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■ 無意識的意識G

『・・・申し訳ございません、朽木隊長。先ほどのご無礼、どうかお許しください。もし怒りが収まらぬというのであれば、この私がその責めを負わせていただきます。』
浅井家の二人を見送った彼女は、そう言って深々と頭を下げた。
彼女の声からは、先ほどの冷たさが消えている。


漣家当主の言ったとおりだ。
目の前で繰り広げられた先ほどのやり取りに、白哉は内心苦笑する。
これでは確かに心配の必要がない。
彼女が先に怒ったことで、私の怒りを抑えてしまったのだから。


「構わぬ。そなたのお陰で私の怒りまで収まってしまった。」
苦笑を漏らせば彼女は表情を緩めて。
『お役に立てたのならば、嬉しく思います。』
少しだけはにかんだその表情は、昔彼女に指導したときと変わっていない。


「今日は無理を言って済まなかったな。不愉快な思いもしたことだろう。」
『あの次期当主のことならば、今に始まったことではありませんのでご心配なく。あの方は単に私が気に入らないのです。』
慣れているとでも言わんばかりに、彼女は苦笑を漏らした。


「・・・そなたは、気にしないのだな。」
高貴な身でありながら死神になったことで、周りから好奇の視線に晒されることを。
『どういう意味ですか?』
首を傾げた彼女に首を振って辺りを見回せば、いつの間にか客人は彼女だけとなっている。


「そなたが最後のようだ。邸まで送らせよう。」
『いえ。お気遣いだけ頂いておきます。今日はこれから隊舎に戻り、明日の任務に備えなければなりませんので。』
頭を下げて早々に踵を返した彼女の腕を取ったのは、殆ど無意識だった。


『朽木隊長・・・?』
彼女の戸惑ったような声に、ルキアや片付けのために入って来ていた使用人たちの視線が集まる。
彼らの瞳が大きく開かれたのが見えて、しまった、と内心後悔した。
どう見てもこの状況は私が彼女を引き留めているようにしか見えない。


「・・・・・・今日は、良くやってくれた。礼を言う。明日は偵察の任務だったな。何かあればすぐに連絡しろ。私も明日は隊舎に居る。無茶はするなよ。」
『はい。心得ております。』
彼女の言葉に頷いて腕を離せば、彼女は再び頭を下げて部屋を出て行った。


「・・・あの方が、漣家の咲夜姫なのですか。」
そばに寄って来ていたらしいルキアの言葉に、頷きを返す。
「控えめな身なりをしてはおりましたが、目を引く姫君ですね。容姿もですが、高潔さと聡明さが滲み出ているというか。」


「そうだな。私も目が離せぬ。」
「え?兄様?それは、どういう・・・。」
「何がだ?」
「いえ、その・・・何でも、ありませぬ。」


何とも言えない顔をしたルキアに内心で首を傾げつつも、白哉は広間を後にする。
彼はまだ気付いていない。
先ほどの無意識な行動と、己の言葉の意味を。
そんな様子の兄に、自覚するまで待つのが得策だろう、とルキアは見守ることを決意したのだった。



2020.03.26
Hに続きます。


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