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■ 積雪

深々と降る雪を眺めながら、貴方を想う。
見事な庭を覆っていく白い雪。
静かに積もりゆくその光景が、自分の心のようで。
身体が冷えることも忘れて、見入ってしまった。


「・・・何をしている。」
呆れたような声とともに、ふわり、と背中から抱きしめられる。
じんわりと伝わってくる体温に、己の身体が随分冷えていることに漸く気が付いた。
気が付いてしまえば、何だか急に寒さを感じて、身体が震える。


『お、かえりなさいませ、白哉様・・・。』
寒さに声が震えながらも何とか言葉にすれば、呆れたような溜め息が降ってきた。
「冷え切っているではないか。」
『申し訳、ありません・・・。つい、見入ってしまいました・・・。』


「莫迦者。私が早く帰って来たから良いものを・・・。」
小言を言いながらも、私を抱き寄せて包み込むその腕は優しい。
『ふ、ふふ・・・。』
その優しさが嬉しくて、幸せで、笑いが零れる。


「笑い事か。まったく、目を離すといつもこうだ。」
『白哉様がそうやって見守ってくださるから、つい、気が緩んでしまうのです。』
「久しぶりに早く帰ったというのに、妻の出迎えがない私の身にもなってみろ。その上、その妻は縁側で凍えていると来た。」


拗ねたような物言いに、申し訳ないことをしたと思う反面、可愛さが込み上げてきて。
彼のような大人の男性に、可愛いと思うなんて少し可笑しいのだけれど。
そんな彼の顔が見たくて体を動かせば、彼はそれを悟ったようにその腕を緩めた。
振り向くと合わせられた視線は、やはりどこか拗ねていて。


『お帰りなさいませ、白哉様。本日も無事のご帰宅、何よりにございます。』
笑みを向ければ、その瞳が緩んで、微かに口角が上げられる。
その微笑みに見惚れていれば、彼の唇が降ってきて。
一瞬の口付けは、どこか甘くて。


「お前が待っているというのに、帰らぬわけにはいかぬからな。」
『ふふ。そうしてくださいな。白哉様がお帰りにならなければ、私は凍え死んでしまいます。』
甘えるようにすり寄れば、彼は再び私を抱きしめた。


「それは困るな。・・・済まぬ、咲夜。お前を一人にしていると、解っては居るのだが。」
『白哉様にはお勤めがあります故、仕方ありません。こうしていてくださるだけで、十分にございます。』


「お前は物分かりが良すぎる・・・。」
再び拗ねた様子になって、彼は私の首筋にすり寄ってくる。
そんな彼に首を傾げていると、首筋をその唇が掠めて。
小さく悲鳴を上げれば、彼は笑う。


「もう少し、我儘になっても良いのだぞ。」
『白哉様の想いが私に向けられているというのに、これ以上何を望むのです?』
「お前は、満足か。私は、お前との時間が欲しい。お前が足りぬ。」
首筋に当たる吐息がくすぐったい。


『・・・私の心は、この庭のようだと、思っていたのです。』
「どういうことだ?」
『静かに雪が積もるように、白哉様からの愛と、白哉様への愛が、私の心に積もって。この庭が雪に覆われていくように、私の心が、白哉様に覆われていく・・・。』


それほど、貴方が愛おしくて。
そんなことを考えてしまうほど、私の中は貴方で一杯で。
会えない時間が想いを募らせ、私の心を貴方で埋め尽くす。
深々と静かに降り積もる愛情が私を満たしていく。


『こうして白哉様のお傍に居られる時間は、本当に幸せにございます。けれど、白哉様をお待ちしている時間も、私の幸せなのです。白哉様がこうして帰ってきてくださると、知っているから。』
自分が、貴方の帰る場所だと、そう思えるくらい、貴方の愛が伝わっているから。


「そんなことを考えて、私の出迎えを忘れたのだな?お前の中の私に、嫉妬しそうだ。」
率直な言葉に、くすくすと笑う。
『そんなに出迎えて欲しかったのですか?』
「当然だ。いつだって、一番にお前の顔が見たい。」


『では、今後は白哉様を一番に出迎えましょう。ですから、早く帰ってきてくださいね。本音を言えば、毎日お迎えに上がりたいくらい、白哉様に早く会いたいのです。』
雪のように降り積もる愛は、私の心を埋め尽くすけれど。
彼から与えられるその心がいつか溶けてなくなってしまうのではと、不安になる。


「お前の心は有難いが、それはならぬ。」
『何故です?』
「お前を、他の者の目に晒したくない。お前の目に映るのは、私だけで良い。」
囁かれた言葉は、彼の独占欲を滲ませていて。


『ならば、白哉様が早く帰ってきてくだらないと。そうでなければ、私が迎えに行ってしまいますよ?』
「・・・善処する。お前に凍えられるのも、お前を他人に見られるのも、我慢ならぬからな。」


『ふふ。では、私はお帰りをお待ちすることに致しましょう。』
「出来ることなら、温かい部屋で待っていてくれ。私の寿命が縮む。」
懇願するような言葉に思わず笑えば、笑うな、と苦しいくらい抱きしめられて。
けれど、それが愛情表現だと思うと、その苦しさにすら、愛しさを感じてしまうのだった。



2018.12.23
静かに、けれど、確実に降り積もる雪のように、愛情が降り積もる。
それほど思いあえる相手が居たらいいな、なんて。


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