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■ 無意識的意識J

そろそろ到着かというところで、何かに叩きつけられたような音とともに伝令神機の通信がふつりと途絶えた。
「おい、漣!!どうした!応答しろ!!」
恋次が通信を試みるも、聞こえてくるのは無機質な音だけで。


漣・・・。
彼女の名前を心の中で呼んだ刹那、白哉は突如巨大な霊圧を感じ取る。
後ろを走る恋次もそれを感じたらしく、二人で足を速めた。
この霊圧は、漣の霊圧だ・・・。
彼女の霊圧が上昇しているということは、何らかの理由で霊圧制御装置が外されたということ。


「・・・恋次。私は先に行く。」
それだけ言って地面を蹴る。
「ちょ、隊長!?」
恋次もまた速力を上げたが、気にせず漣の霊圧を感じる方へと向かった。


白哉が到着したのと、咲夜が虚を昇華したのが殆ど同時。
その一瞬の後、安堵した表情で何かを呟いた彼女の霊圧がさらに上昇して暴走状態になる。
ぐらり、と揺れた彼女を見て、反射的に体が動いた。


「無理はするなと、言ったはずだが。」
彼女の身体を受け止めて、白哉は自身の霊圧を彼女に注ぎ込む。
『朽木、隊長・・・。』
弱々しいその声と、力なく斬魄刀を握っている手が彼女の消耗の激しさを表していた。


「霊圧制御装置が破損したのか。」
『はい・・・。逃げ遅れた子どもを庇って、その時に・・・。』
「そうか。ではこれを着けておけ。」
言って白哉は昨日渡された巾着を取り出す。
その中から出てきたものを見て、咲夜は目を丸くした。


『何故、朽木隊長がこんな物を・・・?』
出てきた腕飾りは一見普通のそれだが、玉の中に霊圧制御装置が組み込まれている。
それを腕に取り付ければ、彼女の霊圧が封じられた。
同時に形が崩れていた彼女の斬魄刀もしん、と鎮まる。


「まさかこれをこんなに早く使うことになるとはな。」
漣の当主に感謝せねばなるまい。
親心とはいえ、用意のいいことだ。
常に最悪の事態を想定しているあたり、らしいといえばらしいが。


『あの、一体、何故・・・。』
「説明は後だ。先に四番隊で治療を受けろ。」
『え、あ、きゃあ!?』
問答無用で抱き上げれば、彼女は小さく悲鳴をあげて、それから小さく表情を歪める。


「体を強く打ち付けたのだろう。」
『で、ですが、これ以上朽木隊長のお手を煩わせる訳には参りません。歩けますので、どうかお降ろし下さい。』
「断る。怪我はともかく、霊圧の消耗が激しい。一番の重傷者はそなたであろう。」


『霊圧が抑えられたので、私はもう平気です。どうか、手を貸すのならば他の隊士に・・・。』
「この私がそう判断している。もし、私の腕の中から逃げ出せるほどの力が残っているのならば、話は別だが。」


無謀にも何とか降りようと身体を捩った彼女に溜息を吐いて、白哉はその体を確りと支える。
それに抗議をするように見上げてきた彼女の顔が目の前にあって、一瞬の後、それとなく目を逸らした。


「・・・無駄な抵抗をせずに大人しく運ばれていろ。」
『しかし・・・。』
「救護班がそのうち到着する。他の者はあれらに任せておけばよい。」
降ろす気はないとばかりに言えば、彼女はそれを理解したらしい。


『・・・で、では、真に恐縮ではありますが、お手を、お借りいたします。』
その身を小さくした彼女は、申し訳なさそうに、けれどどこか納得していない様子でそう言った。
漸く折れたかと内心苦笑して、彼女の斬魄刀をその鞘に収める。


「では戻るぞ。・・・恋次。後は任せる。」
隊士たちに声を掛けている恋次に言えば、振り向いた己の副官はこちらを凝視する。
「ど、どうしたんすか?漣はそんなに重症なんすか?」
「平隊士があれ程の霊圧を放出して、無傷であるわけがなかろう。消耗が激しい故、私がこのまま連れ帰る。」


呆れた様子で言い捨てて去っていく己の隊長を呆然と見送りながら、恋次はルキアの言葉を思い出す。
兄様はきっと無自覚なのだ。
昨日の茶会の一件を伝えてきたルキアは、何やら愉しげにそう言っていた。


「あれで、無自覚だと・・・?」
恋次の呟きに、そこかしこから苦笑が聞こえてくる。
気絶していた隊士たちも目を覚まして、己の隊長と漣の姿を目撃していたらしい。
遠くなっていくその姿を、恋次たちは何とも言えない気分で見送るのだった。



2020.03.26
Kに続きます。


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