Short
■ 丘の上の桜

『・・・なんで、なんで六番隊なのー!!!』
丘の上でそう叫ぶ女が一人。
・・・先客がいたのか。
丘の上の桜の木の様子を見に来た白哉は、その叫びを聞いて足を止める。


『なんで!?私は、十三番隊がいいって、あれほど、あれほど言ったのに!!首席は好きなところに行かせてくれるって、言ったのに!!先生の嘘つきー!!』
首席。
その言葉に、白哉は次年度の新入隊士に霊術院を首席で卒業する者の名があったことを思い出す。


確か・・・漣咲夜。
斬拳走鬼の均衡のとれた万能型。
戦いのセンスの高さが、男と女の純粋な膂力の差を上回り、霊術院では敵なし。
中流貴族漣家の姫らしく、教養も高い。
そう名簿に記されていた。


『それも、なんでよりによって六番隊なのよ!六番隊って言ったら、朽木隊長じゃない!何よそれ!なんでわざわざ親が勝手に見合い写真を送った相手のところに行かなきゃならないのよ!私が朽木家に取り入ろうとでも思っていると思われたら、出世の道が閉ざされるわ!』


そういえば、漣家から見合い写真が送られてきていたやもしれぬ。
興味がなかったので見ることすらしていないのだが。
しかし、朽木家とのつながりを欲していないとは、珍しい。
白哉はそう思って、彼女をまじまじと観察した。


『・・・何?そこに誰かいるの?』
問われてとっさに桜の幹の後ろに隠れる。
まじまじと見すぎたか。
・・・いや、なぜ私は隠れているのだ。
さっさと立ち去ればよいものを。


『・・・姿を見られたくないのなら、それでいいわ。でも、ちょっと、私の話をきいてくれる?誰かに話さないと、イライラして駄目になりそうなの。』
彼女は言いながら反対側に座り込んだようだった。
「・・・何か、あったのか。」
『あら、返事をしてくれるのね。優しい人。』
「気まぐれだ。」


『そ。それで十分。・・・私ね、死神になるの。』
勝手に話し始めた彼女に内心で苦笑しつつも、桜の幹に背中を預けて彼女の話を聞くことにした。
「先ほどの叫びを聞く限り、六番隊に配属されるようだな。」


『えぇ。でも、六番隊の隊長は、朽木家歴代最強と謳われるほどの、尸魂界でも有名な方でしょう?』
「・・・そうだな。」
『それも私の父が勝手に見合い写真を送った相手で。』
「そう言っていたな。」


『・・・そういうの、嫌なのよ。』
「嫌、とは?」
『愛だの恋だの言われてもピンとこないし、貴族だからとか言われて甘やかされるのも嫌。私は、私を死神として認めさせて、私の実力を適当に評価して欲しい。流魂街も貴族も関係なく、平等に見て欲しい。』


「六番隊の隊長は、そうではないのか?」
『解らないわ。会ったことなんてないし、姿を見たこともない。』
「解らないのに、六番隊の隊長が嫌なのか?」
『違うわ。六番隊は、隊長が朽木家の方だから、貴族が多い。貴族が多いということは、それだけ気を張らなければならない。私、貴族の上っ面だけの会話は嫌いなの。』


それには同意する。
内心で彼女の言葉に頷いた。
『女のくせにとか、姫のくせにとか言われるのはもうたくさん。耳にタコが出来そうなくらいよ。それに、私には目標にしている人が居るの。』
「目標にしている人?」


『・・・朽木ルキア様。』
ぽつりと言われた名前に、目を丸くする。
「何故、と聞いてもよいか。」
『えぇ。・・・あの方に助けられたことがあるの。美しい斬魄刀で、それを持つあの方自身も美しかった。私もああなりたいと思った。』
彼女の声には憧憬が含まれていた。


『助けていただいた御恩を返したい。そう思って、死神になることを決めたわ。父も母も反対したけれど、家との縁を切る覚悟を示したら、とりあえずは許可してくれた。それから、毎日のように剣を振るって、鬼道を磨いて、瞬歩を磨いた。ルキア様のお力になりたくて、力をつけてきた。それなのに、どうして、十三番隊じゃないの・・・。』


落ち込んだ声。
割り振りをしたのは白哉ではないが、彼女の声に何となく申し訳なくなる。
それから、浮竹からではない、普段のルキアの様子を知ることが出来て、その上それが称賛で、誇らしかった。


「・・・十三番隊に、行きたいか。」
『行きたいわ。』
「では・・・。」
十三番隊に行かせてやる。
そう言おうとしたが、彼女が口を開いた。


『でも!でも、私は六番隊でやって見せるわ。』
凛とした声が響く。
『ルキア様を養子として迎え入れて、妹になさる方ですもの。朽木隊長もきっと、悪い方ではない。傲慢で無表情で無愛想だとかいう話は聞くけれど、それがなんだっていうのよ。むしろそっちの方が信頼できるわ。無駄に笑顔を張り付けているよりはね。』


「・・・そうか。」
『だから、いいの。十三番隊に行きたいのは本当だけれど、六番隊に割り振られたのも何かの縁だわ。それが試練だというのなら、受けて立とうじゃない。・・・運命なんかに、負けてやらないわ。己の立場を恨むことも、己の無力を嘆くこともしない。』
呟くように言った言葉が、小さく響いた。


『・・・よし。考えがまとまったわ。これでいい。』
言いながら立ち上がった気配がした。
『話を聞いてくれて、ありがとう。どこの誰だか知らないし、私も名乗ったりはしないけれど、とっても助かったわ。おかげで私、なんだかやれそうよ。』


「そうか。では、私はもう行く。」
幹から背中を離して、歩を進める。
「・・・その意気だ。それを忘れるな。待っているぞ、漣咲夜。」
小さく呟くと、彼女の耳にその呟きが届いたようだった。


『え・・・?どうして・・・?』
戸惑ったような声が聞こえてくるが、その問いには答えずに歩を進める。
すぐに解る。
内心で呟いて、彼女の入隊を待つことにした。


丘の桜が満開になるころ、入隊式が執り行われる。
白哉の声を聞いた咲夜は、目を丸くして、口をパクパクとさせた。
それを見て笑いを堪えたのは言うに及ぶまい。


そんな二人の出会いを知るのは、丘の上の桜だけ。
その桜はその後も二人の秘密を聞くことになるのだが、それは別の話である。



2016.03.19
白哉さんに愚痴る咲夜さん。
おそらくルキア至上主義。
白哉さんは苦労しそうです。


[ prev / next ]
top
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -