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■ 無意識的意識K

『ん・・・。』
暗闇から浮上して、瞼の裏に伝わってくる光に眉を顰める。
「気が付きましたか、漣さん。」
穏やかな声に瞼を開けば、顔を覗き込んでいたのは卯ノ花隊長だった。


『う、のはな、隊長・・・?』
「無茶をしたようですね、漣さん。朽木隊長から話は伺いました。治療は済んでいますが、一週間は安静にしていてくださいね。」
そんな言葉に頷きを返せば、卯ノ花隊長は微笑みを見せる。


「朽木隊長が運び込んできたと聞いて何事かと驚きました。随分と無茶をしたようですね。」
『申し訳ありません。朽木隊長だけでなく、卯ノ花隊長にまでご迷惑をお掛けして・・・。』


「お礼は朽木隊長にお伝えください。四番隊に到着したときにはすでに霊圧の回復が済んでいましたから、魂魄への負担も最小限に抑えることが出来ました。それもこれも朽木隊長のお陰です。」
そう言った卯ノ花隊長は何故か楽しげな瞳をしている。


『あの、朽木隊長は・・・。』
腕の中で眠り込んでしまった私に呆れてはいなかっただろうか。
隊長に身を任せてその温もりを改めて感じた瞬間、心の底から安堵して全身から力が抜けてしまったのだ。
ふわりと感じた隊長の香りが昔を思い出させて、その温もりがあれは夢ではなかったと伝えてきて、本当に安心したのだ。


「事後処理のため、すぐに隊舎へと戻られましたが、貴女のことを心配している様子でした。父君への連絡も朽木隊長が引き受けてくださいました。」
『本当に、何から何まで・・・。』
「漣さんは朽木隊長に大切にされているのですね。お陰でこれから騒がしくなりそうですが。」


『それは、どういう・・・?』
首を傾げれば、卯ノ花隊長はそのうち解るとだけ言い残して病室を出て行った。
一人になった病室で、窓の外を眺める。
すでに陽が傾いていて、空は茜色に染まっていた。


隊長の霊圧が注がれたあの時。
まるで、乾いた身体に水が染み渡るように、隊長の霊圧が身体に馴染んでいった・・・。
治癒能力がある者が相手ならともかく、他者に霊圧を注がれれば違和感が伴うものだ。
それも相当な量の霊圧を一気に注がれたはずなのに、私の身体はそれを余すことなく受け入れている。


まだ、身体の中に朽木隊長の霊圧を感じる・・・。
他人の霊圧を自分の中に感じるのは何だか変な感じだ。
けれどやはり、嫌悪感など微塵も感じない。
むしろ、その霊圧に安堵しているほどだ。


『眠ってしまうなんて、勿体ないことをしたかしら・・・。』
思わず呟いた言葉に苦笑する。
あの朽木隊長に抱きかかえられるなど、かなり貴重な体験だったはずだ。
そんな貴重な時間を、私は眠って過ごしてしまったのだ。


それはそれとして。
窓の外をから視線を外して、己の右腕を見る。
その腕にある見事な細工を施された霊圧制御装置を、何故朽木隊長が持っていたのか。
朽木隊長ならば、霊圧制御装置などなくとも十二分に霊圧の制御が出来る。


説明は後だと言われたけれど、隊長が一隊士のためだけにそうそう時間は取れないだろう。
隊長から直接説明をしてもらえるのは望み薄だろう。
良くて副隊長から説明される程度なのではないか。


いや、それよりも。
父に話を聞くほうが話が早いだろう。
もしかしたら私のことを事前に朽木隊長に伝えていたのかもしれない。
父は何かと朽木隊長との接点が多いから、私に内緒で伝えることも出来たはずだ。


病室の天井を眺めながらぼんやりと考え込んでいると、ふと、誰かの気配を感じる。
視線をそちらへ向ければ、病室の入り口から顔を出したのは父だった。
私の視線に気づいた父は安心したように笑って後ろに居る誰かに深々と頭を下げた。
病室に入って来た父に続いて見えたその人の姿に、己の予想が外れたことを知る。



2020.03.26
Lに続きます。


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