Short
■ 無意識的意識C

「まさか貴女が私の付き人役なの?信じられないわ。」
朽木家の茶会当日、浅井家の姫君が開口一番に言い放ったのがこの言葉である。
私だって任務でなければこんな場所には出てこなかった・・・。
あの方は一体、何を考えて私にこの任務を与えたのだろうか。


阿散井副隊長に朽木家の茶会に出席して欲しいと言われて、とりあえず父に確認すると返事を保留した。
けれど、邸に帰ると広間には呉服屋が広げたらしい反物が其処此処に転がっていて。
その中心には、両親、次期当主である兄、娘を連れて遊びに来ていたらしい姉。


何となく嫌な予感がしつつも彼らに近づいていくと、私に気付いた彼らはこちらを見て。
朽木様には、私から参加させていただく旨の返事をしておいたよ。
任務とはいえ、指名されるなんて名誉なことじゃないか。
ねぇ咲夜、これなんてどう?


彼らの様子を見る限り、私は否応なく強制参加らしい。
まさか、朽木隊長が先回りして話を通しているとは。
あの忙しい隊長業務の合間を縫ってきたのだろうが、そこまでする理由がよく解らない。
首を傾げていれば、いつの間にか傍にやって来ていた姉が反物を合わせてくる。


希望があれば他の反物も用意する、という呉服屋の申し出に、いつもより控えめなものを、とだけ言い残して、逃げるように廊下に出た。
朽木家の茶会に参加するのはともかく、姉の着せ替え人形になるのは御免である。
あの姉は死覇装にまで装飾を付けようとする人だから。
父と兄が着道楽なのは、絶対にあの姉のせいだ・・・。


それはともかくとして、体調を崩した母に代わって一度だけ朽木家の茶会に参加したことがあるから、どのような雰囲気であるかは解っている。
大勢の参加者に紛れてしまえば、朽木家の方と挨拶をすることも難しい。
だから、茶会に参加したところであの方との接点はないはずだ。


・・・隊長もきっと、そう読んで私を参加させることにしたのだろう。
それにしても、相手は浅井家の姫。
何度か茶会で一緒になったことがあるが、作法に問題はないはず。
この付き人役を、という依頼には、朽木隊長とお近づきになりたいという意図が含まれているのだろう。


だから、つまり、私は、浅井家の姫からすれば、競争相手という訳で。
それだけでも気が重くて逃げ出したくなるというのに、開口一番が先ほどの言葉である。
この姫君は気位が高くて、元々苦手とするタイプだ。
それを知ってか知らずか、勝手に承諾をした父が恨めしい。


『本日は六番隊の死神として任務で此方に参加させていただいております。浅井家の姫君であれば恙なく茶会を終えられるかと存じますが、何かあればお申し付けくださいませ。』
姫君の言葉を受け流して一礼するも、姫は機嫌が悪くなったらしい。


「お父様の嘘つき。もしかしたら白哉様が直々にお相手してくださるかもしれない、なんて言っていたくせに。貴女が近くにいたんじゃ白哉様に近づくに近づけないじゃない。」
・・・なるほど。
朽木隊長はそれを狙って私に任務を回してきたのか。


私も、そしておそらくこの姫君も、婚約者候補として名前が挙がっているはずだ。
この姫君のことだから、何らかの形で朽木隊長に接触を図ろうとするだろう。
けれど、この姫君のことだから、自分と同じように候補として名前が挙がっている私を自分と接触させまいとすることを、あの隊長は解っていたのではないか。


「茶会が始まったら早々にどこかへ行ってくださって構わないわ。」
『それは致しかねます。浅井家の当主様からのご依頼は、姫君の「護衛」にございます故。』
「護衛だなんてただの建前ということぐらい、貴女も解っているはずよ。それとも、そんなに私を白哉様から遠ざけたいのかしら?」


『先ほども申し上げましたが、今の私は六番隊の死神として此処に居ります。六番隊の隊士であれば、上官からの命令に従うのは当然のこと。意図が何であれ、護衛と言われれば護衛として任務を果たさねばなりません。私のことが気に入らないというのは百も承知ですが、どうか、抑えていただきとうございます。』


「・・・ふん。その言葉の何処までが本音なのかしら。まぁ良いわ。それなら死神の任務としてこの場に居ることは忘れないで頂戴。死神として此処に居る以上、貴女が漣家の姫君であることは関係ないということよ。」
『勿論にございます。』


とりあえずこれで、姫君の傍に居ることは出来そうだ。
けれど、と咲夜はそれとなく広間を見回す。
八番隊の参加者は癖のある貴族たちに囲まれているし、六番隊の参加者も自身の家のために挨拶回りで忙しくしている。


・・・助け舟は期待できなさそうね。
朽木隊長はもちろんのこと、朽木家の皆様も次から次へとやってくる貴族たちへの対応に追われている。
一緒にやって来た父はあっという間に囲まれて姿すら見えない。


任務を放棄したところで、朽木隊長がそれを見ていられるはずもなく。
浅井家の姫君のお言葉に甘えて帰ってしまっても良かったかもしれない、なんて。
もっとも、阿散井副隊長直々(というより、隊長直々というほうが近いかもしれない)に任務を与えられたからそんなことは出来ないのだけれど。


憂鬱な気分になりつつも、咲夜は着物の中に忍ばせている斬魄刀に触れる。
当然、任務なのだから朽木隊長の許可は取ってある。
とはいえ、他の参加者がそれを見たら騒ぎ立てるのは間違いない。
でも、己の斬魄刀に触れていると少しだけ気分が和らいで。


任務とはいえこの姫君と一緒に居るのは息が詰まるけれど、彼女の影に隠れていられる分、気楽な立場というものね。
内心で呟いて、咲夜はなるべく俯き加減になりながら護衛対象の後ろに控えていることにしたのだった。



2020.03.26
Dに続きます。


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