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■ 無意識的意識@

朽木白哉の婚約者候補が護廷十三隊に在籍しているらしい。
そんな噂がどこからともなく流れてきて、白哉本人の耳に入って来たのが先日のこと。
今のところ正面からその噂について質問してくる輩は居ない。
だが仮に質問されたとしても、白哉は今のところ曖昧な答えしか持ち合わせておらず、頭を悩ませているのだった。


「・・・本日の報告は以上です。」
「そうか。手間をかけさせたな。任務に同行した者たちに今日は早く上がるように伝えておけ。」
「お気遣いありがとうございます。では、私はこれで失礼します。」


隊主室を出ていく席官を見送って、白哉は窓に視線を移す。
すると、廊下を通りかかった女性隊士を見つけて、思わず溜め息を吐いた。
彼女の名は、漣咲夜。
六番隊の平隊士である。


・・・また一人で稽古をするつもりか。
これでは先ほどの席官と入れ違いになって、彼女へ伝言は届かないだろう。
此処から声を掛ければ届くのだから自分で直接伝えればいいのは解っている。
だが、隊舎内で彼女と接触するのは憚られた。


朽木白哉の婚約者候補。
彼女がその内の一人であることは間違いない。
上流貴族漣家の末の姫。
生まれも育ちも申し分ない。


その上、彼女と自分は面識がある。
所用で漣家を訪れた際、庭で木刀を振るっていた彼女を見かけて、その構えに口を出してしまったのだ。
それからすぐに構えを修正した彼女の呑み込みの速さに、つい、指導までしてしまった。


彼女との直接の接点はそれだけ。
それだけのはずだったのだが、数年後、六番隊への入隊者の名簿に彼女の名前があった。
時を同じくして家臣から上がってきた縁談の中にも、彼女の名前があった。
それからさらに数年を経て、何処から漏れたのか、婚約者候補が護廷隊に居る、という噂が流れてきたのだった。


実際、彼女が有力な婚約者候補であることは間違いない。
家柄はもちろん、彼女のそのおっとりとした人柄も、その中にある芯の強さも、白哉自身認めている。
直接の接点はないものの、部下である彼女に関して良い話は耳にしても悪い話は聞こえてこない。


斬拳走鬼のどれをとっても、彼女の動きには無駄がない。
舞うように刀を振るう彼女のそれは、白哉でさえ美しいと感じる。
書類仕事をさせれば、流石に上流貴族の姫、その流麗な文字で、これまた無駄のない書類が提出されてくる。


席官に空きが出れば、彼女の名前も候補として挙がってくる。
だが、白哉は彼女の霊圧がさほど大きくはないことを理由に、彼女の席官入りをそれとなく阻んでいた。
当の彼女も、席官入りを望んでいないらしく、それがまた白哉を悩ませている。


直接本人に理由を聞けばいいのだが、彼女と接触すれば、其処此処に居る朽木家の情報網から家臣たちへ情報が流れるのは明白で。
接点があると解れば、家臣たちが縁談を進めようとするのは想像するに易い。
だからこそ白哉は、彼女に限らず婚約者候補となっている姫たちとの接触を避けているのだった。


「だが、このままという訳にもいくまい・・・。」
思わず漏らした独り言とため息。
日に日に増しているように思う家臣からの縁談を、という声。
さらには噂まで流れ始めている。


隊長としても、彼女ほどの人材には経験を積ませたい。
だが、経験を積ませるとなると、席官の下につけさせて任務に行かせる回数がさらに増えることになる。
そうなれば、今以上に彼女の情報が己の耳に届いてしまう。
届いてしまえば、そのたびに彼女が婚約者候補であることを思い出し、こうして悶々とする自分が想像できてしまう。


そもそも何故私がこうも悶々としなければならないのか。
いつも見かける彼女は朗らかに微笑んでいることが多いのに、不公平だ。
そんな子ども染みたことまで浮かんできた自分の思考に苦笑する。
先ほどから一切進んでいない筆を置いて、白哉は窓から隊主室を抜け出した。



2020.03.26
Aに続きます。


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