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■ さくら

咲き誇る満開の桜が、太陽の光を反射する。
温い風がその桜並木を通り抜けていく。
ひらり、と花びらが舞い散って。
その柔らかさが己の力の鋭さと正反対で、ほんの少しだけ切なくなった。


『・・・君は、春が嫌いなのか?』
飄々と問うてきた女は、漣咲夜。
いつの間にか隣にやって来ていたらしい彼女は、強者揃いの一番隊で席次を頂く女傑で。
ついでに言えば、護廷十三隊へと同時期に入隊した、いわば同期である。


「・・・咲夜。何故ここに居る。」
彼女の問いには答えずに疑問を口にすれば、彼女は苦笑を漏らす。
『今日は我が一番隊の花見の日でね。これから会場の準備があるのさ。』
そう言って彼女が掲げたのは、希少な酒が入っているであろう酒瓶で。


「随分と余裕があるのだな、一番隊は。」
嫌味を込めて言えば、彼女は困ったように微笑む。
『余裕がないからこその花見だよ。春は何かと忙しいからね。美味い酒でも呑まないとやっていられない。』


「そういうことか。暇なわけではないのだな。」
『他人を暇人みたいに言うなよ・・・。これでも一番隊の席官だぞ・・・。大体、そういう君の方こそ、桜を愛でていられるのだから、余裕があるんじゃないか?』
仕返しとばかりに言われた言葉に、じろりと彼女を見つめた。


「私とてそう暇ではない。息抜き程度だ。」
『息抜きにしては、随分と憂鬱な顔をしていたが。』
「そうか?」
『そうだな・・・まぁ、君は、梅の時期から桜の時期にかけて毎年そんなだが。』


何気なく言われた言葉に、内心苦笑する。
彼女は鋭い。
私自身そう感情を悟らせることなどないはずなのだが。
昔から彼女は他人の感情の機微をよく感じ取る。


「・・・同じ桜でも、私が持つ桜は、鋭い。触れれば私でさえ血を流すことになる。」
それが誇らしくもあり、切なくもある。
花を咲かせた桜の木を見ると、いつもそんなことを考えてしまうのだ。
あの柔らかさが、私にもあったなら、などと余計なことを。


『・・・君は、あの桜が羨ましいんだね。』
ぽつりと呟かれた言葉に彼女を見るが、彼女の視線は桜の木に向けられたままで。
『でも、私は、君の千本桜が好きだ。確かに触れたものを切り裂くが、その鋭さは君の強さを形にしたようで、その鋭さが、美しい。』


「美しい?千本桜がか?」
『あぁ。・・・君は自分の斬魄刀に慣れているからそうは思わないのかもしれないね。けれど、君の斬魄刀は美しいよ。あの無数の刃に包まれたときの光景は、一度見たら鮮明に脳裏に焼き付く。何度思い出しても震えるほど美しい。そして何より、本当の君を見ているような気がするから、私は好きだな。』


「本当の私だと?」
『そう。大きな力を以てして、小さきもの、弱きものを守っている。一片一片に気を配りながら、傷付けないように包み込む。危害を加えるものに対しては容赦なくその力を振るい、目の前に立ちふさがるものがあれば打ち砕く。君の覚悟というか、心意気を見せられているような気分になって、それが、何というか、潔くて、清々しい。』


潔さ。
そして、清々しさ。
己の鋭い斬魄刀が、そんな印象を与えていたとは。
・・・そう感じるのが、彼女だけでないとは言い切れないが。


「そのようなことを言うのは、お前くらいだ。」
呟けば、彼女は笑う。
『まぁな。君が味方であると断言できるから感じられることだ。君が敵だったらと思うと、違う意味で震えるよ。』


笑う彼女の言葉に安堵した自分に、少しだけ呆れる。
それだけの信頼があることが誇らしくなって、先ほどまでの切なさが消えている。
己の単純さに、苦笑を漏らした。
そんな私に彼女は不思議そうな顔をして。


『何を笑っているんだ?』
首を傾げている彼女の手から酒瓶を掬い取って、歩を進める。
『な、それは、駄目だぞ!?総隊長の酒なんだからな!?』
何やら抗議の声を上げている彼女を横目に見て、思わず笑みを零す。


「もっと美味い酒をくれてやる。」
『なんだ?突然どうしたんだ?なぁ、白哉?』
混乱した様子で着いてくる彼女にやはり笑って、お前の信頼が嬉しかったのだ、と内心で呟いた。


晴れた空。
風に舞う桜の花びら。
潔く、清々しい光景。
心を軽くしたその光景の中心に彼女が居て。
己の心の単純さに、やはり苦笑を漏らすのだった。



2019.03.31
桜の木と自分の持つ桜を比較して何となく憂鬱になってしまう白哉さん。
その心をあっという間に晴らしてしまう咲夜さん。
この後、味見と称して呑み始めた二人が、一番隊の花見のことを忘れて山爺に怒られたりするんです、きっと。


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