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■ fever

「ねぇ、白哉様?もう一杯いかが?」
「今度私の家でお茶会を開きますの。是非いらしてくださいな。」
「お茶会と言えば、朽木家のお茶会にお邪魔させていただきたいわ。」
「・・・そうか。」


甘ったるい声。
噎せ返るような香り。
注がれ続ける酒。
徐々に近づいてくる姫たちの距離。


毎度のことながら、よくやるものだ・・・。
白哉は内心でため息を吐く。
日々の多忙さと、それに伴う休息の少なさが祟ったのか、身体の調子も悪い気がする。
・・・いや、気がする、という以上に実際は朝から調子が悪い。
この忙しさを思うとそれを認めたくはないのだが。


『・・・毎度のことながら、人気者ですねぇ、朽木隊長は。』
聞こえてきた呑気な声に視線を向ければ、呆れ顔の部下の姿。
『あぁ、この場では、白哉様、のほうがよろしいですか?』
私の視線を受けた彼女は、何ともずれた問いをしてくる。


「・・・好きにしろ。六番隊第三席であろうと、漣家の姫であろうと、そなたは咲夜だ。」
『なるほど。では、遠慮なく。』
にこりと微笑んだ彼女は、言葉の通り遠慮なく姫たちの間をすり抜けて、これまた遠慮なく私の首元に触れる。


「冷たい、手だな・・・。」
『白哉様が熱いのです。今朝から様子がおかしいと思っておりましたが、熱がありますね?』
「・・・そんなことはない。」


『朽木家当主、それも六番隊の隊長まで勤めていらっしゃる方が嘘を吐くとは世も末ですね。こんなことなら朝から布団に沈めておくべきでした。』
小言を言いながらも、彼女はてきぱきと私の帰り支度を始める。
離れていってしまった冷たい手を追いかけたのは、無意識。


『どうしました・・・?』
気が付けば彼女の手を掴んでいた。
彼女は首を傾げながらこちらを見上げてくる。
どうやら本格的に熱が上がって来たらしく、手のひらから伝わる冷たさすら心地良い。


「何故これ程冷たいのだ?」
『白哉様の手が熱いのです。熱がある上にお酒まで呑むなんて。健康管理も貴方のお仕事の一つですよ。隊長業務については良くも悪くも隊長の不在に慣れておりますのでどうにかなりますが、朽木家には貴方の代わりを務められる方がいらっしゃいません。どうか、お体は大切になさってください。』


「そなたは、何故、いつも気付く?」
純粋な疑問をぶつければ、彼女は微笑む。
『何年貴方の傍に居るとお思いですか。私とて、「朽木隊長」も「白哉様」も同じ事です。それに、白哉様だって、いつも気付いてくださるでしょう?』


きっと、それと同じ理由です。
微笑む彼女は、美しい。
そして、気付く。
彼女が来てから、先ほどまで感じていた不愉快さが消えている・・・。


『さぁ、帰りましょう、白哉様。・・・では皆様、我らはこれにて失礼を。』
周りの姫への適当な挨拶のあと、握った手を引かれて、ふらりと立ち上がる。
私の危なげな足元を悟ってか、彼女は私に肩を貸して歩き始めた。
近づいた彼女の香りに、酷く心が穏やかになる。


「この私に肩を貸すのは、そなたくらいだ、咲夜。」
『誰の肩も借りないのは疲れるでしょうから、たまには肩を貸しにいきませんと。』
「そなたには居るのか?肩を借りる相手が。」
『居りますよ。肩を借りる、というよりは、拾い上げられる、という感じですが。』


「誰だ、それは?」
何となく面白くない気持ちになりながら問えば、彼女はくすりと笑う。
『私に肩を貸すことを許してくださるお方です。』
自分に都合のいい返答があった気がして、内心苦笑する。


・・・私らしくないことだ。
この女の言葉に、一喜一憂しているのだから。
それほど、私はこの女が、漣咲夜が欲しいのだ。
いつから傍に居るのかも忘れてしまったほど遠い昔から私の傍に居るこの女が。


「・・・咲夜。」
『はい?』
「傍に居ろ。」
『ふふ。白哉様でも身体の調子が悪いと寂しくなるのですねぇ。でも、ご安心を、白哉様。そんな病人を置いてどこかに行ったりはしませんよ。』


そういう意味で言ったわけではないのだが、とりあえず彼女が看病をしてくれるらしいのでよしとする。
熱にかこつけて三日ほど休養を取ってやろう。
私と彼女が抜けた六番隊は大変だろうが、恋次への良い試練になるだろう。


『白哉様。少なくとも三日はお休みになってください。この頃の忙しさは目を瞠るものがありましたから、熱にかこつけてお休みを頂きましょう。』
「では、そなたも休め。」
『それでは恋次君が大変でしょう。』


「隊長である私が許す。」
『私に拒否権は?』
「隊長命令だ。」
『職権乱用というのですよ、それは。・・・まぁ、いいでしょう。白哉様が叱られるときは、私も一緒に叱られます。』


悪戯に笑った彼女が、眩しい。
熱が上がった気がするのは、体調不良のせいだけではあるまい。
・・・熱が下がったら、伝えよう。
下がることのない彼女への熱が、彼女にうつればいいと、心から願うのだった。



2018.08.20
朝から調子の悪かった白哉さん。
それに気付いた咲夜さんは白哉さんとは幼馴染のような関係で、同じ思考回路があるくらいには付き合いが長いと思われます。
咲夜さんの方が年上かもしれませんね。


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