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■ 共謀

「流石漣。その斬魄刀は健在だな。しかも前より霊圧上がってねぇか?」
『そりゃあもう、どこぞの副隊長様が無茶ぶりをしてくれるので。』
「へぇ?あの吉良副隊長がねぇ・・・?」
『今日の任務も本当は三席が出るはずだったんですよ・・・。』


それは五番隊との合同任務でのこと。
五番隊在籍時にお世話になった、というか、よく組まされていた先輩と久しぶりに顔を合わせて、思わず愚痴っぽくなってしまったのだけれども。
その瞬間背後に現れた気配を感じて、しまった、と慌てて口を閉じた。


「何か異論があるのなら、受け付けるよ?」
どうやら私たちの会話はばっちり聞こえていたらしい。
地獄耳、と内心で呟けば、吉良副隊長の視線がちらりと向けられる。
その視線から逃れるようにかつての先輩を見れば、ただ苦笑を返された。


『・・・い、いえ、何も。』
副隊長からの視線に耐えかねて言葉を絞り出せば、そう、と副隊長は興味なさげに頷く。
「それはともかく、この戦況の中、二人で堂々とサボりとは良い度胸だね。」
ぐ、と言葉に詰まったのは先輩も同じらしい。
ちらりと副隊長を見れば、彼は一見穏やかな笑みを浮かべている。


「いや、その、自分たちは、全体の戦況を把握しようと・・・。」
『そ、そうですよ、副隊長!私たちはここから、全体を一度見ようとして・・・。』
二人で取り繕おうとするが、副隊長の瞳は冷ややかで。
またこの瞳だ、と咲夜は内心で呟く。


穏やかで、気弱。
そう噂される吉良副隊長であるが、実際に接してみると実はそうでもない。
彼がそう噂されるようになった原因は、あの隊長の存在があるせいなのではないかと咲夜は感じている。
ついでに言えば、他の副隊長たちの印象が強い、という理由もあるだろう。


何にせよ、副隊長は私に優しくない。
副隊長の性格からして、嫌われている訳ではない・・・と思う。
彼が遠慮なく物言いをするのは、近しい相手にだけ。
嫌いな相手であれば、面倒を避けて辛辣な言葉を呑み込む姿を何度も見ている。


「へぇ?つまり、僕の役割を君たちが代わってくれた、ということだね。」
笑みを深めた副隊長の次の言葉が怖い。
まさに蛇に睨まれた蛙状態である。
嫌な予感がして、冷や汗が一筋流れた。


「それじゃあ、僕はここで休んでいるから、君たちで始末を頼むよ。」
微笑みのまま言い放たれた言葉に頭を抱えたくなる。
ちら、と先輩を見れば、彼はすでに頭を抱えていた。
・・・やっぱり、吉良副隊長は、私に優しくない。


「ほら、早く、行っておいで?隊士たちが苦戦しているようだよ?」
副隊長の視線を辿れば、先ほどまでの陣形が崩れ始めている。
吉良副隊長が抜けたせいで、指揮を執る者が居ないからだ。
私たちの他にも席官が居るには居るが、指揮が行き届いていないのが見て取れた。


『・・・先輩のせいですよ。』
「俺のせいにすんなよ。」
『先に話しかけてきたのは先輩です。』
「あぁ、もう!解ったよ!行けばいいんだろ、行けば!おら、行くぞ、漣!」


副隊長からの視線に耐えきれなくなったらしい先輩は、逃げるように戦闘へと飛び込んでいく。
その背中を追うように駆けだそうとすれば、何故か身体が進まなくて。
締まる首に、襟首を掴まれていることを悟る。


『な、何ですか、副隊長!苦しいじゃないですか!』
「君はもう少し待って。」
『へ?』
思わぬ言葉に振り返るが、副隊長は涼しい顔で戦況を眺めている。


『な、何故ですか?先ほどは二人で行けと・・・。』
「隊長命令さ。」
『隊長命令?』
怪訝な顔をすれば、副隊長は漸く私の襟首を離してくれた。


「平子隊長から、あの彼を本気にさせるか、若しくは席官相当の人物を五番隊に渡すか、どちらかを選べと言われてね。君を引き抜いたこともあって、断れなかったうちの隊長は前者を選択したわけだ。それで、その役目が僕に。」
『なるほど・・・。』


「今日僕が君を任務に入れたのはこのためさ。君と彼は五番隊時代から乱戦になると抜け出して戦況を見ていた、という話を聞いたからね。予定通りに事が進んで良かったよ。あの調子なら、あの程度の虚の討伐など彼にとっては簡単なことだろう。昇進を望んでいないという話だったが、あれでは昇進せざるを得ないだろうね。」


・・・可哀そうな先輩。
こうも簡単に副隊長と隊長に騙されるとは。
いや、知らぬ間に利用された私も私なのだけれど。
それにしたって、無茶ぶりにも程にあると思うのだが。


「おい、漣!早く手伝えよ!」
先輩の叫び声とともに、近くでパキ、という乾いた音が聞こえた。
すると何やら空から不穏な気配が近づいてくる。
恐る恐る見上げれば、大量の虚が押し寄せてきていて。


「わぁ、大変だ。どうやら咲夜も僕の代わりをしないといけないみたいだ。」
そう棒読みで言った副隊長の指先から、ぱらぱらと零れ落ちたのは、撒き餌。
・・・どうやら平子隊長は、本気で先輩を昇進させたいらしい。
そして、我が副隊長殿は、それを利用して、私にも無茶ぶりをしてきたらしい。


「ほら、早くしないと、虚が彼らのほうに流れて行ってしまうよ?そうしたら、君の先輩も隊士たちも困ってしまうね。」
『一応お聞きしますが、副隊長も一緒に行くという選択肢は・・・?』
「僕はさっき、君たち二人に僕の代わりをするように言わなかったかい?」


『・・・・・・やっぱり吉良副隊長って、優しくない。』
思わず出た言葉に吉良副隊長からの鋭い視線が向けられる前に、瞬歩で虚どもの元へ向かう。
射程圏内に隊士が入っていないことを確認して、斬魄刀を鞘から抜いたのだった。



2019.10.21
相も変わらず咲夜さんに対して厳しい吉良くん。
愛情の裏返しなのは言わずもがな。


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