きそう・・・。


「漣・・・?」
手を伸ばしたのは無意識。
朽木隊長の不思議そうな声にはっとして慌てて手を引っ込めようとした。
けれど、その手を引っ込める前に手首を掴まれて、驚きに目を丸くする。



2020.03.26
Oに続きます。


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