Short
■ 揶揄

「おのれ、春水・・・。」
唸るような低いその声に、もう何度ため息を吐いたことか。
京楽の悪戯と、それを止められずに頭を抱える十四郎。
そして、物騒な気配を醸し出す、彼らの師。
もはや恒例となりつつあるその様子に、流石の咲夜も呆れているのだが。


此処まで来ると、元柳斎のほうが大人げない気がしてくるから不思議だ・・・。
授業を抜け出したり、寮に酒を持ち込んだり、女生徒に助平さを発揮したり。
元柳斎も元柳斎で、律義というべきか、その都度京楽に拳骨を落とす。
そんな彼らの間に絆と呼ばれるものがあるのは、事実なのだろうけれど。


「いつもすまんな、咲夜。」
毎度のことながら、もう一人の律義な男が苦笑を浮かべつつ謝罪の言葉を述べてくる。
私個人としては、十四郎の守護が第一なので、それ以外は割とどうでもいいのだが。
この謝罪をしてくる私の守護対象に免じて、京楽に助け船を出してやることにした。


『君が謝ることじゃあないよ。』
(そのくらいにしてやれ、元柳斎。それ以上やれば十四郎の中のモノが元柳斎の霊圧に反応して、十四郎の調子が悪くなるぞ。)
念話で話しかければ、振り上げられた元柳斎の拳が動きを止める。


「や、山爺、謝るから!もう許してください!」
その様子を見て取ってか、すかさず謝罪を述べる京楽。
いつも思うことだが、この京楽という男は、相手の心の動きを読む能力に長けている。
その能力と実力を思えば、彼は紛れもなく未来の隊長候補だ。


「俺からもよく言い聞かせますので、そのくらいにしてやっては貰えませんか。」
十四郎にまで言われてしまえば、元柳斎は拳を降ろさないわけにもいかなくなる。
これ以上やれば大人気ないと言われる自覚があるのだろう。
十四郎の言葉に怒りを鎮めて拳を降ろすその姿に、内心で笑った。


「・・・次はないぞ、春水。」
「も、勿論だよ、山爺。もうしないってば!」
じろりと見つめられた京楽は易々と降参の意を示す。
その姿を一瞥して、元柳斎は足音荒くその場を立ち去って行った。


「た、助かったよ、浮竹・・・。」
頭にたんこぶを作りながら情けなく言ったその姿が酷く滑稽で。
これが、京楽家の次男坊だなんて。
随分と長くこちらに居るが、これ程間抜けな京楽家の者は見たことがない。


「お前はもう少し自重しろ。サボりも酒も慎め。」
「えぇ?じゃあ、女の子は?」
「統学院の中では手を出そうとするな。お前なら遊郭でもなんでも外に遊び場があるだろう。」


『十四郎は寛大だな。統学院の外でなら京楽が遊び惚けていても構わないのか。』
揶揄うように言えば、彼はお前までそういう性質の奴だったのか、とでも言いたげな瞳で見つめられる。
その瞳に苦笑を返して、京楽に向き直る。


『程々にしないと、この寛大な十四郎にまで見放されるぞ。』
窘めるように言えば、それは嫌だとばかりに京楽は首を振る。
『それが嫌なら、少しは真面目に授業を受けることだな。』
「君にまでそう言われちゃあ、仕方がないね。」


「咲夜はお前なんかよりずっと真面目だぞ。俺と同じくらい授業に出ているからな。」
「同じくらい、ね。浮竹が休むと何故か咲夜ちゃんまで教室に居ないんだよねぇ。」
ちらり、と視線を向けられるが、素知らぬ顔でその視線から逃れる。
視界の端で京楽が少しだけ詰まらなさそうな表情をするのが見えた。


『気のせいだろう。名ばかりとはいえ、私は漣家の当主だからね。色々とあるのさ。』
「ふぅん?」
『何だ、その目は?』
「いや?何でもないよ。ただ・・・君と初めて会ったのが、統学院だというのが、何となく違和感があるっていうか・・・。」


『それこそ気のせいだろう。今でこそ中流貴族だが、我が漣家は成り上がりだからな。上流貴族である京楽家とはなんの繋がりもない。』
京楽春水。
この男の鋭さはやはり本物だ。
咲夜は言いながら内心で呟く。


「そのはずなんだけどねぇ・・・。」
「お前の気のせいだろう。俺と咲夜はともかく、お前は生粋の貴族だからな。」
『そうだな。こんなに不真面目でも生粋の貴族だからな。同期でなければ一生関わることの出来ない相手だっただろうさ。』


うんうん、と浮竹と二人で頷き合う。
そんな私たちを面白くなさそうに見つめる京楽は、何となく拗ねているようで。
生まれによって線引きをされるのが、嫌なのだろう。
それに浮竹も気付いているらしく、悪戯な瞳がこちらに向けられた。


「さて、咲夜。そんな京楽は置いて、授業に出るか。」
『そうだな。次は確か・・・鬼道だったか。修練場だな。』
「あぁ。行こう。」
二人で修練場に向かおうとすれば、京楽は慌てて着いてくる。


「ちょ、ちょっと待って!僕も行くよ!置いて行かないでよ!」
情けない顔をしているであろう京楽に、くすりと笑う。
く、と隣からも笑いを噛み殺している気配がする。
追いついてきた京楽がやっぱり情けない表情をしているものだから、思わず二人で笑いだしてしまうのだった。



2019.03.10
京楽さんで遊ぶ二人。
そんな二人だからこそ、山爺のげんこつを止めることが出来るのでしょう。
まだ続編があると思われます。


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