Short
■ 無意識的意識H

無茶はするなよ。
咲夜は斬魄刀を握りしめながら、昨日の上司の言葉を思い出す。
目の前には巨大な霊圧を放っている虚。
ちらりと視線を巡らせれば、血を流しながら地面に伏している同僚たち。


朽木隊長の第六感が働いたからこその、昨日の言葉だったのだろうか・・・。
そんなことを内心で呟きつつ、咲夜は地面を蹴る。
虚の背後に回って切り込むも、固い表皮に斬撃が弾き返された。
動きの速さは己が上回っているが、最小限に制御した霊圧では傷ひとつ付けることが出来なかった。


任務は偵察だけのはずだった。
だが、目の前で流魂街の民を襲われては、出ていかぬという選択肢はなかった。
虚の霊圧から、偵察にやって来た隊士だけでは対応出来ないだろうと応援要請だけ出して救出に向かったのだが・・・。


虚の力量を見誤ったわね・・・。
先ほどから伝令神機が鳴り響いているが、隊士の救出に精一杯で、応答する余裕などない。
息も絶え絶えになって地面に伏していた一人が、懐から飛び出した伝令神機に手を伸ばす。


その様子に気付いた虚が、伝令神機を掴んで操作しようとした隊士に向かって腕を振り上げた。
身体が動いたのは、殆ど条件反射で。
虚と隊士の間に滑り込んだ刹那、凄まじい衝撃に、斬魄刀の悲鳴が聞こえた気がした。


『漣です!負傷者多数!早急に応援を願います!!』
伝令神機の向こう側に届けとばかりに、大声を上げる。
何か応答があったようだが、よく聞き取れない。
けれど、その声が朽木隊長だった気がして。


このままでは、次の攻撃を受ければ斬魄刀が折れてしまう・・・。
この状況を何とか乗り切るには、一つしか方法が思い浮かばなかった。
霊圧制御装置を外せば、一時的にではあるが巨大な霊圧を開放できる。
ただ、それは一瞬のことで、その一瞬の間に蹴りをつけなければ命を落とす選択だ。


虚がもう一度腕を振り上げた隙に、隊士を抱えて距離を取る。
岩陰に隊士を置いて、彼が手にしていた伝令神機を手に取った。
まず聞こえてきたのは、阿散井副隊長の声。
続いて聞こえてきたのは、朽木隊長の声だった。


「漣。状況は?」
『現在戦力に数えられるのは、私一人です。流魂街の民を他の場所に避難させていたために虚の攻撃を逃れました。他の隊士は席官を含め戦闘不能です。』
そう答えながら、咲夜は虚の攻撃が隊士たちに当たらぬように場所を移動する。


「そうか。私と恋次でそちらに向かっている。到着まであと数分だ。」
「それまで持ち堪えろよ、漣。」
『最善を尽くしますが、虚の表皮が硬く、斬り込んでも弾き返されました。前回の技局の調査以降、相当数の民、もしくは虚を喰っていると思われます。』


「四番隊への救護班出動要請は済んでいる。虚討伐は我々が行う。隊士の救出を優先させよ。」
『はい、朽木隊長。』
「通信は繋げたままにしておく。何かあればすぐに俺たちに伝えてこい。」


やはり、朽木隊長と阿散井副隊長は流石だ。
伝令神機からは彼らの声と共に風を切る音が聞こえてくる。
それは、恐ろしい速さで此方に向かっている証拠。
けれど彼らは息切れひとつしていない。


「漣。」
『はい?』
「息が上がっているな。無茶はするなよ。」
呼吸の乱れを隠していたはずなのに、朽木隊長に易々と見抜かれて内心苦笑する。


『お二方が到着されるまで、幾分かの無茶はお許しください。』
「無茶すること前提かよ・・・ま、仕方ねぇけど。」
「恋次。急ぐぞ。」
「はい、朽木隊長!」


隊長たちの到着まであと数分。
虚はただ一人動ける私を標的にしている。
私が動き続けて虚を惹きつければいい。
そう思った瞬間。


視界の端に入り込んできた小さな人影。
まだ、避難していない民が居たなんて。
そう思うのと同時に地面を蹴る。
そんな私目掛けて、虚が腕を振り上げた。



2020.03.26
Iに続きます。


[ prev / next ]
top
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -