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■ 無意識的意識M

『・・・少し、考えさせてください。』
病室から出ていく父を見送った彼女は、そう言って私を見上げてきた。
そんな彼女に頷きを返して自らもまた病室を出たのはすでに五日前のこと。
回復は順調という卯ノ花隊長からの報告があったが、あれから病室を訪ねてはいない。


漣と話し合う時間を作らねばなるまいな・・・。
何時ものように屋根の上に立ち、白哉は思案する。
未だ答えが出ていないにしても彼女がどのように考えているのか知っておいたほうが良いだろう。
だが、それを聞きたいような、聞きたくないような。


もし彼女の口から否定的な言葉が出てきたら。
そう考えると、気分が重くなる。
何故気分が重くなるのかと問われれば、答えはひとつだった。
思えば、私は、彼女の存在ばかりを気にしていた・・・。


それはきっと、己の縁談相手として彼女の名前が挙がった時から。
だからこそ、六番隊に所属する彼女との接点を一切持たなかった。
彼女と関わってしまえば惹かれるような予感があったのやもしれぬ。
他の候補者は同じ場に居てもそこまで気にならなかったが、彼女だけは違ったのだ。


だから避けていたというのに、結局関わってしまった・・・。
一度目は浅井家の次期当主のせいで。
二度目に関しては緊急事態だったとはいえ、殆ど自ら率先して関わってしまった。
今思えば、私が自ら彼女を四番隊へ連れていく理由はそうはなかったはずだ。


・・・しかし私は、自ら彼女の霊圧を回復し、抱きかかえて連れて帰った。
そうした己の手のひらを眺めて、不思議な気分になる。
私はあの時、彼女に自分の霊圧を注ぎ込んだ。
消耗しきっている霊圧を回復するために必要な処置であったのは間違いないはずだ。


その霊圧を余すことなく受け入れて、彼女は私の腕の中で吸い込まれるように眠ってしまった。
受け入れられた己の霊圧はそのまま彼女の身体と馴染み、彼女自身の霊圧にゆっくりと溶け込んでいるらしい。


私の霊圧を感じれば大抵の者がその身を硬くする。
だが、あの時彼女から伝わって来たのは安堵だった。
入隊してからは私が彼女を避けていた故、ほぼ接点がなかったというのに。
それでも彼女は、私と恋次の到着を信じて戦い、私の腕の中で安堵した。


「・・・都合よく考えすぎか・・・。」
思わず出た呟きに苦笑を漏らす。
仮にそうだとしても、彼女は隊長である私を信じただけのこと。
どの隊士も何らかの形で隊長たちに信頼を寄せているのだ。


それもそのはずだ。
時として、隊士たちは己の命運を隊長に握られる。
そう易々と己の命を他人に預けることなど出来まい。
少なくとも、それだけの信頼は彼女から寄せられているということが解っただけでも良しとするべきか・・・。


「・・・また此処に居たんすね、朽木隊長。」
「恋次。何用だ。」
「ここ数日、漣との噂話の真偽について、六番隊への問い合わせが絶えないもので。隊士たちが困っているみたいなんですよねぇ・・・。」


「朽木家の者たちが故意に噂を流しているからな。」
「それは・・・朽木隊長の指示なんすか?」
「そのように見えるか?」
「いや、一応聞いただけです・・・。」


「その件については、これから漣と話し合う予定だ。」
もっともこれは私が勝手に決めた予定だが。
とはいえ、漣が退院する前に一度話し合っておいたほうが良いだろう。
今日であれば急ぎの仕事もない。


「それならいいんすけど。昨日会った感じでは、傷は癒えているみたいっすね。魂魄の回復にはまだ時間が必要みたいですけど、散歩の許可が下りたって喜んでいました。」
「らしいな。だが卯ノ花隊長からは、一月は任務に出さないように、と。」
「それじゃあその間、漣借りてもいいっすか?書庫の整理をしなきゃなんすけど。」


「そのほうがあれも落ち着いて仕事が出来るだろうな・・・。」
「そっすね。隊舎に押しかけてくる貴族も居るみたいっすから。書庫のことなら俺よりも隊士たちのほうが詳しいくらいですし。」
恋次の言葉に頷きを返して、空を見上げる。


「・・・恋次。私はこれから不在にする。任せたぞ。」
「漣のところっすよね。こっちは落ち着いてるんで、大丈夫です。何かあれば連絡します。」
「あぁ。頼む。」


「さて、仕事に戻るか・・・ん?」
去って行った己の上官を見送って、踵を返そうと振り向いた恋次はあることに気付く。
「ここから漣が稽古で使ってる場所が見えるんだな・・・。」
何か考え事がある時にこの場所に来ているのだろうと思っていたが、どうやら理由はそれだけではないらしい。


「ったく、隊長もまだるっこしいというか、なんというか・・・。」
朽木家当主ともなれば様々な利害が絡んでくるとはいえ、遠回しすぎやしないだろうか。
「つか、これって、向こうからも見えてるんじゃ・・・?」
行って確認しようかと野暮なことを考えて、恋次は首を横に振る。


お互い様ってやつなのかもな。
二人が揃っている場面など先日のあれが初めてだった気がするが、二人の噂を聞いた時から何となくしっくりくる二人だと思ったのだ。
他の者も同じくそう思ったからこそ、これ程噂が広まっているのかもしれない。


「・・・お前の義姉さんは、意外と早く決まりそうだな、ルキア・・・。」
呟きを零して、恋次は屋根を蹴る。
後であの場所の秘密をルキアに教えてやろう、なんて。
そんなことを思いながら。



2020.03.26
Nに続きます。


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