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■ 無意識的意識L

『く、朽木隊長・・・っい、たた・・・。』
慌てて起き上がろうとしたが身体に痛みが奔ってそのままベッドに逆戻りしてしまう。
そんな私に苦笑を漏らした父と、静かな視線を向けてくる朽木隊長。
父にちらりと恨めしげな視線を向けてから、今度はゆっくりと起き上がろうと力を入れた。


「そのままで良い。」
いつの間にか側に来ていた朽木隊長に制されて父を見やれば、頷きが返ってくる。
『・・・では、お言葉に甘えさせていただきます。このような姿で申し訳ありません。』
「構わぬ。そなたが思う以上に強く身体を打ち付けているらしい。安静にしていろ。」


「朽木様には、何とお礼を申し上げればよいか・・・。我が娘を助けて頂いたこと、本当に感謝いたします。」
「構わぬと言っているだろう。」
再度頭を下げた父に、朽木隊長は少しだけ呆れた様子である。


「ですが・・・。」
「そなたの娘が助かったのは、そなたのお陰であろう。何も伝えられていなければ、この程度では済まなかったはずだ。まさか昨日の今日でこれを使うことになるとは思っていなかったが。」


『昨日・・・ということは、茶会の時に父から話を・・・?』
「そうだな。」
『父上・・・。』
何故話したのだと父に視線を向ければ、父はまたもや苦笑する。


「私が娘の心配をしない父親だとでも思っているのかい。」
『・・・父上にご心配をお掛けしているのは重々承知しております。でも、だからといって、勝手に伝えるなんて・・・。そのうえ、茶会の席のような、誰が聞き耳を立てているとも言えない場所で話をするとは・・・。』


「それは悪かった。そのせいで浅井家の次期当主に知られてしまったことも解っている。その矛先が朽木様に向けられたことも。」
「それについてはそなたの娘が上手く立ち回ってくれたがな。」
「そのようですね。娘に尻拭いをさせてしまいました。」


少しだけ揶揄うような朽木隊長の口調と、やはり苦笑を漏らす父。
一体、いつからこんなにも打ち解けているのやら。
上流貴族のまとめ役である父が四大貴族との関わりを持っていることに疑問はないが、軽口を叩けるほどの仲だったとは。


「それはそれとして、だね・・・実は、困ったことになっている。」
『困ったこと、ですか?』
「それが・・・。」
言い淀んだ父は、何故か朽木隊長に視線を向ける。


「・・・私はまだ何も命じていないぞ。」
父からの視線を逸らした朽木隊長もまた、何処か気まずげな様子で。
「まだ、ですか。ではいずれは命じる予定だったのですか。」
「・・・そこに他意はない。深読みしすぎるな。」


「まさか、未だに無自覚という訳ではありませんよね・・・?」
「・・・。」
父の問いに黙り込んだ朽木隊長は、何故かちらりと私を見て、すぐに目を逸らした。
それに首を傾げていれば、父が口を開く。


「咲夜。こんな場所でこんな話をするのはどうかと思うのだけれど、すぐに噂となるだろうから先に伝えておくよ。」
『何でしょう?』
「お前に見合い話が来ている。」


『お見合い、ですか・・・?』
「もともと各方面から話はあったんだよ。これまで返答は見送ってきたけれど。だが、今回は相手が相手だから、私もお前も選択しなければならない。」
真剣な顔つきになった父と、今この場に居る朽木隊長。
ということは、その相手というのは。


「内々ではあるが、朽木家の家臣から打診が来ている。今ここに居られる朽木様と見合いをして欲しい、と。」
家臣から、という言葉と、先ほどの二人のやり取り。
それから察するに、朽木家の家臣が話を進めようとしている・・・?


『私が、朽木隊長と・・・ですか・・・。』
「嫌ならば嫌だと断れば良い。家臣たちが勝手に話を進めているだけのことだ。断ったところで朽木家と漣家の関係が悪くなることもない。」
『何故、それを選択するのが私なのでしょう?朽木家の当主は朽木隊長では?』


「・・・私は緋真やルキアを朽木家に入れる際、無理を通している。それ故、婚姻については家臣に強く出られぬ。私個人の意思など、朽木家当主の立場があっては関係ない。だが、そなたが嫌だと言えば、私も家臣を止めることくらいは出来る。」
淡々と述べる朽木隊長の瞳からは、どうしたいのかが読み取れそうもない。


「私とそなたに関する噂も耳に入っているだろう。私たちにその意思があろうとなかろうと、嫌でも注目されているのだ。それ故、接点を持たぬようにしてきたのだが、今日のことでそうもいかなくなってしまったのだ。」
『では、私のせいで、朽木隊長まで巻き込まれてしまったのですね・・・。』


「それは違う。危険に晒されている隊士を助けるのは隊長として当然の責務だ。今回の件は、また別の話だ。そなたのせいなどでは断じてない。」
きっぱりと言い切った朽木隊長は、それから目を伏せた。
けれど、そうだとしても、やはり私は、選ばねばならないのだ。


「・・・咲夜。私はお前の選択を信じるよ。お前がどのような道を選んでも、漣家が揺らぐことはないから安心しなさい。この件については、出来る限り返答を先延ばしにするように取り計らおう。朽木様もそれでよろしいでしょうか?」
「あぁ。苦労をかけて申し訳ない。」


「構いません。朽木様に恩を売っておくのも悪くありませんので。・・・さて、では私は所用がございますので、この辺で失礼させていただきます。」
重苦しい空気を少しでも軽くしようとしたらしい父は、そう朗らかに言って病室を出て行った。



2020.03.26
Mに続きます。


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